祠の闇
中はランプの明かりに照らされていた。
石を積み重ねてできた塔がある。
その塔が、黒く妖しい輝きを放っている。
「これが、リカさんの祠……。はっ、ティナさん!」
祠の下に座り込む、ティナと男性の姿があった。
二人とも力が抜けたように、呆然としている。
「大丈夫か二人とも。何があった?」
「あ……、レイニーさん……」
力無き声で、ティナがシトラス達を見る。
見たところ怪我は無いみたいだ。
シトラス達は二人と同じ目線になり、話を聞く。
男性が言った。
「あの祠の陰から、黒い人のような物が飛び出して襲って来たんだ。驚いて叫んだら消えたけど、何だったんだろうな。あれは……」
「それで、何ともねぇのか? オメエらは」
「ああレイニー。俺もティナも怪我は無い。びっくりして、腰を抜かしただけだ」
「そいつは良かった。んで、確かに祠が光ってるな。今まで、こんな事は無かったはずだよな」
「ああ」
レイニーは祠の周りをぐるぐる回り、あちこち調べる。
シトラス達はティナと男性の腰を優しくさすり、起こしてあげた。
「ありがとね。坊や達」
「俺も、世話になるな」
「いいえ。お二人に怪我が無くてなりよりです」
「ふふっ。優しいのね」
レイニーの方も、異変らしい異変は見つからない。
しかし相変わらず、祠が黒く光っているのが気になる。
気になりつつも、レイニーは祠に背を向けて戻ろうとした。
その時ーー、
「レイニーさん!」
祠から黒い腕がギュッと伸び、レイニーの腕を掴んだ。
他にも無数の腕が現れ、彼の体に巻き付き、引っ張る。
「ぬぬう」
シトラスが剣を抜き、黒い腕を斬る。
レイニーは解放された。
「レイニーさん! 大丈夫ですか?」
「ああ、ジェニファー」
くっきりと、腕の跡が残っていた。
よほど強い力だったのだろう。
キュアリーで治るかな。
一応かけてみる。
跡は薄くなったものの、少し残った。
「ごめんなさい。完全に治せなくて」
「そんな顔すんな。その内治るだろ。それより、シトラス達だ」
シトラスとロックは、祠を警戒していた。
黒い腕は消えたが、今度は男性の言った通り、真っ黒の人形が、周りを囲んでいた。
「ティナさん! その男の人と一緒に逃げて下さい。ここは俺達が。レイニーさん、お願いします」
「任せな!」
シトラスはレイニーに、ティナと男性を連れ祠から逃げるように言った。レイニーは二人の腕を引く。が、入り口が開かない。
「くそっ。入り口が開かねえ。何か力が働いているみてえだ」
「レイニーさん、これ見て!」
扉が黒く染まって行く。
闇が、彼らを閉じ込めたのだ。
「ちっ。ここにとどまっている闇を何とかしねえと……」
「じゃあこれですね」
ジェニファーが魔法の杖を高く持ち上げる。
「シャイニング!」
闇を貫く光の魔法だ。
いつかシャドウを消し去った時のように、黒い人形も次々消滅して行く。
祠の光は?
いつの間にか消え、元の石の塔に戻っていた。
ガチャン。
「扉が開いたぞ!」
レイニーの声がする。
シトラス達はもう一度祠の方を振り向き、何も無いのを確認してから扉から出る。
ティナも男性も、とにかく無事で良かった。
「ティナ!」
あの踊り子の女性だ。
ティナの姿を見た途端、抱きついて来た。
安心したのだろう。
ティナが礼を言った。
「シトラス、ロック、ジェニファー。ありがとね。あんた達が来てくれて助かったよ。それでさ、旅の件なんだけどさ、祠がああなったのが気になるから、もう少し待ってもらえないかな?」
シトラス、ロック、ジェニファーは笑う。
「構いませんよ。ティナさんが一緒に来てくれるなら、俺達いつまでも待ちます。それに、俺達も気になります。まだ、終わりじゃない気がして。だから、一緒に解決しましょう! 何たって、俺は勇者ですから!」
「あんた達……! 一緒に行くから、絶対に。この件が終わったら。この街が好きだから」
「はい!」
シトラス達の笑顔に、また涙が出そうになった。
なんて良い子達なんだ。
レイニーがポンと手を叩いた。
「よし。そうと決まったら三人とも、俺様の家に泊まるか? 遠慮するな。歓迎するぜ」
「本当ですか? レイニーさん!」
「ああ。いいって事よ!」
ティナが囁く。
「レイニーさんの家、大きいのよ。ずっと闘技場のチャンピオンだったから、賞金バッチリで」
「へ〜、そうなんですか? でも、俺達優勝したのに、賞金出ませんでしたよ」
「馬鹿言え。あれは二年間チャンピオンの座を譲らなかったから、記念として貰っただけだ」
「二年ですか!? それは凄いですね」
「まぁな。それにその金はほとんど、この街の発展の為に使っただろ。家に使ったのなんぞ、はした金だ」
「そうでした。レイニーさん、一見怖そうに見えて、優しい人なのよねぇ」
「おいティナ、一言余計だ」
「ハハハハハハ!」
笑いの後、男性は自分の家に帰った。
シトラス達はレイニーの家に案内してもらう。
彼の家は、ダンスホールの真正面だった。
大きいと言えばまあ大きい。
他の家らしき物と比べて、だが。
ティナ達は、ダンスホールの隣の建物へ。
彼女達、踊り子の為の寮だ。
近いから、何かあったらすぐ飛んで来られる。
シトラス達は、リビングに通された。
あんまり物が散乱していない。
闘技場で最初に見た時の、あの控え室を想像していたから、意外だった。
きれい好きな面もあるのかもしれない。
「荷物置いたら、飯を食いに行くか? 旨い酒場があるんだ」
「えっ!? けど俺達、酒飲めませんよ」
「心配するな。ジュースもある。それに、最高のつまみがあるしな」
「へ〜」
最高のつまみって何だろう。
ワクワクしながら、席に座った。
皿に乗って運ばれて来たのは、こんがりとジューシーな焼き色がついた、鳥の丸焼き。
それに、この味は、
「美味しい! 手が止まりません」
「だろ? ほんのり香るカレーの味が、もうたまらねぇよな」
サラダも美味しいし、生搾りのリンゴジュースもさっぱりしていた。
満足してシトラス達はベッドに横になる。
その夜、何かがうごめいているのを、まだ知らずに。




