東の塔
ドグアックの王様は、じっくりと目の前の四人を見ていた。シトラス達は緊張している。こんな子供が勇者とは、思わなかったのだろうか。
「シトラスとやら」
「は、はい」
「本当に、そなたが勇者なのか?」
やはり、王様は疑っていた。
シトラスは気持ちを落ち着かせ、丁寧に話した。
「王様。疑っておられるのも無理はありません。確かに俺は子供です。しかし、俺は小さい頃から、姉に勇者なのだとずっと聞かされて育ってきました。それに嘘はございません」
「そうか。ならば、勇者の印とやらを見せて貰えんか?」
「勇者の、印?」
「どうした?」
戸惑うシトラスに、ジェニファーが囁く。
「シトラス、あれじゃない? 左腕の……」
「ああ、そうか」
シトラスは袖をまくり、左肩を出す。
肩の少し下に、紋章が刻まれていた。
生まれた時から体にある、特別な証。
「おお〜〜!」
兵士の間から声が漏れる。
王様は、目を見開いた。
確かに、あの形は、本で見た勇者の印。
「ふむ。どうやら、勇者というのは真実らしいな。だが、魔王を倒すには、それなりの実力が必要だ。そなた達の力を確かめさせて貰って良いか?」
「はい、何なりと」
「そうか。では、この城から東に行った所に、一棟の塔が建っている。元々はわたしの宝物を隠していた塔なのだが、魔物に占拠されてしまった。どうか、塔の魔物を倒し、最上階の宝箱から、思い出の品を取り返して欲しい」
「分かりました。東の塔に行って、王様の大切な物をお持ちします」
「頼むぞ、勇者」
「はい!」
王様の願いを背に、シトラス達は城を出た。
目指すは東の塔。
呑気に話しながら行く。
「なあシトラス。王様の大切な物って、何だろうな」
「そうだな。王様だから、宝石とか?」
「もう。あなた達って、安易な考えね。王様は、思い出の品とおっしゃっていたのよ」
シトラスとロックの会話。
サララが突っ込む。
「じゃあ、姉さんは何だと思うの?」
「それは分からないけど、よほど思い入れがある物だと思うわ」
「そうですね。でなきゃ、あたし達に取り返して欲しいと、おっしゃるはずないですからね」
「そうよね、ジェニファー」
女の子同士意見が合う。
そうしてる内に、塔が見えて来た。
「何か、不気味な塔ね」
「うん。妖気が漂っているというか。ん? どうした、ジェニファー?」
ジェニファーは、シトラスの後ろで怯えていた。
塔から感じる気配に、気後れしたらしい。
シトラスは、優しく彼女の手を握る。
「大丈夫だよジェニファー。俺がついてる。怖かったら、俺の後ろに隠れてて」
「う、うん……」
ジェニファーはキュンとする。
こういう事を、サラッと言えちゃうシトラスって、凄い。いつそんな事を覚えたのか、知らない内に女の子の心をときめかせている。
少し羨ましいな、とロックは思った。
ただ、本人にその自覚があるのか無いのか、微妙な所だ。
シトラスが扉を開ける。
中は思ったより広く、明るかった。
「魔物は、出て来ないな」
「シトラス、あそこに階段がある。あそこから上に上るんじゃないのか?」
「よし、行ってみよう」
手すりに手を掛け、駆け上る。
が、中段まで来た所で、いきなり段が消えて無くなった。
「ほえっ?」
滑り台みたいに、転げ落ちて行く。
勢いよく、壁にぶつかった。
頭の回りに、ひよこが回ってる。
「いったーい。何なの、もう!」
「姉さん、みんな、大丈夫か?」
たいしたケガはないようだ。
服の汚れを払い、立ち上がる。
ロックが階段を見た。
「どうやら、罠が仕掛けられているみたいですね」
「じゃあ、わたし達、上に行けないって事?」
「待って下さいサララさん。今調べ……、ん?」
階段の脇に、謎の紐がぶら下がっている。
「何だ、この紐?」
と、紐を引っ張ると、階段の段が現れた。
が、紐を放すと、
ガタン。
段は無くなり、滑り台に戻る。
「誰かが、紐を引っ張っていなきゃ駄目なの?」
「待てジェニファー。何か重りになる物があれば……」
「でもシトラス。そんな物何処にも無いわよ」
「う〜〜ん」
その時、サララが名案を閃いた。
「そうだ! その手すりに紐を縛れば……!」
「あ……」
「重りの代わりになるんじゃない?」
さすがサララ姉さん。早速、シトラスとロックが紐を手すりに縛りつけた。
ギュウウウウウ。
段が現れる。
今度は慎重に上ったが、段が消える事は無かった。
「やった!」
無事に二階にたどり着く。
「ほう。よく二階にたどり着いたゲロ」
「誰だ!?」
奥から何者かが跳ねて来る。
カエルの姿をした、緑の肌の魔物だ。
ただし、二本足で立っている。
「ゲロゲロ。ぼくはゲロゲロだゲロ。今からお前達の相手をするゲロ」
ゲロゲロは、シトラス達に近づく。そしてシトラスの隣にいたジェニファーの顔を見た途端、
「か、か、可愛いでゲロ〜〜!」
手を伸ばし突進するも、つまずいて転んだ。
ジェニファーの胸に手が触れる。
「おお〜〜。柔らかくてあったかくて、でも、小さいでゲロ〜〜!」
ジェニファーはみるみる表情が変わり、
「何するのよ!!」
怒りのパンチが、ゲロゲロの腹を捉えた。
「ゲロ〜〜〜〜ッ」
ゲロゲロは後ろの壁に衝突し、そのまま消滅した。
女の怒りは怖い。
シトラスとロックは、恐ろしい物を見たという顔で、怯えている。
ゲロゲロの落とした石は、白だった。
その石を拾い、ジェニファーが言う。
「ま、こんな物でしょ」
そこに、怒りの影が現れる。
「よくも、我が弟を……!」
ゲロゲロよりも体格がいい、焦げ茶色の表皮に白の斑点があるカエルだ。
「我はゲコゲコ。我が弟の恨み、晴らしてくれよう」
大きく息を吸い込む。
そして歌い出した。が、これが音痴。
「秘技、カエルの合唱!」
壁や天井にヒビが入っていく。
超音波攻撃だ。
シトラス達は思わず耳を塞ぐ。
超音波の衝撃が、彼らを吹き飛ばした。
「わ〜〜っ!」
ゲコゲコは自信たっぷりだ。
「どうだ。骨まで痺れる歌声だろう。もう一曲、最高なのを歌ってやろう」
「ウウ……」
冗談じゃない。
これ以上、下手くそな歌を聞かされたら、耳が壊れてしまう。
ジェニファーは杖に力を込めた。
「バーニングバード!」
燃え盛る炎の鳥が、ゲコゲコの体を焼く。
黒焦げになって立ち尽くす敵に、ロックの矢がトドメを差した。
「やったね、ロック!」
「ああ、見ろよジェニファー。灰色の石だぞ」
「ふふっ」
白い石を落とす魔物は、レベルでいうと1〜15位まで。灰色の石は16〜30までだから、この魔物を倒したロックとジェニファーは、それなりに強いという事だ。
シトラスが階段を見つける。
サララが呼んだ。
「ジェニファー、ロック。そろそろ次に行くわよ」
「わ〜。待って下さいサララさん。オレを置いて行かないで〜」
「あたしも〜」
やれやれ。
次の階は、一体何が待っているのやら。