静かなる異変
シトラス達が静かに眠りについた夜の事。
それにしても、もともと地下にある街。朝とか夜とかの判断って、どうやってしているのだろう。
実は密かに太陽の光を取り入れていたのだ。
この街から見ると天井、地上から見ると地面だが、そこに直径5ミリ程の穴が幾つも開いている。その穴に先が円錐形になった筒を通し、太陽の光で照らされるようにしていたのだ。
もちろん雨対策もしっかりしてある。
特殊なガラスがはめ込まれているようだ。
地上を歩いている時は、ほとんど気がつかない小さな穴。良く目を凝らして、注意深く見れば分かるかもしれないが、虫が作った穴かなと思う位だろう。
天井にぶら下がっていたのはライトだと思っていたが、まさかそういう装置だったとは。後でその事を聞いたシトラス達は感心していた。
という訳で、今は夜。
太陽の代わりに、月明かりが差し込んでいた。
家々の灯りも消えている。
ベッドは一つしか無かったので、ジェニファーに譲り、シトラスとロックは床に敷いた布団で眠っていた。
隣の部屋はレイニーさんの寝室。
寝息が聞こえる。
その頃外では、虚ろな目をした人々が、一人、また一人とリカさんの祠に向かって歩いていた。
何かに導かれるように。
そこに意思は無い。
ただ身体だけが動いていた。
脱け殻のようだ。
祠はまた、妖しい光を放っている。
「う〜ん」
ティナの友人の、踊り子の部屋。
彼女は悪夢にうなされていた。
街の人々が、次々と、黒い闇に飛び込んで行く。
呼んでも、手を伸ばしても、振り向きはしない。
その側には、巨大な人形がー。
「はっ」
彼女はそこで目を覚ました。
汗で服が濡れている。
嫌な感じだ。
窓から外を見て見る。
すると、ゾロゾロとゾンビのように歩く人々の姿が。
様子がおかしい。
彼女はすぐ、ティナの部屋の扉を叩いた。
「ティナ! 起きてよティナ!」
眠たげな顔で起きて来るティナ。
一つあくびをする。
セクシーなネグリジェ姿。
「どうしたの? こんな時刻に。まだ夜だよ」
「実はさ、変な夢を見たんだ」
踊り子の人は自分が見た夢と、街の人々がおかしい事を話す。
ティナの顔色が変わった。
急いで部屋に戻り、支度をして戻って来る。
手にはジェニファーの物より細長い銀色の杖を持っていた。
ちなみにジェニファーの杖は木でできている。
「ミズナ。あなたはここで待っていて。アタシは、シトラス達と一緒に調べて来る」
「分かった。気を付けて」
ミズナと呼ばれた踊り子の女性は部屋に戻る。
ティナは階段を駆け降りた。
人々の後ろ姿が見える。
けど、今はとにかくレイニーの家に。
物音で、レイニーやシトラス達は目を覚ました。
「おいおい、一体どうしたティナ。んな慌てて」
「レイニーさん、シトラス、ロック、ジェニファー。あ、あのね……」
ティナは息が切れていた。
レイニーが持って来た水を渡す。
「とにかく落ち着け。これ飲んで」
「ありがと。それで、ミズナがまた予知夢を見たんだ」
ティナの話を聞いたシトラス達は支度を整えた。
武器は常に、手に届く所に置いてる。
いつ何時、何があるか分からないからだ。
シトラスが聞いた。
「それでティナさん。街の人は祠の方に向かって歩いていたんですよね」
ティナは思い出しながら答えた。
「ええ。後ろ姿だったけど間違いない。あれは、祠の方向だよ」
「ならすぐに後を追いましょう! 予知夢の事も気になりますし」
「俺様も行くぜ!」
「ありがとみんな。じゃあ、行くよ!」
足音を響かせ、リカさんの祠へ。
人々はただ入り口の扉の前に集い、立っているだけ。
シトラス一行は、隠れて様子を見て見る。
「何してるのかしら。ただ集まっているだけ?」
「それにしては静かだし、動かないってのはおかしくないか?」
「シッ。シトラス、ジェニファー、静かに」
ティナが何かに気付く。
誰も触っていないのに、扉がひとりでに開いた。
「なっ!?」
中から闇が出て来た。
人の形になっていく。
しかもかなり大きい。
「あれは……!」
ティナとレイニーが声に出した。
後ろで三つ編みに束ねられた髪。
フワフワな花柄のワンピース。
童顔で幼く見えるが、実は20代後半のはずだった。
「リカさん……」
巨大なリカは闇を身に纏い、集まった人々を見下ろしていた。
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