魂の浄化
リカが不気味に笑う。
奥から歩いて来た二人は、なんとサララとジョセフィーヌだった。
ドラモスとの戦闘の末、命を落としたサララ。
そしてシトラス達をグリンズム王国に導く為、サメロンと激しい戦いをしたジョセフィーヌ。
この二人のおかげで、シトラス達はここまで来る事ができたのだ。
「姉さん……」
「ジョセフィーヌ……」
シトラスとジェニファーがやっと発した一言。
ロックは黙ったまま。
ティナは口を手で押さえた状態で、言葉にならない。
「久しぶりね。シトラス。元気そうなあなたを見て嬉しいわ」
「アタシもよ。シトラスちゃん、ロックちゃん。それにジェニファー。でもね……」
サララとジョセフィーヌは豹変した。
恐ろしい顔で襲いかかって来る。
シトラス、ジェニファー、ティナは反応が遅れた。
しかし、
バッ。
レイニーの鋭く重いパンチが、ジョセフィーヌのボディに当たる。
彼女は「うっ」と腹を押さえた。
さらに、ロックの矢がサララを捉える。
「飛天狩射!」
矢は胸に命中する。
ロックはシトラス達を奮い立たせた。
「しっかりしろ、シトラス! ジェニファー! 今のサララさん達は魔王に操られている魂なんだ。本来の二人が、こんな事するはずが無い!」
弓を持つ手が震えて泣いてる。
それでも、ロックはキッとサララを睨んだ。
「ロック……」
シトラスとジェニファーも前を見た。
ロックの気持ちが、痛い程分かるから。
それに、彼の言う通りだ。
姉さんとジョセフィーヌはもういない。
もう、死んだのだから。
サララが矢を抜いた。
剣を構える。
「ロック、あなたがこんな事するなんて……。嘘よね。あなたは本当はわたしを攻撃できないよね。だって、あなたはわたしを……」
「黙れ!」
矢に火がつけられた。
燃える矢を弓にセットしながら、ロックが叫ぶ。
「オレの信じているサララさんは、シトラスを傷つけるなんて事はしない。あの人は、弟を大事にしていたんだ。たとえ、血が繋がっていなくても!」
「そうよ。繋がっていないわ! その為にわたしまで蔑まれた事があったわ。両親もそう。勇者なんて、最初から連れて来なければ良かったのよ!」
「サララさん……!」
「ロック、あなたもそうでしょ? シトラスの事嫌いだったわよね。勇者を庇っていると、あなたもわたしの両親と同じように追い詰められて……」
「違う!」
矢がサララに向けられる。
サララは突然の事に避ける事はできなかった。
「炎天狩射!」
服に燃え移り、広がって行く。
サララの魂は悲鳴を上げた。
「サララさん……。何でそんなデタラメを……。いや、あの事でオレとシトラスを恨んでいても仕方ない。あなたの両親は、魔物からオレ達を守って亡くなったのですから」
「………」
「けど、オレは……」
(分かってるわ)
リカの時と同じく、サララの本当の思いが聞こえた。
(ロック。わたしは両親が死んだ事で、あなた達を恨んではいないわ。むしろ誇りに思っているの。両親は立派に生きたと)
「ええ。それにシトラスもあの時、オレを守ってくれようとしました。怪我をしていたのに。だからオレは、あいつを好きに……。友達になろうと思ったんです」
(そうでしょ。わたしの弟だもの。シトラス、ロック、ジェニファー。わたしは、あなた達が大好きよ。そしてティナ。あなたにも会いたかった)
「……! サララッ!」
(だから、迷わないで)
「分かったわ!」
親友サララの言葉。
ティナは近くにいたミズナに頼む。
「ミズナ! あなたの力を貸して。あの踊りをするわ!」
「オーケーよ、ティナ!」
「何をする気よ、あんた達〜〜!」
ジョセフィーヌが邪魔をしようとする。
ジェニファーが立ち塞がった。
黄色いリボンを持ってる。
涙ながらに、それをジョセフィーヌに見せた。
「ジョセフィーヌ!」
「!!」
「見て、このリボンを! あなたが亡くなった時、海に漂っていたのを拾ったの。これはあなたの形見。あなたがいたから、あたし達は先に進む事ができた。ありがとう。あたしいつも、これを見てた。あなたが、側にいるような気がして。だからこれは、あなたとあたしの、友情の証よ!」
(ジェニファー……)
ゆっくりと、ジョセフィーヌの表情が変わる。
穏やかになっていった。
(ありがとう。魔物のアタシを、友達だと言ってくれて。ジェニファー。シトラスちゃん、ロックちゃん。またあなた達に会えて、嬉しかったわ。だから、やってちょうだい。アタシもサララも、魔王様の言いなりには、ならない!)
シトラス、ロック、ジェニファーが懇願した。
「ティナさん、ミズナさん! 姉さんとジョセフィーヌの魂を、安らかにさせて下さい」
「オレはもう一度サララさんに会えて嬉しかったんです。それだけで充分です。だから……」
「お願いします! ジョセフィーヌを、友達のままで」
ティナとミズナは頷き、クルッと一回ターンをして踊り出した。
「あなた達、何をするおつもりですの!」
今度は怒りのリカが踊りを止めようとする。
レイニーが、ギュッとリカを押さえた。
リカの闇が電撃となりレイニーを襲う。
それでも、
「ティナ、ミズナ! 踊りを続けろ!」
痛みに耐え、なおリカを離そうとしない。
そんなレイニーに応え、二人は踊る。
「ホーリーダンス」
なんて優雅な踊りだろう。
テンポはゆっくりだけど、癒される。
もしかして、魔法の力を使っているのか。
眺めているジョセフィーヌとサララの表情が、優しい。
フワッ。
光に包まれる。
闇が、消えたんだ。
「姉さん……」
「ジョセフィーヌ」
「サララさん……」
シトラス達が見守る中、二人は笑った。
(ありがとう)
光の中、姿が消えて行く。
空に、帰って行った。
「グハッ!」
レイニーが弾かれる。
踊り終わったティナが走って駆けつけた。
リカが、大きく膨らんだ闇の塊を投げる。
「シールド!」
ジェニファーの魔法が防いだ。
シトラス、ロック、ミズナもその場に。
ティナが呪文を唱える。
彼女は召喚魔法や踊りだけじゃなく、回復魔法も身につけていた。
頼りになるお姉さんだ。
「キュアラー!」
いつもジェニファーが使うキュアリーは、一人の状態しか治せない。が、このキュアラーは全員の傷を治す事ができる。
それなりに、魔力も使うが。
「サンキューな、ティナ!」
傷を治してもらったレイニーが立ち上がる。
「リカさん! もう止めてくれ! あなたはいつもどんな人にも優しくて、天使みたいな人だった。それが重荷だったと言うなら、それは俺様達の責任だ。けどよ、やっぱりあなたには笑っていて欲しい。それがあなたに憧れていた、俺様の願いだ!」
「その通りだよ! リカさん!」
ティナとミズナも訴える。
リカは一瞬うろたえた。しかし、闇はなかなか解けない。
「悪あがきを。けれどわたくしにも、賛同してくれる方々がいます」
リカが手招きをする。
出て来たのは、闇に囚われた街の人々だった。
「さぁあなた達、ティナ達を襲いなさい!」
「駄目だ!」
シトラスの紋章が光っている。
その光が、両手まで伝わっていた。
街の人々は、その光を浴びる。
するとーー、
「人々の闇が、消えてく……」
「紋章の力で、浄化されているんだわ」
ロックとジェニファーの驚きの声。
当のシトラスは初めての力に戸惑っていた。
「わ、わ、どうなっているんだ。俺はただ、人々を助けようと思っただけで……」
「きっとシトラスのその思いに、紋章が応えたのよ! そうだわ」
「そうだな、ジェニファー」
ジェニファーの言葉に納得するしかない。
なんでも、勇者なんだから。
リカは人々が解放され焦る。
「あ、あ、あ、みんなが……」
ミズナの導きで人々は祠の外に逃げた。
シトラスは剣を抜く。
「あ……」
リカの魂は、後ろに一歩下がった。




