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明かされた謎

 ガキーン。ガキーン。


 シトラスの剣の動きが早い。

 ガルディスの剣技の隙をついて、彼の体に当たるようになっていた。


「くっ」


 服が破れる。

 それでもガルディスはフッと笑った。


(強くなったな、シトラス……)


 シトラスの攻撃は続く。

 今度こそ、本当の事を聞きたい。

 そうじゃないと、このモヤモヤしている感情が収まらない。

 この人は、一体?

 なんとなくだけど、自分と似ているような、そんな境遇の感じがする。

 根は悪い人じゃないだろう。

 だからこそ、魔王軍の一員である事が納得できないのだ。


「十字斬!」


 直撃だ。

 ガルディスはフラッと前に揺れた。


「いいぞ、シトラス!」

「頑張って」


 声をあげて応援するロックとジェニファーと対照的に、ティナは悲しい顔をしていた。


(ガルディス……)


 この時の彼女の心情は、どんなものだったのか。

 ガルディスは剣で倒れそうな体を支えた。

 呼吸を整える。

 顔を上げた。


「やるじゃないかシトラス。ならば、俺も本気を出させてもらう」

「何っ!?」


 ガルディスの剣が光っている。

 気合いを貯めた。


衝雷斬(しょうらいざん)!」


 ビュン。


「わあああああっ!」


 まるで雷で斬られたみたいな衝撃。

 シトラスは倒れる。


「シトラスぅ!」


 ジェニファーの悲痛な叫び声。

 ロックも口を開け、驚く。

 ガルディスが歩いて来た。


「どうした? 手加減をしたつもりだがな。それともこれで終わりか?」

「まだだ」


 シトラスは力を込めて立ち上がる。

 斬られた箇所がヒリヒリするが、構ってはいられない。


「ほう、頑張るな。それでこそ勇者だ」

「ガルディス。俺は止まれないんだ! 魔王を倒すまでは」


 今度はシトラスの方が気合いを入れ始めた。

 ジェニファーがハッとする。

 紋章の力を使うつもりだ。


「駄目、シトラス紋章の力は……! その力はまだあなたには……」

「けどジェニファー。今ここで使わないと、俺、ガルディスには……」


 ガルディスは余裕で笑っていた。

 どこか嬉しそうでもある。


「いいぞ。その力、受けよう」

「うおおおおおっ」

「シトラスぅ!」

「五月雨!」


 一気に距離を縮めた。

 左肩の紋章が光る。

 猛攻に、ガルディスの体は吹き飛ばされた。


「……!」


 声にならないティナの叫び。

 ガルディスは、横になったまま起き上がれない。

 息が荒いまま、シトラスが近づく。


「ガルディス……」

「そこまでよ」


 突然、小さな竜巻と共に女の魔族がやって来た。

 ガルディスの前に立つ。

 胸はサラシで隠され、下半身は蛇。

 ガルディスが顔を上げた。


「スーリア。何故お前がここに……?」

「あなたの様子を見に来たの。あなたが、人間とつるんでいるんじゃないかとね。でも、勇者と戦っているという事は、違うのね」

「………」


 邪魔された感じのシトラスが叫ぶ。


「お前は、誰だ?」


 スーリアは妖しく微笑みながら言った。


「わたしはスーリア。魔王様の幹部よ。この男は、返して貰うわね」

「何っ!?」

「フフッ。まだこの男には、駒になってもらわないとね。じゃあ坊や。また会いましょう」

「待て!」


 スーリアは軽くウィンクをすると、ガルディスを連れて風になって消えた。

 ぽっかりと穴が開いたような虚しさが襲う。

 もう少しだったのに。

 やっと、ガルディスから真実を語ってもらえるかと思った矢先、こんな事。


「シトラス……」


 ジェニファーが後ろからシトラスを抱きしめた。

 彼は膝をつき、フラフラしている。

 倒れそうだ。

 ロックの提案で、落ち着く場所で休ませる事にした。

 自分たちも。

 乱れた心を、休ませないと。



 空に鳥が鳴く声が聞こえる。

 土と草の匂い。

 柔らかく温かい感触の上で、シトラスは目覚めた。

 そうか。ここは崖の向こう。

 確か湖があった。

 みんなここで休んでいたのか。

 それにしても、この気持ちいいふわふわ感は。


「おはよう、シトラス」

「ああ。ジェニファー。んん〜〜?」


 ジェニファーは横座りをしている。

 その膝の上に、シトラスの顔が乗っていた。

 つまりこれは……。


「ん〜。ジェニファーに膝枕をしてもらえるなんて。これは夢か? 天国か?」

「夢でも天国でもどっちでもないわ。あたしが好きでしてるの」

「えっ、そうなの? 俺……」

「はいはい。いい加減起きようね。シトラス」


 いきなり頬をつねられた。

 つねったのはティナだ。

 シトラスは飛び起きる。


「い、痛い。何をするんですか、ティナさん!」

「あ〜ら、ごめんなさいね。アタシにも甘えて欲しかったのに、ジェニファーばかり見てるから」

「え? そんなつもりじゃ」

「フフッ。分かってるわよ。可愛い子ね。アタシが早く起きて欲しかったの」

「それにしたって……」


 つねられた頬を押さえ、プクッと膨れる。

 その表情さえ、美少年は画になった。


「あら〜。拗ねる坊やも可愛いわね〜。アタシ、モノにしたいわ〜」

「駄目ですよティナさん。シトラスは……」

「お〜。羨ましいなシトラス。美女二人にこんなに心配されて」


 近くにいたロックにもからかわれた。

 シトラスは顔が赤くなる。


「いっその事どっちかを決めたらどうだ? それとも二人とも選ぶか?」

「な、な、な、何言ってんだよ」


 ますますポワッと赤くなる。

 恥ずかしい。

 そんな様子を見て、ティナがまとめた。


「はいはい。もう少し遊んでいたいけど、収集がつかなくなりそうなのでこの辺で。それよりみんな、話があるの」


 急に真面目な顔になる。

 シトラス、ジェニファー、ロックは姿勢を正した。


「実はね、ガルディスの事なんだけど……。彼、アタシ達の村の……、つまりね、シトラスとアタシが生まれた村の出身なの」

「えっ? どういう事ですか。ティナさん」

「うん。あのね」


 ティナは言葉に詰まりながらも説明する。

 その悲しみに、シトラス達は涙を流した。


 魔王軍がその村に攻めて来たのは、シトラスが生まれて僅か半年の事だった。

 空は暗く雲っていた。

 村長の家では、古くからの知り合いであるサララ一家を招いてのお茶会が行われていた。ガルディスとティナは当時5才。時々来るサララの事も、妹みたいと可愛がり、一緒に遊んでいた。

 あの時も、確か広場にいたんだっけ。

 そこをストーンモンスターに襲われた。

 幼い三人は、大人達に守られ、逃げ惑うしかなかった。

 ガルディスはその時から剣を習っていたけど、太刀打ちできる訳がない。

 とにかく家の中へと走った。

 ストーンモンスターは何とか倒したが、広場はめちゃくちゃ。負傷者も出た。

 魔王の声が聞こえたのは、その瞬間。

 重く、腹に響くような声。


「この村に、勇者の光を感じる。まだ小さいが、わたしを脅かすならば、滅ぼすしかない」


 途端、巨大な火の玉が降って来る。

 それに当たって、焼けていく人もいた。

 村は火の海と化した。

 悲鳴を上げ右往左往。

 家の中は危険だ。

 避難するしかない。

 村長に導かれ、サララ一家と村人達は船に乗った。

 その船にまで、魔物が攻めて来る。


「モンスター達よ。人々の中から勇者を探せ。そして連れて来い」


 甲板でモンスターは暴れ、ティナの両親、村長が犠牲になる。さらに、サララ一家を守ろうとしたシトラスの両親まで。

 怒りのガルディスは剣でモンスターを刺し、叫ぶ。


「俺が勇者だ! 連れて行くなら俺を連れて行け!」


 闇の腕が、ガルディスを掴む。

 そして、彼は魔王に連れ去られた。

 しかしそれでも、魔王軍の攻撃は止まない。

 残された人々は、船の上から生まれ育った村が炎に包まれ消されるのを、泣いて見ているしかなかった。

 やがて、闇は沈黙する。

 赤子のシトラスは、彼が勇者と知るサララ一家に預けられ、ティナ達も船でバラバラになった。

 シトラスを守る為、ひっそりと生きる。

 チャンスが来るまで。

 それが、みんなで決めた事。


「そんな……」


 ジェニファーは震えて言葉が出ない。

 ロックも同じ事。

 そんな酷い事を、魔王がしていたなんて。

 シトラスも唇を噛んでいた。

 けど、勇気を振り絞って聞く。


「ティナさん、ガルディスが勇者って、どういう事ですか?」

「ガルディスが勇者ってのは本当よ。その時によって勇者の生まれる人数が違うらしいわ。だいたい一人か二人らしいけど、今回は奇跡的に二人生まれたのね」

「そうなんですか」

「さっき、ロック達から聞いたんだけど、あなた左肩に勇者の印があるんだって? ガルディスは逆に右肩にあるのよ」

「それじゃ、ティナさんは知っていたんですか? ガルディスが魔王軍にいるって事を」

「ええ。ごめんなさい。時々会っていたのよ。彼、魔王の様子を探るって……」


 ジェニファーが、そうかという顔をした。


「それじゃあ、やっぱりあたしの思った通り、ガルディスはシトラスを導いていたんですね」

「そうね。そういう事になるわね」

「けど、魔王に洗脳とかされなかったんですかね。オレ達と会った時、そんな様子は無かったですよ」

「それなんだけど、紋章の力が働いたんじゃないかしら。最初は、魔物と一緒に暴れていたらしいし……」


 シトラスは怒ったような顔をしていたが、やがて笑って言った。


「分かりました。これで引っかかっていた事が消えて、胸がスッとしました。ティナさん、話してくれてありがとうございます」

「シトラス……」

「俺の故郷にそんな事があったなんて悲しいけど、今は前に進みましょう。ガルディスが俺を導いているなら、また会えるはずです。その時こそ、魔王軍から救いましょう。もう一人の勇者として」

「そうだね。ありがとう」


 ティナも涙を拭いた。

 今は、やれる事をやるだけ。


「そうと決まったら次の島に行きましょう。この島にはもう何も無いみたいですし」

「ああ!」


 シトラス達は先に崖を下りて行った。

 ティナは空に願う。


(ガルディス、また会えるよね。それまで、無事でいて。必ず、あなたを助ける)


 次の島に向けて、船は出発した。















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