四番目の島、到着
海に浮かぶ、一隻の船。
島に到着する前に夜になってしまったので、シトラス達は船の中で一夜を過ごした。
ティナさんとジェニファーが作ってくれた夕食、なかなか美味しかったな。
ジェニファーは、魚を触るのがちょっと苦手だ。でもティナさんは、触るのも平気だし、さばく事もできる。
踊り子の寮でずっと自炊をしていたから、自然とできるようになったんだそうだ。
その魚を使って、煮込み料理を作ってくれた。
美味しいって褒めたら、照れて赤くなった。
ジェニファーも真似したいと言っていたが、そのティナさんから、まずは魚を触れるようにならないと駄目って返され困惑していた。
シトラスとロックは笑う。
その賑やかな団らんは過ぎ、朝になったら雨が降っていた。
昨日まで、あんなに天気が良かったのに。
いつものように甲板にも出られず、部屋の中で雨の雫を眺めながら過ごす。
ロックが退屈そうに呟いた。
「暇だなシトラス。このまま船の中にいるのか?」
シトラスは窓から見える景色を眺め、考えている。
「そうだなぁ。このままって訳にもいかないだろう。島が目の前なんだし。雨が小降りになるのを待って、一気に船から走るか」
「じゃあシトラス。船をピタッと島にくっつけましょう。いつでも走れるように、準備しておかないと」
「ああ、そうだな」
ジェニファーの言葉に、ティナが動き出す。
「じゃあ、アタシが船を動かすよ。島にぴったりつければいいんだよね」
そう言って、階段を昇ろうとする。
船を操縦する舵は、甲板にあるのだ。
「ティナさん。濡れちゃいますよ。オレも行きます」
ロックが傘を取り出し後を追う。
荷物に入りやすいように、折り畳み式だ。
船がガクンと動く。
「わっ!」
あまりの急な動作に、シトラスとジェニファーはその場で転ぶ。
やがて、ティナとロックが降りて来た。
「シトラス。船を島につけておいたよ。錨も下ろしてあるから、風が来ても大丈夫だね。それに、ロックが傘を差してくれたから、びしょ濡れにならなくて良かったわ〜」
「それにしてもティナさん、舵、いきなり過ぎませんか? 揺られて、びっくりしたんですけどオレ。ん? 二人ともどうした?」
ロックが、ジェニファーの手を引いて起こすシトラスを見つめる。
「い、いや、急に揺れがきたから転んだんだよ」
「そうよ。びっくりしちゃって」
「そうか。オレはまた、オレ達がいない間に何かしてたのかと」
シトラスとジェニファーは、そのロックの言葉を否定した。
「なっ。何言ってんだよ。そんな事ある訳ないだろ」
「そうよロックったら。こんな短時間で。やるんならもっと別の場所で……」
「そうだよな〜。ま、お前らがする訳ないか。それにしてもジェニファー、今さりげなく大胆な事言ったな」
「えっ?」
ジェニファーは一瞬言っている事が分からなかったが、頭の中で自分の発言を思い返してみると、確かに、恥ずかしい台詞を発していた。
「キャア! あたし、そういうつもりじゃなくて。いや、違っ、本当はあたし……。ああっ、もう!」
恥ずかしくて、頬がカーッとして、下を向いてしゃがみ込む。
「そう。その純粋さが、ジェニファーなんだよなぁ」
そうロックがフォローするも、だったらなおさら恥ずかしい。
「ジェニファー」
シトラスが彼女と同じ視線になった。
ジェニファーが顔を上げる。
「そう落ち込むなよ。別にお前は何もしていないんだから」
「何よ」
腫れぼったい目で、シトラスを睨んだ。
「あんたがさ、はっきりしないのがいけないんじゃないの?」
「は?」
おいおい、今度は逆ギレかよ。
シトラスは呆れ顔。
ジェニファーから目線を外し立ったら、彼女も立った。
彼女は、シトラスの目をジーッと見つめている。
「だったら、言ってみなさいよ。あたしの事どう思っているの? 言えないの?」
「そりゃあ……、可愛いなとは思ってるよ」
「それから? その後よ」
「あのね、ジェニファー」
シトラスは、ジェニファーの肩に手をやった。
ドキン!
顔が近づく。
怒り顔だったジェニファーだが、声を抑え、ポーッとなる。
乙女の表情になった。
「そんな風に強制して無理やり言わせて、お前はそれが真実の言葉だと思うの?」
「えっ!? そ、それは……」
「そうだよな。じゃあこの話題はおしまい。んな事より雨が止んだみたいだ。行くぞ」
さっと向きを変え、ロックと行ってしまった。
ポーッとしていたジェニファーは、
「あ〜〜! 何か上手く誤魔化された気がする。悔しい〜っ!」
と、ハンカチを噛んだ。
すれ違いざまにティナが言う。
「誤魔化したと言うより逃げたわね。けどジェニファー。シトラスの言う通り、あれは強引だったわ。もう少し落ちついたら?」
「ティナさんみたいにですか?」
「そう。けどあんまりグズグスしてると、アタシが取っちゃうかもしれないよ〜」
「それは駄目え〜」
「なら早く来なさい。おいてくわよ」
シトラスとロックは、船の側で待っていた。
二人の姿を見つけると、降りやすいようにエスコートする。
さっき、あんな態度を取ってゴメンね。
焦ってたのかな。
落ちついて、待つ事に決めたから。
少し歩くと、立派な家が見えた。
畑もある。
男の人が、畑から出て来た所だった。
ちょっと話を聞いてみよう。
「すみません。畑仕事ですか?」
「雨が降ったから、様子を見に来たんだよ。水やりの手間が省けて良かったよ」
「色んな野菜がありますね」
「ああ。この人参なんかは、馬が食べるんだけどね」
男の人は、気さくに話してくれた。
畑の他に、この島で牧場をやっているらしい。
牧場を見に行くと、柵の中の動物達が集まって来た。
馬に牛、ヤギ。小屋の中にウサギまでいる。
「ちょっと、餌をやってみるかい?」
人参を柵の中に入れてみると、馬がパクっと食べた。
ヒヒーン。
なんか、可愛い。
「人懐っこくて可愛いですね」
「だろう。しかし最近、近くに魔物が棲みついてね、動物達をさらうんで困ってるんだ」
「えっ!?」
「ほら見えるだろう。あそこの島だよ。木がたくさんで森になっているところ。あそこからモンスターがやって来るんだ」
シトラス達はその魔物を、自分たちが退治すると提案する。男の人は驚いていたが、シトラス達が勇者だと聞いて納得した。
「ありがとう。けど気をつけて。あの森は迷路になっているからね」
「分かりました。気をつけます」
「一応これを持って行って。敵のボスはシシカバブウだよ」
「シシカバブウ?」
「胴体がカバで、頭部がライオンなんだ」
「それじゃあ、ブウというのは……?」
「それは行ってみたら分かるよ。じゃあ、頼むね」
男の人は家の中に入って行った。
空が暗くなっている。
また雨が降りそうだ。
その前に、森へ急ごう。
魔物? シシカバブウ?
どういうモンスターなんだろう。
船に一旦戻り島に向かう。
待ってろよ、シシカバブウ。




