謎の男
水晶玉に手をかざし、じっと真剣な目をしていた神父さまの弟さんが、フッとシトラス達を見た。
「分かったよ。君達はこれからこのドグアックの大陸を抜け、次の大陸を目指すんだ」
「次の大陸って、どう行けばいいのですか?」
サララが尋ねる。
一応地図は持っているが、大陸を渡る方法など書いてない。
「まずこの村から北へ向かうといい。そうすると検問所があるから、そこで通行書を貰うんだ。そして一山越えた所でまた検問所があるはず。通行書をそこの役人に渡せば、次の大陸だよ」
「分かりました。まず、検問所に向かいます。それにしても、一山越えなきゃいけないんですね」
「そう。そこを越えなきゃ、次の大陸に行けないんだ。大変だけどね。何だったら、この村の武器屋とか防具屋を見て、装備を整えるといいよ」
「そうですね。そうさせてもらいます」
「それと、もう一つ気になる事が」
弟さんは表情を変える。
それまで結構笑顔混じりで話していたのに、この時ばかりは悲しげな顔をした。
シトラス達も、何か悪い事が起きるのかと、不安になる。
「ああ。そんな悪い事って訳じゃないんだが、君達が山を越える時、ある男と会うって占いに出てる」
「ある男、ですか?」
「うん。その男は悲しい、複雑な運命を背負っているようだ。正とも邪とも言えない、不思議な気を感じた。それが少し気になったんだ」
「分かりました。その男にも気をつけます」
「ああ、そうするといい」
「あの、ところで……」
シトラス達は肝心な事を忘れていた。
占いをしてもらったんだから、お金を払わないといけない。
一体幾らかかるんだろう。
おそるおそる、シトラスが聞いてみた。
「あの、ここ、お代って……?」
弟さんは笑った。
サララとジェニファーを見る。
「そうだね。お嬢さん達が、パンティを見せてくれたらいいよ」
「えっ!?」
一瞬、その言葉に嫌な気持ちになる女子達だが、
「ああ、冗談冗談。そうだなあ、君達は兄ちゃんの知り合いだから、200コインでいいよ」
「えっ、本当ですか?」
そんな安くていいのかと、シトラスは身を乗り出す。
「いいんだよ。魔王軍と戦っている勇者から、そんなに高いお金取れないでしょ。それに、次会った時、手土産を持って来てもらえばいいから」
「やった! 大ラッキー!」
それにロックとジェニファーが反応する。
「久しぶりに聞いたな。シトラスのその言葉」
「うん。口癖のように言っていたもんね」
大ラッキーとは、シトラスがアルズベルト村で辛い思いをしていた時、自分を鼓舞するように言っていた言葉だ。シトラスいわく、どんな時もラッキーだと思えば、落ち込む事も忘れる。大をつけたのは、より大きな幸運の方が、幸せを掴める気がしたから。ジェニファーとロックという大切な仲間ができて、しばらくは言っていなかったが。
「へえ、大ラッキーか。いい言葉だね。ボクちんも使ってみようかな」
「じゃあ、あたしも〜」
「おいおい、ジェニファーもかよ」
「あら、いいじゃないシトラス。あなただけの特権じゃないのよ。みんなで分け合いましょう」
「わたしも賛成〜!」
「サララさんが言うなら、オレも〜!」
「おいおい……」
占いの館は一気に賑やかになる。
村の人々が、楽しそうだねと、カーテンを開けた。
次の人が待っているならと、シトラス達は占いの館を後にする。
とりあえず、今日は早めに宿に行って休もう。
お腹も空いてきたし。
(明日の事は、明日考えよう)
こういう所、能天気だな。シトラスって。
それが彼の魅力でもあるんだけどね。
という訳で、一行は、宿に向かった。
野宿ではなく、久々のベッドの中で、シトラスは爽やかに目覚めていた。
(あ〜、良く寝た)
伸びをしながら隣のベッドを見る。
ロックが目を開けた。
「おはよう、シトラス。良く寝られたみたいだな」
「お前もな。ロック」
彼らの隣の部屋には、サララとジェニファーが休んでいるはずだ。
二人とも起きただろうか。
支度をして、ドアをノックしてみる。
カチャッ。
二人が出て来た。
寝起きの女子二人も、可愛い。
それに、何とねまき姿。
ドキッ。
シトラスとロックは、顔を赤らめた。
ネグリジェっぽい服。
「おはよう、シトラス。ちょっと待ってて。あたし達、顔を洗って支度してくるね」
「あ、ああ……」
もう少しその姿を堪能したいが、ドアが閉められた。
「お待たせ、シトラス」
いつもの戦闘服だ。
ま、いいか。ジェニファーはミニスカートだし。
シトラスは気持ちを切り替えた。
その後、朝ごはんを頂き、宿を出る。
ジングー村の北の方へ。
まずは検問所だ。
道中、二匹ほどストーンモンスターを倒した。
残念ながら、白い石だ。
本当は灰色、もしくは赤色だったら良かったのに。
「あ、姉さん。あそこが検問所じゃない?」
木でできた大きな門が建つ。
役人が三人いた。
一人は女。
「ここはドグアックの検問所だ。旅の者よ。次の大陸に渡る前に、怪しい物がないか、チェックさせてもらう」
荷物をチェックされる。
服の上からも大まかに。
ジェニファーとサララは、もちろん女の役人が。
「失礼した。怪しい物はないようだ。魔物が人間に化けて襲ってくる場合があるので、チェックはしっかりしろとの王様のお告げなのだ。さぁ、通行書だ。この先は山道だから、気をつけて」
ようやく次の大陸に行く山道に入る。
確か占いだと、この途中で謎の男に会うはず。
山の中腹、広い広場に出る。
ガサッ。
物音がした。
木の陰から、長髪の男が現れる。
シトラスと同じく、青い髪。背が高く、はっきり言ってカッコいい。
「誰?」
シトラスの問いに、男はニッと笑う。
腰の剣を抜いて、構えた。