ビグアック大陸
謎の男は、剣を構えたまま、シトラスと対峙していた。その男が姿を見せた時、サララだけがハッとした顔をしたのだが、シトラス、ロック、ジェニファーは気がついていなかった。
男の気合いに、シトラスも剣を取る。
「あんたは、誰だ?」
「俺の名はガルディス。ガルディス・グランディア。勇者シトラス、魔王軍の使者として、お前の実力試させてもらう!」
「魔王軍の使者!?」
ガルディスはいきなり襲いかかって来た。
その剣技は素早い。
シトラスは耐えるものの、追い詰められていく。
背も力も違う。
シトラスはまだ成長期で、現在163㎝。
相手は見た目177㎝という所か。
ちなみにサララは161㎝、ロックは165㎝。ジェニファーは156㎝だ。
「くっ」
斬り込む暇がなく、防戦一方。
ジェニファー達もそのスピードに見ている事しかできない。
相手は明らかに、シトラスだけを狙っている。
ガチッ。
首筋を狙われる。
剣で防いだ。
「どうした、勇者。それがお前の実力じゃないだろう?」
「クソッ!」
腕に力を込め、ガルディスの剣を押し返す。
そして腹を狙って剣を横に振った。
が、
「甘い!」
ガルディスはケガもしてなく、服も切れてない。
逆にシトラスは浅く左手を斬られる。
「うっ」
「シトラス!」
ジェニファーが、シトラスとガルディスの間に入った。
ガルディスは、剣を構えたままジェニファーを見る。
「止めて……。もう止めて……」
ジェニファーは涙をこぼし訴えた。
ガルディスは剣をしまう。
「安心しろ。俺は女と戦う気はない。それにシトラス。お前の実力じゃ、ストーンモンスターは倒せても、魔王軍の幹部達には勝てない」
「何っ!?」
「フッ、また会おう」
ガルディスは、爽やかに髪をかき上げ消えた。
自分に自信があるようだ。
「ちくしょう!」
シトラスが地面を叩く。
悔しさが滲み出ていた。
仲間達が駆け寄る。
「キュアリー!」
ジェニファーが治癒の魔法で、シトラスの怪我を回復させた。
「あの男、魔王軍の使者だって言ってましたね。サララさん」
「え、ええ……」
ロックの言葉に、サララは戸惑いながら返事をする。
「あ〜〜、思い出した!」
突然、ジェニファーが大きな声を出した。
「な、何だ急に、ジェニファー!?」
「シトラス。あたしあの男を見た時、どこかで見た人だなと思ったんだけど、あの人、たまにサララさんと会っていた人だよ」
「何? 本当なの、姉さん」
「え、ええ。偶然出かけていた時に会って、話をしたらいい人だなって……」
「魔王軍の使者とは、知らなかったんだね」
「そう、ね」
動揺しているサララに、シトラスはこれ以上何も聞かなかった。
あの男、確かに魔王軍の使者と名乗ったが、シトラスを倒すような素振りは見せなかった。それに、神父さまの弟さんが言っていた。正とも邪とも言えない気を感じたと。
「シトラス……。あの人……」
「ジェニファー。俺分かんないよ。けど、今は先に進もう」
「うん。そうだね」
シトラスは考えるのを止めた。
次会った時、何か分かるかもしれないし。
ロックは難しい顔をしていた。
「どうしたんだロック?」
「シトラス。オレ何か納得できない。オレのサララさんが、もしかしたら騙されているかも」
「ん? オレの?」
サララが超敏感に反応した。
「ロック。今、何て?」
「あ、違いますサララさん。間違いです。気にしないで下さい」
おいおい、否定してるけど、明らかに動揺してるぞ。
そのパニクりっぷりに、サララはフッと吹き出した。
「ありがとうロック。あなたの気持ちは嬉しい。彼、ガルディスとは何もないの。ただ、話をしただけ」
「そうですか。良かったです。って、サララさんはオレのモノじゃ……」
「あら。オレのモノになってあげてもいいわよ。あなたが望むなら」
「え、ええっ!?」
「フフッ。キスしよっか」
サララがロックに近づく。
ロックは慌ててしりもちをついた。
唇が近い。
ドキン。
目を閉じようとしたその時、サララが離れた。
「フフッ。純粋ね。可愛い」
「ヒドイですよサララさん。オレをからかったんですか?」
「さぁ、どうかしらね」
嘘とも本音ともつかない複雑な女心を、サララはちらつかせた。
シトラスとジェニファーは、
「あ〜、びっくりしたあ。本当にキスするかと思った」
「あたしも〜」
と、目をパチクリ。
サララは何事もなかったかのようにロックを立たせると、颯爽と歩き出した。
シトラス達も後に続く。
とりあえず、二つ目の検問所を目指して。
山を登りきったら、残りは下りだ。
一気に山を駆け降りる。
ドドドドドッ。
スピードが出すぎて、麓の検問所の門にぶつかる所だった。
先頭のシトラスが急ブレーキをかけると、後ろの三人がぶつかって来て転ぶ。
シトラスは潰された。
「痛てててて」
「大丈夫かい、君達?」
役人が駆けつけ、四人を起こす。
「だ、大丈夫です。すみません」
「この下りは急だからね。勢いがつきやすいんだ。やはり対策を考えないと。それより、怪我がなくて良かった」
「はい。ありがとうございます。それと、通行書です」
シトラスが役人の人に通行書を渡す。
それに目を通すと、役人の人は笑った。
「確かに受け取ったよ。勇者シトラスと仲間達。ようこそ、ビグアック大陸へ!」
「えっ、ここが次の大陸なんですか?」
「そう、この検問所を抜けた先が、ビグアック大陸さ。ところで、君達はビグアックの由来を知ってるかい?」
「えっ、由来?」
勇者達は誰も、その由来を知らなかった。ただ、ドグアック大陸と名前が似ているなあと思っただけで。
「実は、山を隔てたドグアック大陸と、ここビグアック大陸は、もともとは一つの繋がった大陸だったんだ。それが、遥か昔の大地震で、大陸が二つに割れて、ドグアックとビグアックになった。この山も、その地震の影響で、地面が隆起してできたという話だよ」
へえ、そうなんだ。それは勉強になる。
それで名前が似ているのかと、シトラス達は納得した。
それではいよいよ、次の大陸へ。
サララが地図を開き確認する。
シトラス達も周りに集まり、覗いた。
確かに、ドグアックとビグアックの間に山の絵がある。
その山の絵の所に、黄色い文字で、Kと書かれていた。さらに、村や町の所に、コインのマークがあれば、そこにはコインの交換所があるという印だ。
「このKって、検問所の事だったのね。わたし、意味が分からなかった」
「うん、姉さん。俺達も知らなかったよ」
「あなたは外に出るのが少なかったから。それに、地図も見ないし」
「うっ。それよりも姉さん。これから何処に行くの?」
「そうねえ……。あ、近くに村があるみたい。ユノ村って書いてある」
「じゃあ、そこに決まり。ジェニファー、ロック、行くぞ!」
「ああ!」
「いいわよ。シトラスが行く所なら」
一行は歩き出す。
ユノ村って、どんな所だろうな。