龍の対決
「ギー!」
体当たりして自分を魔王城の大地から落としたスカイドラゴンを振り払うように、ブラックドラゴンは翼でスカイドラゴンの頭を叩いた。
スカイドラゴンは横に飛ばされながらも、口から炎を吐きブラックドラゴンを威嚇する。
ブラックドラゴンはその場より高く飛んで炎を避けた。
「キュイ」
当たらなかったか。
スカイドラゴンもそれは分かっていたみたい。
ただシトラスとガルディスが魔王城に突入する時間を稼げれば良かった。
が、ブラックドラゴンの方は本気で襲って来るつもりだろう。
何だか、随分と恨みを抱かせてしまったようだ。
目を見れば分かる。
怒りでらんらんと燃えていた。
そんなに自分に勝ちたかったのか。
ブラックドラゴンから見れば、似たような龍は一匹で充分という事なのだろう。
そういえばブラックドラゴンは、スカイドラゴンを元にして魔王が造り上げたと言っていた。
ならオリジナルであるスカイドラゴンを超えたいと思う気持ちは、少しは理解出来る。
まあ、スカイドラゴン自体にそういう元となった対象は居ないが。
「ギー!」
ブラックドラゴンが吠える。
どうするか。
牙で襲って来るか、それともしっぽか。
意表を突いて翼を羽ばたかせ、後ろに下がった。
「……?」
ブラックドラゴンのその行動に戸惑うスカイドラゴン。
ブラックドラゴンが口を開けた。
あ、やっぱり牙か。
後ろに下がったのは、勢いをつけて突っ込んで来る為だろう。
ならばこちらもガード出来るように準備しておこう。
相手の動きを良く見て。
って、ブラックドラゴンが口を開けたまま止まってしまったよ。
こんな事初めて。
どうするんだ?
えっ、ブラックドラゴンの口の中に何かが。
ゴオオオ。
黒い炎だった。
スカイドラゴンはブラックドラゴンの動きに惑わされ、完全に避けるタイミングを失ってしまう。
まともに受けた。
落下して行く。
ブラックドラゴンは追いかけて来た。
完璧にトドメを刺すまで止めないつもりなのだろう。
スカイドラゴンはキッとブラックドラゴンを睨んだ。
気合いで翼を羽ばたかせ、空中にとどまる。
こんな所で、負けてたまるか。
ブラックドラゴンも、簡単にライバルに死んで欲しくないのか、ニヤッと笑う。
牙を剥き出しにした。
迫って来る。
スカイドラゴンは避けた。
上下逆転。
スカイドラゴンはためらわずブラックドラゴンに噛み付いた。
ブラックドラゴンの身体から血が出る。
「ギー」
一瞬叫ぶ。
が、それでも負けじとしっぽを絡ませて来た。
スカイドラゴンも翼で力強く叩く。
二匹の龍は回転しながら絡まり合い、下へ下へと落下して行った。
「……! ドラゴン!」
スカイドラゴンの危機を感知したのか、魔王城の中に入ったシトラスが、後ろを振り向きつつ立ち止まる。
ここはまだ入り口近く。
襲って来た数匹のドラキューを、ガルディスと共に退治した所だった。
「どうした? シトラス」
ガルディスが短剣を腰に戻しながら聞く。
鬪気の剣ばかり使うのはもったいない。
体力的にも疲れるし。
という訳で一応、もしもの時の為に短剣も用意していた。
「兄さん……、ドラゴンが……」
「ああ」
ガルディスも気付いていたみたい。
しかしガルディスはシトラスが城を出て戻るのを、反対するような顔をした。
「シトラス、行っちゃいけない。ドラゴンだって、そのつもりで俺達を先に逃がしたはずだ」
「兄さん……」
「俺達は大魔王ディーブルの下に向かうんだ。何度も言ったはずだろう? それにスカイドラゴンなら、このくらいで負けはしないさ。信じてやろうぜ。俺達の仲間をよ」
「……うん」
分かってる。
分かってるはずなのに、こう立て続けに仲間を失うと、不安も残る。
だけど、それが俺達の宿命なら。
シトラスは向きを変え、城の奥に続く扉を開ける。
「シトラス……」
ガルディスは駆け寄り、弟の肩をポンと叩いた。
まるで元気づけるように。
「お前がそんな顔してると、ドラゴンに笑われるぞ」
先に扉の中に飛び込み、走り出す。
「うん!」
シトラスも続いた。




