新しき地へ
水晶玉には、どんな景色が映っているのだろう。
シトラス達には見えない。
弟さんが顔を上げる。
「分かったよ。君達の次の目的地なんだけどね。ん? あ〜〜!」
「どうしました?」
目的地を告げるのかと期待していたが、弟さんの慌てぶりにシトラス達は何事かとビクついた。
が、弟さんはしれっと、
「何でもないよ。ただ、言ってみたかっただけ」
ガクッ。
このタイミングで来るか。
シトラス達は椅子から転げ落ちた。
「ん〜。グッドタイミング! リアクションばっちりだね。凄いよ、君達」
グッドタイミングじゃないよ。
こっちは期待してるのに。
何か、疲れた。
「あ〜ゴメンね。真面目にやるから。君達は次に、闘技場に行けばいいと出ているよ」
「闘技場、ですか?」
「うん。ちょっと地図貸して。ほら、ここだよ」
シトラスが差し出した地図を指差す弟さん。
闘技場は、グリンズム王国の東南にある、小さな島にあった。
「この闘技場の現チャンピオンが、リカの街の場所を知ってると出ているよ。それしか、水晶玉からは読み取れなかった」
「分かりました。闘技場に行ってみます。ありがとうございました」
礼を言って館から出て行こうとする一行を、弟さんは呼び止めた。
「あ、待ってシトラス君。君自身の事が少し見えたんだ。君は……、複雑な運命を背負っているね」
「複雑な運命?」
「うん、それは……」
「それについては、わしが話そう」
いきなり、館のカーテンが開いた。
その人物に、弟さん他、シトラス達も驚く。
「に、兄ちゃん!」
「神父さま!」
懐かしい、アルズベルトの神父の姿があった。
びっくりし過ぎて、弟さんまで椅子から滑る。
「びっくりしたよ兄ちゃん。何も聞いてないから」
「いや、久しぶりにお主の顔を見ようと訪ねたら、まさかシトラス達に会うとはの。わしも驚いたわ」
「神父さま……」
懐かしさと嬉しさで、どう話していいか分からない。
神父さまは、子供達の肩を抱いた。
「久しぶりじゃなお主達。元気そうで何よりじゃ。おうおう、涙で顔をぐちゃぐちゃにして。いいのじゃよ。辛かったのじゃろう。思い切り泣きなさい」
神父さまの顔を見た途端、何故だか涙が溢れてきた。今までの事が一気に思い出される。話したい事がたくさんある。気持ちが、徐々に落ち着いてきた。多分、安心したのだろう。
「落ち着いたかの。よしよしいい子達じゃ。ではなシトラスよ。お主の事じゃ。お主は……、サララと本当の姉弟では無いのじゃ」
「え!?」
シトラスは言葉をなくしてしまった。
ロックとジェニファーも、衝撃を受ける。
神父さまは静かに続けた。
「済まない。ずっと言えなかったのじゃ。シトラスお主は、別の村から来たのじゃ。その村は、魔物の襲撃を受けての。滅びる寸前、村人達は船で海へ出た。その時、その村の村長と親交があったサララ一家に、赤ん坊のお主は預けられた。サララはその時より、お主の姉になったのじゃ」
「姉さん……」
「アルズベルトの者達がお主を嫌っていたのは、その村と同じように滅ぼされるのが怖かったから。サララの両親も、最初はさんざん言われたのじゃ。何故勇者を連れて来たとな。両親が亡くなった後も、サララはお主の姉として守ろうとした。わしも同じじゃ。悪いのは勇者ではなく、魔王なのじゃから」
「神父さま……」
シトラスはまた泣きそうな目になっている。
ジェニファーが慰めようと声をかけると、彼は微笑んでみせた。
「平気だよジェニファー。俺、やっと分かった。姉さんと似ていなかった訳も、村の人達に嫌われてた訳も。そうか。そうだったんだ」
「シトラス、お主……」
「神父さま、話してくれてありがとうございます。俺、泣きません。血が繋がってないのに、俺を支えてくれた姉さんの為にも、前に進みます」
「強くなったな。シトラス。本当に……」
神父さまはもう一度、シトラスを抱きしめた。
そしてアルズベルトの者達が、今はもうシトラスを追い出した事を後悔して、今度こそ村の家族として迎えたいと思っている事を告げた。
ロックとジェニファーにも、シトラスと一緒に一度村に帰らないかと言ってみたが、彼らは断った。
村に帰ってしまえば、両親に甘えてしまう。
魔王を倒す決心が、鈍るかもしれない。
今しがた話を聞いたシトラスも同じこと。
だから、このまま行く。
「神父さま、それと弟さん。俺達行きます。占ってくれて、ありがとうございました」
「シトラス君、ロック君、ジェニファーちゃん。気をつけてね。お土産、ありがとう」
「シトラス。お主達の無事を、わしも祈っておるぞ。わしらは、家族じゃ」
「はい!」
ジェニファーがシトラスとロックの手を繋ぐ。
テレポートで、飛んだ。
グリンズム王国に到着すると、王様、王妃様、ナジム王子が出迎えてくれた。
ミリーとエリスの姿も見える。
みんな今か今かと、外の様子を伺っていたらしい。
シトラス達は早速、占いの結果を報告した。
「そうか。闘技場か。そこの場所ならこの王国から近い。よし、勇者達へのお礼に、船を一隻差し上げよう」
「えっ!? そんな、王様」
さすがに船一隻のお礼なんて大きい。シトラス達は断ろうとしたが、ナジム王子もそれを勧めた。
「いいから。ボクもあなた達には感謝している。この国を救ってくれた事。ボクの事を正してくれた事。船一隻じゃ足りないくらいだよ。それに、これからの旅、船があった方が便利でしょ?」
「そうだ。余も、感謝しても感謝しきれない。遠慮しないで貰ってくれ。ただし、準備があるから、時間が欲しいが」
そこまで言われたら、断る理由が無い。
船の用意ができるまで、シトラス達はナジム王子に戦闘の仕方を教えていた。
初めて握る剣だが、なかなか素質がある。
少し基礎を教えた所で、ミリーが呼んだ。
「皆さん。出航の準備が整いましたよ」
さすが軍事王国の船。
操縦しやすいように中型といっても、立派な帆に大砲までついている。
「立派な船を……。王様、ありがとうございます!」
「礼はいいのだ。そなた達の航海が安全なものであるように、余達も祈っておるぞ」
「はい!」
船に乗り込む。
兵士達が錨を外した。
手を振る王様達に見送られ、グリンズム王国に別れを告げる。
闘技場で待っているのは、何?




