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譲れない物その2

「……っ」


 ガルディスの顔のすぐ脇を、ディーブルの伸びた足が通り抜けて行く。

 大魔王はキックを放って来た。

 ガルディスに避けられたのを知るとディーブルは蹴りから突きに変更する。

 また顔を狙って来るか。

 ガルディスは膝を曲げてその拳を避ける。

 ディーブルのパンチはガルディスの頭の上の空を切った。

 ガルディスはチャンスだと思い下から拳を突き上げる。

 アッパーだ。

 ディーブルはギリギリの所で背中を倒しそのアッパーから逃げた。

 ガルディスは姿勢を正す。


 シュッ。


 ディーブルのパンチ、今度は正面から。

 腹を狙ってる。

 ガルディスは両手で受け止めた。

 ディーブルがニッと笑う。

 上段蹴りだ。

 しかも膝を使って。

 その蹴りがもろに横顔に当たり、ガルディスは吹き飛ばされた。


「兄さん!」


 シトラスが叫ぶ。

 床に転がったガルディスは何とか上体を起こしたものの、額からは血が流れていた。

 ガルディスは押さえる。


「大丈夫だ。コブは出来ていない」

「で、でも、冷やさなきゃ」

「そうだな……」


 ガルディスは壁際の荷物を見る。

 水が入った瓶があったはず。

 だが取りに行っている時間は……。


「くくっ」


 ディーブルが膝立ちをしているガルディスを嬉しそうに眺めると、シトラスに近づいた。


「まずい!」


 ガルディスは立ち上がるが頭がクラッとする。

 脳震盪でも起こしてしまうのか。

 なかなかの強烈な一撃をまともに食らったからな。

 が、そんな事を考えているうちにシトラスが。

 その瞬間荷物から二つのオーブが飛び出す。

 一つは優しい青い膜で倒れかけたガルディスを支える。

 もう一つはディーブルの鬪気を受けようとしたシトラスを助け、熱き炎で大魔王を攻撃した。


「アクアリーゼ……。フレイル……」


 額を治療されながらシトラスの下に運ばれるガルディスが呟く。


「痛かったでしょうガルディス。頭を痛めると大変なのですから、少しお休みになって下さい」

「シトラスも、調子が戻るまで離れているんだ」

「す、済みません」


 兄弟は荷物のある壁際に運ばれる。

 精霊達は壁に寄りかからせてくれた。

 ディーブルは突然の精霊の乱入に、ウッと戸惑いの表情を見せる。


「炎の精霊に水の精霊か。戦いの邪魔をしに来たか」

「邪魔? わたし達は別に邪魔をしに現れた訳ではないよ」

「私達は、少しの間シトラス達の手伝いに参ったのです」

「そう。勇者達の力が戻るまでね」


 オーブはディーブルの回りを飛んでいる。


「そうか。ワシは別に何人現れようと構わないがな。それより回りをブンブン飛んでいられると目障りだ。戦うのなら、本体で来たらどうだ?」


 何と、ここにきてフレイルとアクアリーゼを挑発し始めた。

 しかし二体のオーブはその言葉には乗らない。

 ディーブルは続ける。


「分かるぞ。精霊は人間の前にめったに姿を現す事は無い。それに傷を負っているのだろう? ワシがお前達の下に送った魔物のおかげで。そんな姿を、シトラス達の前で晒す訳にいかないからな」

「……!」

「フッ。お前達が動かなくても、ワシはワシの事をやらせてもらう。地上を、この手にする為に」

「フ」


 オーブの動きが止まった。

 それぞれのオーブに重なるように、フレイルとアクアリーゼの本体がシトラス達の前に現れる。


「フレイル……、アクアリーゼ……」


 姿を見せてくれたのか。

 だが大魔王ディーブルの言う通り、フレイルは左肩から肘にかけて、アクアリーゼは右耳の下から首筋にかけて傷を負っていた。


「そ、その傷は……」


 心配するシトラス達へ優しく微笑みかける。


「フ。炎の精霊が火傷を負ってしまうとはね。情けない話だよ」

「私も、魔犬に咬まれてしまいましたわ」

「そ、そんな」

「大丈夫。さっきの君達の話じゃないけど、わたし達にも譲れない物がある」

「ええ。大魔王の言葉で思い出しました。私達は精霊。私達は、自然から力を得ている。大魔王が地上を支配するという事は、その自然さえも闇に染まってしまうという事。たくさんの命が失われる。そんな事は許せません。私達は共存しているのです。それが私達の譲れない物」

「そう。それに人間の前にめったに姿を現す事は無いという話だけど、君達のような〈お気に入り〉は別だからね。ま、これは余談だけど」


 お気に入り、なんて言われて、シトラスとガルディスはちょっと照れる。

 ディーブルは少し怒ったよう。


「良かろう。来るなら来るがいい。精霊との戦いか。ワシも遠慮はせんぞ。それに、炎の精霊よ、さっきの一撃は、イラッと来たぞ」


 ならもう少し当ててやりますか。

 フレイルはディーブルに向かって、炎の鬪気を投げた。











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