悲しみのリカ
「り、リカさん……」
ティナとレイニーは懐かしい彼女の姿に目を奪われ、人々の前に出て行こうとした。それをシトラス達が止める。
「レイニーさん、ティナさん。気持ちは分かりますが、今は駄目です」
「しかしよ、シトラス」
哀しい目をしたレイニーに、シトラスは首を振る。
「レイニーさん……。リカさんはもう、亡くなっているんでしょう」
「あ、ああ……。二年前に」
残念だけど、ティナとレイニーは静かに納得した。
シトラスも、大事な姉を亡くしたばかり。
この子も泣いて、乗り越えたんだろう。
ジェニファーとロックも同じ。
もう一度、良くここから見て見る。
確かに、リカさんの姿をしている。
が、あの大きさは異様だ。
巨大なリカが人々に向かって叫ぶ。
「久しぶりですね皆さん。会いたかったわ。皆さんもさぞかし会いたかったでしょう。けれど、もう心配はいりません。外の人間に怯える事も無いでしょう。わたくしと共に、この闇の中で生きればいいのですから!」
「……!!」
祠全体が闇に包まれた。
ゴウゴウと炎が燃えているみたい。
しかし、人々は動かない。
「確かに、わたくしは死にました。けれど、この痛みはまだわたくしの中に残っています。怒りと絶望も! これは、あなた方のせいです。愚かで、人任せなあなた方が、わたくしに外の人間と交渉させたから! わたくしは、死にたくなかった! 分かりますか? この痛みが。わたくしの為に、償ってよ!」
リカの顔が怒りににじむ。
手を伸ばし、人々を掴んだ。
それはもう聖女と言えるような行為ではない。
言葉も乱暴になっていく。
「どうした? 忘れたのか? わたくしがあなた方の為にしてあげた事を。荒くれ者のあなた方を見捨てず、生活できるように助けて、街まで救った。本当なら、捨てられてもおかしくないどぶ虫のあなた方をね。そんな恩を忘れて、わたくしを見殺しにした! この役立たずども! こんな祠など、何の意味も無いわ! さあ、この闇の中に入れ。そしてその魂を、魔王様に捧げるがいい!」
手に持っていた人を、闇の中に投げ入れる。
立っている人々の目も虚ろになった。
闇に魅入られるように進む。
操られているのか。
次々、闇の中に入ろうとする。
多分、そこに自分の意思は無い。
「待って!」
たまらずティナが飛び出した。
シトラス達も続く。
レイニーはリカを見上げた。
リカもティナとレイニーを確認する。
「あら。ティナとレイニーじゃない。あなた方も闇に入りに来てくれたの? 嬉しいわ」
二人は唇を噛む。
こんなのはリカさんじゃない。
あの尊敬していた優しい聖女は、きっとーー。
その人は、あまりにも眩しすぎた。
レイニー10才。
島の悪ガキどもとつるみ、暴れまくっていた。
この街では、強い者が全て。
だってここは、荒くれ者の街だから。
すさんだ大人。
乱れていく生活。
自分達で食料を得なければ、生きていけなかった。
両親を早くに亡くした子供達はそうだ。
何度店の野菜を盗んでは、制裁を受けた事だろう。
そんな時、ティナがやって来た。
レイニーより一つ年下のティナ。
彼女も両親はいない。
厳しい踊り子の修行に耐えながら、この街で生きていくしかなかったのだ。
しかし、そんな生活に変化が訪れる。
どこかの国のお金持ちのお嬢様。
この街の噂を聞きつけ、立て直す為に単身訪ねて来たのだ。
彼女は街の現状を見ても、恐れもせず、笑顔でそれに立ち向かった。
レイニーは、天使が来たと思った。
美しい。
自分が傷つく事にも怯まず、どんな人にも優しく無償の愛を捧げてくれる。
彼女のおかげで、暗く、荒れていた街は変わった。
当初18才の少女の力で。
それでも、大人達は感謝の意を込めて、彼女をリカさんと呼んだ。
あれから11年。
今、レイニーとティナの前にいるリカは、あの時のリカさんとは違う。
憎しみで闇に囚われ、巨大化し、人々を苦しめている。
助けたい。
リカさんを助けたい。
彼女には、穏やかに眠っていて欲しいから。
それが、あの街で彼女に救われた、自分達にできる事だから。
「リカさん。アタシ達は闇に入りに来たんじゃない! あなたを、みんなを、助けに来たんだ!」
「俺様も同じだ。リカさん、待っててくれよ。あなたは、とても優しい人だった!」
口の端を上げて不気味に笑っていたリカの目が血走る。
「そうか。お前達までわたくしを馬鹿にするのか。いいだろう! わたくし直々に、制裁を与えてやろう!」
リカの拳が、地面を貫いた。




