ジングー村にて
シトラス一行が次に目指す村は、ドグアック城より北の方にあるジングー村。アルズベルトの教会の神父さまの兄弟が、占い師をしているという話で、シトラス達は会いに行く所だった。
神父さまからも、様子を見に行って欲しいと、頼まれていたから。
その道の途中、サララはあるクリスタルを取り出す。
彼女達が旅立つ時に、神父さまが渡してくれた、話ができるというクリスタルだ。
今はちょうどお昼どき。
この時間、神父さまは一時間ほど休憩を取る。
その間は、村の人達も訪れない。
神父さま以外の村の人々と話したくないシトラス達は、この時間を狙って彼と一回話をしていた。
その時は、今自分たちがいる場所と、これからの事を少し話しただけだったが。
そう、ちょうどドグアック城に行く前に。
「こんにちは、神父さま。今日もいい天気ですね」
「おお、サララか。みんなも元気か?」
「はい、相変わらず」
「それは良かった。あれから連絡がなかったから、どうしたものかと思っておったよ。村の者達も心配しておる」
「あれから、村の人達は?」
「うむ。ジェニファーとロックの両親じゃが、最初は泣き続けて家から出て来なかったんじゃ。それが、毎日のようにわしの教会に来るようになっての。子供達の無事を、祈り続けているのじゃ。 村の者達も、励ましてくれておるしの」
「そうですか。わたし達が村を出た意味が、少しはあったという事でしょうか」
「じゃが、まだシトラスに対する風当たりは強いぞ。勇者がいたせいで、お主達が出て行ったという声が根強い」
「そうですか……。まだ、頑張らなくてはいけませんね」
「じゃが、無茶はいかんぞ。倒れてしまっては、元も子もないからの」
「はい!」
「ところで、サララ。お主達があれから何をしていたか、教えてもらえんかの?」
「ええ、神父さま。わたし達は……」
サララは、ドグアック城に行った事。東の塔での戦いの様子を教えた。
「そうか。そんな事が……。しかしジョセフィーヌとは、面白い魔物じゃの」
「はい! 彼女に会った事で、物の見方が変わりました」
「そうじゃな。わしも、こうだという決め付けは、無くしたいものじゃ」
「ええ、是非」
神父さまとの話は、それから10分ほど続いた。
久しぶりに聞いた神父さまの声。
相変わらず優しい。
神父さまは、自分はいつでもシトラス達の味方だから、また話をしようと言ってくれた。
温かい気持ちのまま、ジングー村に向かう。
神父さまの兄弟って、どんな人だろう。
入り口が見えて来た。
〈ようこそジングー村へ!〉
風船と一緒に、看板が飾ってある。
小さな村だが、旅人への歓迎ムード満載だ。
人々は皆、テントで暮らしていた。
道具屋、武器屋、防具屋もある。
宿と書かれたテントもあった。
「へえ。宿屋もあるのか」
「ねぇシトラス。あたし達もたまには宿で休みましょう。野宿、飽きてきた」
「そうだな。いいよね、姉さん」
「ええ。ロックもいい?」
「オレは、サララさんの言う事なら、いつでもオッケーですぅ〜」
「もう、ロックったら」
サララの前で、甘えた声を出すロック。
笑い声が響く。
サララも、そんな彼の事を気に入っていた。
道具屋の側を通る。
店の色っぽいおねーさんが、誘って来た。
「ねぇ坊や達。あたしの店の道具を買わない? あなた達、可愛いから、安くしてあげるわ」
カウンターに胸を乗せる。
その胸の大きさといったら。
ゴクン。
唾を飲み込む。
鼻の下を伸ばしたシトラスとロックの顔を見て、サララとジェニファーはおねーさんの元へ。
「あの、うちの弟達をあまり誘惑しないでもらえます?」
「そうですよ。彼らにはあたし達がいるんですから」
おねーさんは、カウンターから出て来て、まずサララをじっと見る。
そして、
「あら。あなたスタイルいいわねぇ。顔も美人だし、きっと凄くモテるのね。けど、色気はあたしの方が上かも。んで、あなた」
次はジェニファーだ。
「駄目よ。そんな小さい胸じゃ。顔は可愛いのに、そこが残念ね」
それを聞いたジェニファーとサララ。
ピクピクと、血管が浮く。
「あら、わたしだってお色気くらいは、本気になればいくらでも出せるのよ」
「そうですよ。それに成長すれば、あたしの胸も大きくなるんだから」
「ふ〜ん。じゃあ、試してみたいわねぇ」
女三人、喧嘩になるかと思いきや、慌てたシトラスとロックが飛び込んで来た。
彼らはサララとジェニファーの手を握り、引っ張る。
「あ。おねーさん。俺達用があるんで、失礼しますね」
「さよなら、おねーさん。またね」
四人の影は遠くなる。
残ったおねーさんは、
「あ〜あ。ちょっとからかっただけなのに。ま、いっか。可愛いから、許す」
と、笑いながらカウンターの奥に戻った。
一方シトラス達は、
「あのな〜、ジェニファー。何もおねーさんに突っかからなくてもいいだろ」
「サララさんもですよ。どうしたんですか?」
「だって〜。シトラスが鼻の下伸ばしてるの見て、イラッときたんだもん」
「わたしもよ。ロック」
「でもなあ」
「じゃあ、シトラスは、あたしが小さい胸のままでいいって言うの? やっぱり、大きい胸の方がいいんだ」
「誰もそんな事言ってないだろ」
その時、シトラス達の前にあるテントのカーテンが開いた。
「こら。ボクちんの店の前で喧嘩してないで、中に入って占いをしていかないか?」
「えっ!?」
見ると、占いの館と書いてある。
という事は、ここが神父さまの兄弟がやっている占いの館?
ぼうっとするシトラス達を、強引に中に誘う。
「ほらほら、入って勇者。君達が来る事は、分かっていたから」
「えっ、えっ!?」
椅子に座ると、カーテンが閉められ、暗くなる。
ろうそくの明かりだけだ。
占い師の男性の顔を良く見てみる。
神父さまに、口元がよく似ている。
特に笑った顔が。
「君達、アルズベルト村から来たんだよね。水晶玉に映っていたよ。あそこの教会にいる神父は、ボクちんの兄ちゃんなんだ」
やっぱり。
弟さんは、丸っこい顔で、にこやかに笑った。
体型も、ふくよかだ。
「兄ちゃんは、元気かな? そう、良かった。ところで、何を占おうか。この後の未来の事も、少しだけ分かるよ」
「じゃあ、俺達がこれから何処へ向かえばいいのか、占ってもらえますか?」
「いいよ。じゃあ、始めよう」
水晶玉に手をかざす。
何が映っているのだろう。
真剣な、眼差しになる。
「ンムムムム……」
シトラス達も水晶を覗く。
その時、
「ハックション!」
弟さんが、大きなくしゃみをした。
シトラス達は椅子からコケる。
「いや〜。ゴメンゴメン。ても、つかみはオッケーだろう。今度は、真面目にやるから」
気を取り直し、シトラス達は椅子に座り直した。