ウマイーノ街
シトラス達はルナンの住んでいた、もうすぐ緑になるだろう場所を後にして、道沿いにレナン大陸を横断していた。ルナンの記憶だと、この先にウマイーノ街という大きな街があるらしい。その街はとにかく料理が評判で、味自慢のレストランが何軒もある。軽い軽食からお腹いっぱい食べられる店まで、バラエティーはさまざまだ。
そんな話を聞いてたら、何だかお腹が空いてきた。
「あ〜、俺今すぐ食べたくなっちゃったよ〜」
「オレも〜」
「クスッ。食欲旺盛ですねお二人とも。喜ばしい事です。思春期には、たくさん食べて頂かないと。あ、あそこですね」
入り口から大きな街というのが分かる。
物凄く、香ばしい香りが漂って来た。
グウ〜。
「あらあら、入りましょうか。ご主人様」
メインのレストラン以外にも、さまざまな店がある。けど、それらは後にして、まずは腹ごしらえっと。
「あら〜。困りましたわね〜。どのレストランも人気なので、皆さん並んでいますわ〜」
ルナンの言葉通りだ。
人がずら〜っと列を作っている。
あのレストランも、このレストランも。
歩きながら調べてみたが、多分どこも駄目だろう。
懐中時計を見てみると、12時少し回ったばかり。
「ルナン、お昼時だ。人が混んでいても仕方ないよ」
「そうですか。ご主人様に美味しいお料理を食べて頂きたかったのですが……。残念です」
「そんな気を落とさないで。時間をずらして来れば大丈夫だよ」
「シトラスの言う通りよ。あたし、ちょっとぐらいなら待てるよ」
落ち込むルナンを、ジェニファーが励ます。
ロックとティナも頷いた。
「皆さま、ありがとうございます。わたくし、お役に立てなくて……」
「そんな事無いから。あなたがこの街を知ってたから、アタシ達ここに来れたんだし」
「そうだよルナン。あなたのせいじゃないから、悪い方に考える癖、止めた方がいいよ。それにさ、空いていた方が、オレ達落ちついて食べれるから」
「そうですね」
ルナンは笑った。
その時、
「魔物だよ。この街の外に、魔物がいる!」
街の人だろうか。血相を変えた女性が走って来た。
魔物?
シトラス達はその女性に話かけた。
「すいません。魔物がいるって、本当ですか?」
「本当だよ。あたし、食べられるかと思った。一匹だけだったけど、怖かったよ」
「分かりました。俺達が見て来ます」
女性を残し、シトラス達は街の外へ。
そこにいたのは、鶏のモンスターだった。
肉付きのいい、ふっくらと太った、ひょうきんな顔のモンスター。
シトラス達を見つける。
「ん? 何だお前らは。ぼっくはフライ・ドッチキン。ボウッとしてると、食べちゃうぞ」
腹が減っていたシトラス達は、その名前を聞いて、
「う〜。何か美味しそうな名前だな〜」
「あたしもそう思う。シトラス」
「あ〜、オレ頭ん中想像しちゃったよ〜。堪んねえ」
と、よだれを垂らした。
「カ〜ッ。怒った。ぼっくは食い物じゃないぞ!」
フライ・ドッチキンは真っ赤っか。
顔がむくれる。
羽をばたつかせた。
そして、
バサッ。
空中に舞い上がる。
シトラス達は口を開けて驚く。
「おい、シトラス。鶏が飛んだぞ!」
「ああ。びっくりした〜」
「どうやらフライというのは揚げるじゃ無くて、飛ぶという事だったみたいですね。なかなか洒落の利く魔王ですわ」
「ルナン。そんな事言ってる場合じゃないよ。アタシ達が勝手に勘違いしてたんだ。あいつ、来るよ!」
「は、はい!」
ルナンは戦いの邪魔にならないように離れた。
フライ・ドッチキンは口からビームを放った。
シトラス達は全員避ける。
「避けたね。次は当てるよ。そして肉になってもらう」
「いっ!?」
「このビームに当たった生き物は、みんな肉になっちゃうんだ。しかも、骨付き肉に。その後、魔物の餌にする」
「冗談じゃねぇ! 餌にされてたまるか。乱天狩射!」
ロックが放った無数の矢が飛んで行く。
フライ・ドッチキンは簡単に落とされた。
「ギャッ」
「俺も行く!」
シトラスの一撃が当たるかと思われた所で、ジャンプしたフライ・ドッチキンは逃げた。
しかしフライ・ドッチキンって長くて言いにくい。
今からドッチキンだけにする。
「あ〜、逃げられた」
「わぁ危ない。飛ばなきゃあの剣に当たってたよ。それじゃ、んしょ」
ドッチキンは頭を下に向けて急降下して来た。
その体勢でビームを撃つ。
「シールド!」
固まっていたシトラス達だが、ジェニファーの機転で助かった。下りて来るドッチキンを、ラッピーの風が狙う。
「わわわわ」
横に流される。
負けじとドッチキンも羽ばたいた。
が、力及ばず木に激突して墜落する。
「うう……」
フラついているが何とか立つ。
ジェニファーが眺めていた。
こいつ馬鹿か? こんなに近づいて。
構わない。骨付き肉にしてしまおう。
勇んでビームを発射した。
それこそがジェニファーの作戦だった。
彼女は手鏡でビームを跳ね返す。
軌道まで計算したのか、上手くドッチキンに返った。
「ギヤアアアアア!」
ホカホカ、出来立ての骨付き肉がシトラス達の目の前に落ちている。
シトラスはジェニファーをナデナテした。
「ジェニファー。良くやった。ビームを相手に返すなんて、考えたな」
「へへ。シトラス、あたし偉いでしょ?」
「あ〜、偉い偉い。大したもんだ」
「それにしても、自分で自分の技に引っかかるなんて、お間抜けな敵でしたね」
「ルナン。綺麗な見た目に反して、時々毒舌だな……」
「何かおっしゃりました? ご主人様」
「い、いや。それよりこれ」
シトラスが骨付き肉を持ち上げる。
その途端、肉が崩れてストーンに変わった。
予想していた通り。
「やっぱ、こういうオチなんだな……」
「はい」
幻の骨付き肉。
空しくなった。
ルナンが元気を出させようと叫ぶ。
「ほらほら皆さま。そろそろ街に戻りませんか? 幻じゃない、本当の肉が待っていますよ」
そうだ。俺達はこの街に料理を食べに来たんだ。
戦いですっかり忘れてた。
魔物も倒した事だし。
「ルナン。俺、ステーキが食べたい」
「はいご主人様。おすすめのレストランがございますよ」
「わ〜、あたし楽しみ」
「フフッ。こちらですよ」
ルナンの後について街の中へ。
空いているといいなあ。
読者の皆さまへ
いつも読んでくれてありがとうございます。次回更新が少し遅れるかもしれません。申し訳ありませんがお待ち下さい。




