王様の宝物
サララとジェニファー、そしてジョセフィーヌ。
女の子二人と男、いやオネエが睨み合っていた。
「ちょっとあんた達、邪魔よ〜。アタシはそこの坊や達と遊ぶんだから〜」
「だから、シトラスに変な事したら、あたしが許さないんだから!」
「ロックにもね」
「んも〜。どきなさい。アタシ、女の子に興味無いのよ」
ジェニファーとサララは引かない。
ジョセフィーヌの顔に青筋が走った。
「言う事聞かない子達ね〜。分かったわ。アタシがどかせてあ・げ・る」
ジョセフィーヌはタコの足で、ジェニファーとサララを払う。
何て力だ。
払われた脇腹が、痛い。
「ジェニファー!」
「サララさん!」
シトラスとロックが、彼女達の元に駆けつける。
ジョセフィーヌのタコ足が、狙っていた。
女の子二人を抱え、飛ぶ。
タコ足は、床にめり込んだ。
「そう。あなた達、アタシから逃げるのね。でも、逃がさないわよ❤️」
ジョセフィーヌが振り向く。
シトラス達は、優しくジェニファーとサララを横にすると、武器を取った。
めり込んだ足を抜き、ジョセフィーヌが迫る。
ダッ。
ロックの矢が、肩に当たった。が、ジョセフィーヌは平気な顔でそれを抜き、近づく。
「なら、これだ!」
シトラスがタコ足を斬った。
一瞬、血の気が引くジョセフィーヌ。
だが、それもつかの間。足は、再生した。
「何っ!?」
「ふふっ。遊びましょう」
タコ足が、シトラスとロックの体を掴んだ。
そのまま顔の位置まで持ち上げられる。
「まずは、あなたから」
「わ、わ、わ、待て待て。ちょ、タンマ!」
「ふふっ。頂きます」
シトラスの顔に、ジョセフィーヌの顔が近づく。
唇のピンチ。
その時、
「ファイヤーショット!」
火の玉が、ジョセフィーヌの横顔に命中した。
間髪入れずサララがタコ足を斬り、シトラス達を救う。
「ありがとうございます。サララさん、助かりました」
「ジェニファーも、サンキュー」
「ふふっ」
シトラスの隣に来たジェニファーは、得意げだった。
ジョセフィーヌは怒りが増す。
「ちょっとあんた、熱いじゃない! 何すんのまったく。それに坊や達も。何でアタシから逃げるの?みんな、アタシの事馬鹿にしてんのね。いいわ、だったらこうしてあげる!」
気を溜め始める。
完全な、大きなタコの姿になった。
空中に浮かび、クルッとターンする。
その風の煽りを受け、シトラス達は転んだ。
「まだよ、まだ。受けなさい!」
空中を優雅に泳ぎながら、頭から突っ込んで来る。まるで、ミサイルのよう。
「わっ、わっ!」
その破壊力は凄まじい。あっという間に、あちこちに穴が開いた。
ロックが放つ矢も当たらない。
シトラスとサララも、剣を振るタイミングを掴め無い。
「どうしたのかしら? 当たらないわよ」
「くっ……」
ジェニファーが杖を降り下ろす。
「サンダーボム!」
雷が、ジョセフィーヌの上に落ち、爆発する。
ジョセフィーヌは落下、体を打つ。
それでもすぐ立ち上がった。
「よくもやったわね!」
タコ足がジェニファーの体を締め付ける。
吸盤が絡まり、動けない。
「い、痛い、痛い……」
「ジェニファー!」
シトラスの叫び。
ジョセフィーヌは、痛がるジェニファーを見ながら言う。
「どう? 痛いでしょ。アタシを馬鹿にした罰よ!」
「あ、あたしはあなたを馬鹿になんてしてない……。シトラス達もよ」
「えっ!?」
ジェニファーは涙を流していた。それでも、ジョセフィーヌを真っ直ぐ見ている。
ジェニファーを締め付ける力が、ゆるんだ。
シトラスが、ジョセフィーヌの気を引こうとする。
「ジョセフィーヌ、こっちを見て!」
シトラスは、前髪をかきあげ爽やかに笑う。
そしてウィンクした。
微かに、体は震えていたが。
ドキン!
ジョセフィーヌはときめく。
「ジョセフィーヌ。俺はあなたの生き方を、悪いとは思っていない。世の中には、いろいろな人がいるから、恋愛の仕方も、いっぱいあると思う。男が好きな人、女が好きな人。両方の人だって。そういう感情が無い人もいるかも。俺は、まだよく分からないけど、どんな人も、尊重するべきだと思う。それが、生きてるって事だから」
ロックも、ジョセフィーヌに向かって投げキッスをした。
「オレもそうだと思う。だから、ジェニファーを解放してくれないか? 彼女は、大事な仲間なんだ」
可愛い少年二人の願いに、ジョセフィーヌはジェニファーを下ろした。
大ダコの姿から、人間の顔に戻る。
穏やかな笑顔だった。
「仕方ないわね。可愛い坊や達にそんな事されたら、願いを聞かない訳にいかないじゃない」
「ジョセフィーヌ、ありがとう!」
「クスッ。最後に、名前を聞かせて」
シトラス達は顔を見合せる。
そして頷いた。
「オレは、ロック・アーネスト」
「ジェニファー・マーチン」
「サララ・ハントよ」
「シトラス・ハント。よろしく」
シトラスの名前を聞いた途端、ジョセフィーヌは驚愕した。
「シトラス!? あなたあの、勇者シトラス?」
「俺の事を知っているの?」
「魔王ダイロス様から、聞いた事があるわ。アルズベルト村に、勇者シトラスがいるって。そう、あなたがあの……。でも、アタシはもう戦う気は無いわ。大人しく引いてあげる。じゃあね❤️」
「あ、ジョセフィーヌ……」
ジェニファーが、服の中から黄色いリボンを取り出し、ジョセフィーヌにあげた。
「いいの? アタシ、あなたに酷い事したのに。でもありがとう。あなたは優しい子ね」
「ジョセフィーヌ……」
「そうよ、忘れてた。そこの宝箱の中身に、この鏡の光を当てなさい。面白い事が起こるわよ。それじゃあね」
ジョセフィーヌは手鏡をジェニファーに渡すと、テレポートで消えた。
ジェニファーが宝箱を見つける。
シトラス達も集まって来て、蓋を開けた。
熊のぬいぐるみが入っている。
「なあ、シトラス。ドグアックの王様の宝物って、もしかしてこれか?」
「もしかしなくても、そうだな」
「でも、ジョセフィーヌが言っていたわ。鏡の光を当てると、面白い事が起こるって。ジェニファー、お願い」
「はい!」
ジェニファーは、床に置いた熊のぬいぐるみに、鏡を向けた。
光が、ぬいぐるみを照らす。
すると、
グググン。
ぬいぐるみが、人の姿に変化した。
可愛らしいフリルのドレスを纏い、気品のある、シトラス達と同じくらいの年齢の少女に。
その美しき佇まいに、シトラスとロックは頬を染めながらも、話しかけれずにいた。
サララが代わりに尋ねる。
「あなたは、一体?」
少女は優雅に微笑む。
「私はドグアック城の姫で、アローナと申します。魔物により、ぬいぐるみの姿に変えられた私を助けて頂き、ありがとう存じます」
「ドグアック城の姫!?」
一同はびっくり仰天。
まさか姫が、ぬいぐるみに変えられていたなんて。
「おいシトラス、王様の本当の宝物って……」
「ああ。アローナ姫の事だな」
「まあ、やはり私は、お父様にご心配をかけていたのですね」
シトラスとロックは小声で話したつもりだが、アローナ姫の耳には届いていた。
「シトラス。それじゃあアローナ姫を、城まで送って差し上げましょう。きっと、王様もお喜びになるわ」
「そうだね。姉さん」
「宜しくお願いします。勇者シトラス」
「えっ? アローナ姫!?」
「ちゃんとぬいぐるみの耳にも届いていましたよ。あなた方の声は」
「は、はあ」
「ふふっ。参りましょう」
そしてアローナ姫はシトラスに手を引かれ、ドグアック城へ帰った。
その後のドグアック城は大騒ぎだった。
王様は、ジョセフィーヌが姫を元に戻す鏡を持っていた事を知らず、戻って来たアローナ姫を見て驚き、涙を流して喜んだ。アローナ姫がぬいぐるみにされてからふさぎこみ、人前に姿を現さなかった王妃も、娘の声を聞きつけ、ギュッと抱きしめた。兵士達も、ほとんどが泣いていた。みんな、この日をずっと待っていたのだろう。
シトラス達も、胸が熱くなった。
王様が礼を言う。
「勇者シトラスよ。よくアローナ姫を連れて帰って来てくれた。この国の王として、礼を言う。王妃も、ずっと悲しみで、ふさぎ込んでいたのだ。それが、久しぶりに笑ってくれた。本当にありがとう。そなた達の旅の無事を、祈っているぞ」
「はい、王様。必ず、魔王ダイロスを倒して来ます!」
「うむ。期待しているぞ」
人々の声援を受け、シトラス達は、城を後にした。次に向かう村には、アルズベルトの教会にいた神父さまの兄弟がいるという。なんでも、占い師だそうだ。
占い?少し興味あるな。それに神父さまの兄弟なら、会ってみたい。
彼らは期待に胸を膨らませ、歩いて行った。