砂の王国
静寂が支配する、ひっそりと静まり返った部屋の中。
天井からの鎖に両腕を繋がれ、うなだれている男がいた。
上半身をさらけ出してる。
美しい筋肉だ。
床には血の跡がある。
比較的新しい物だ。
身体中は傷だらけ。
どうしたんだろう。制裁でも受けたのか。
人目を避けて、床の隙間から誰か来る。
「ガルディス様……」
目を閉じていた男、ガルディスが顔を上げる。
ゆっくりと、その人物を眺めた。
なかなか、整った顔の女性だ。
お互い小声で話す。
「お前か」
「ガルディス様、平気なのですか? こんなに傷を負われて」
濡らしたタオルで、女性はガルディスの傷をそっと拭く。
「うっ」
染みるのか、ガルディスが苦悶の表情をした。
「も、申し訳ありません」
「いい。それよりお前は、シトラス達の所に行け」
「ガルディス様を置いては行けません」
「平気だ。今までお前はずっと俺の側にいてくれた。今度は、シトラス達の為に、その力を役立ててくれ」
「ガルディス様……」
「ありがとう。お前がいてくれたから、俺は俺のままでいられた」
「いいえ、そんな」
「さあ早く。見張りの者が来る前に、この城から出るんだ」
「……はい」
女性は涙をこらえガルディスの元を去った。
再び、部屋は静かになる。
ガチャン。
勢いよくドアが開く。
入って来たのはドラモスだ。
「今、何か話し声がしたような気がしたが……」
ガルディスは黙ったまま。
ドラモスは部屋の中をぐるっと見回すと、フッと笑みをこぼした。
「まあいい。それより朗報だ。魔王様が、お前をここから出せとおっしゃられた」
「………」
「そう怖い目つきをするな。スーリアはお前を信頼しているようだが、我や魔王様は疑っている。お前が、人間と内通しているんじゃないかとな。だから制裁を加えた。それを出せというのは、魔王様の優しいお心だ。今度こそ、役に立ってみせろ」
「……ああ」
ドラモスは鍵でガルディスの手枷を外した。
二人部屋から出る。
ガルディスは心で思った。
(シトラス。俺はまだ出られない。またお前と出会う時、俺は……)
拳を、強く握った。
シトラス達がリディーム諸島を後にしてから、雨はすっかり上がっていた。彼らが次に目指す事に決めたのは、砂の王国と言われるサウズランド。
リディーム諸島を南下した所にある、砂漠地帯だ。どうせ熱い場所に行くなら早い方がいいというジェニファーの一言で行く事に決まった。
ティナの提案で、一旦グリンズム王国の城下町に寄る。通り道の近くだし、長袖や帽子なども売っているだろう。砂漠では日差しが強い為、肌を出していると火傷をする。ティナはマントを着込み、いつものセクシーな格好は隠れた。ジェニファーも珍しいズボン姿。シトラスとロックも、帽子をかぶっている。
城には立ち寄らなかった。あれからどうなったのか気にはなっているが、寄れば長くなりそうだから。それに、ナジム王子様には、できるだけ頑張ってもらいたい。
カタッ。
砂の王国、サウズランドに到着した。港の人に了承を得て、船を停めさせてもらう。さすがに熱い。想像していた以上だ。久々の交換所でコインをもらった後、四人は村を探して歩き出す。
地図によると、港から真っ直ぐ進めばアクアル村に着くという。しかし、真っ直ぐって言っても砂漠の上じゃ、どこをどう歩いているか分からない。ここは勇者の勘。と、みんながシトラスを頼った。こういう時だけ調子いいな、まったく。シトラスはぶつくさ言いながらも先導で歩く。
そうしてるうちに、三角の、テントらしき物が見えて来た。一つだけじゃない、複数ある。
「あっ、あれがアクアル村じゃない?」
「ジェニファー、一人で行くと危ないわよ」
「分かりましたティナさん、わっ!」
砂に足を取られて転ぶ。
シトラスが追い付いた。
「大丈夫かジェニファー! 怪我は?」
「あ、うん。大丈夫。ごめんシトラス」
「まったく、心配かけるなよ」
シトラスに支えられて立ち上がる。
ドキン。
横顔が、カッコいい。
このまま甘えていたいな。
「ん? どうした?」
「えっ? な、何でもない」
シトラスに見とれていたジェニファーは慌てて顔を逸らす。
顔、赤いかな。
シトラスは気づいてないようだ。
「ジェニファー」
「えっ、何?」
「いや……。また転ぶと危ないから」
シトラスはジェニファーの手をさりげなく握る。
そのまま歩き始めた。
ロックとティナはニヤニヤして見てる。
「やるわねシトラス。さりげなくジェニファーをリードしてる」
「最初の頃に比べたらそうですね。ん〜。けどまだかな〜」
「上手くいかないのも恋愛なのよ。甘い時もあれば酸っぱい時もある。だから面白いの」
「経験者の言葉ですか?」
「さあね〜」
ティナは笑ってそれ以上は言わなかった。
ロックも深入りはしない。
人それぞれだから。
そんなこんなで、村に着いた。
色とりどりのテントが迎えてくれる。
「わあ」
見ていて飽きない。
この村ならではの、珍しい物も売っている。
ターバン。これはいい。
蝶々のイアリング。これも素敵。
スケスケのドレス。これはちょっと。
「ティナさん、ジェニファー、こっちの店はどう?」
男の子達が呼ぶ。
ジェニファー達は向かった。
〈怪しい道具屋〉
何これ?
興味を引かれる。入ってみたい。
けど怖い気もする。
ティナが頷く。
「面白そうじゃん。入ってみよう!」
テントの中に足を入れた。




