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懐かしき人達

 時間は少しさかのぼる。

 それは、シトラス達がグリンズム王国に到着する時だった。

 彼らが育った村、アルズベルト。

 サララの墓の前。

 神父さまと、ジェニファー、ロックそれぞれの両親が手を合わせていた。

 墓にはサララ愛用の剣が供えられていた。

 ロックが送ってくれた物だ。

 いつまでもこれを持っていると、シトラスがサララの死を引きずるからという理由で。

 ロック自身も、見ているのが辛かったのだろう。


「サララ。お主達が守ってくれた村は魔物の気配もなく、今は平穏じゃ。ありがとう。これからはゆっくりお休み。と言っても、お主は空の上からシトラス達の事を見ているかもしれないが」


 ロックとジェニファーの両親から鳴き声が漏れる。


「どうかしたのか? お主達」

「神父さま。サララをこの村から出してしまった事が、本当に申し訳なくて。まさか、こんな若くして亡くなってしまうなんて」

「若いとか若くないとか、そんな事は関係ないぞ。要は、その自分の人生をどう生きるかじゃ。サララは病を抱えながら、シトラス、ロック、ジェニファーを導こうとしたのじゃ。その生き方は、シトラス達に受け継がれておるよ。現に、あの子達は、今もどこかで戦っているのじゃろう」

「ええ。初めは、息子達を連れて行った勇者を恨みました。けれど、ドグアック城の使者や、遠くビグアック大陸からの人達の話を聞いて分かりました。わたし達は、本当は勇者に、シトラスに守られていたと」

「うむ。そうじゃな」


 実はこの墓参りの前日、ドグアック城の使者がアルズベルト村にやって来た。そこで村長や村人達に、シトラス達の活躍を伝え、アローナ姫を救ってくれたお礼として、王様から賜った贈り物を届けに来たのだ。これには、村人達も驚いた。当のシトラス達だけじゃなく、故郷の村にまで贈り物が届けられるとは。それだけ、感謝しているという事だろう。

 更に、使者が帰った後、今度は遠くビグアック大陸のユノ村から、村長と娘のアミーちゃんが訪れた。アミーちゃんは、ここがお兄ちゃん達の育った所かと、大変喜んでいた。村長は、村人達に勇者達に救われた経緯を伝え、そっとサララの墓に手を合わせて行った。そして、今度はユノ村名物の温泉に是非いらして下さいと言って帰った。


「息子が……、ロックとジェニファーがさんざん言っていたのに、わたし達は聞きもしなかった。それどころか、シトラスを追い出すような事をして……。可哀想な事をしました。もしまた会えるとしたら、今度はこの村の一員として、ちゃんと迎えてやりたい。そう思います」


 神父さまは笑顔を見せ、遠くシトラス達を思う。


(シトラス、ロック、ジェニファー。お主達は今何処にいる? 村の中でも、お主達の理解者は増えておるよ。陰ながら、わしも応援しているから、笑顔でまた会いたいのお)


 良く晴れた、鳥が空を舞う日の午後の事。



 それから時間を戻して、現在(いま)

 グリンズム王国から、ジェニファーのテレポートでジングー村に向かっているシトラス達。


 ヒュウウウウウ。


 光が消え、着陸した。

 辺りを見回すシトラス。

 見た事がある景色だが、ここはーー、


「ジェニファー。ここ、ハナノ村だよね?」


 ハナノ村とは、年に一度、花に感謝するお祭りがある花畑で有名な村である。

 シトラス達が向かうドグアック大陸と隣の、ビグアック大陸にあった。


「どうした? やっぱり一気に遠くに飛ぶのは無理だったか?」

「うん。それもあるけど、思い出したの。次に来る時に、手土産を持って来てくれればいいって言ってたの」

「あ〜。そう言えばそんな事言ってたな、あの人」

「うん。だから、ここに降りたついでに手土産を探そうかなって」

「だったら、オレが見て来るよ。ジェニファーは、そこのベンチで休んでな。シトラスも」

「え? 俺も?」


 ロックの言葉にシトラスは戸惑った。

 別に自分は疲れてないから。

 ロックは、ジェニファーに聞こえないように、シトラスの耳元で囁く。


「シトラス、分かってないな。ジェニファー疲れているんだから、お前の膝で眠らせてやれ」

「いっ!?」

「それくらいしないと、進展しないぞ。頑張れよ。じゃあな」


 ロックは言うだけ言うと、人混みの中に消えた。


「ロック、何だって?」


 ジェニファーがシトラスに尋ねる。

 シトラスはポッと顔を赤らめ、ごまかそうとする。


「な、何でもないよ。それよりジェニファー、そこのベンチで横に……、い、いや、休まないか?」


 その一言を、ジェニファーは聞き逃さなかった。


「ん? 横に……? シトラス、膝貸してくれるの?」

「うっ。ごほんごほん」


 むせたような声を出す。

 それでジェニファーは分かった。

 やっぱり、ロックに何か言われたんだ。

 シトラス、顔赤かったし。

 ジェニファーはからかうようにクスッと笑った。


「分かったわ。あなたの膝枕で。って、冗談よ。今日は、肩を貸してもらうわ。いいでしょ?」


 言いながら、シトラスの肩にもたれかかってきた。

 すぐに寝息を立てる。

 シトラスは何か言おうとしたが、彼女の可愛い寝顔を見ていたら、何も言えなくなった。

 唇が、まあまあ近い。


 ドキン。


 心臓の鼓動が高鳴る。

 その唇に触れたら、どんな感じだろう。

 そんな事を考えているとーー、


「お〜い。シトラスよ〜」


 ロックの声に我に返るシトラス。

 ロックはニタニタ笑っている。


「お〜、いい感じじゃんシトラス。膝枕じゃないけど。それにお前、キスしようとしてただろ?」

「ブッ。な、何言ってんだロック。んな訳ね〜だろ」

「またまた〜、照れなさんな」


 その時、ジェニファーが起きた。


「ん〜。あ、ロックいたのね。お土産、買って来てくれたんだ」

「ああ。おはようジェニファー。ほら、花の形のクッキー」

「わぁ、可愛いパッケージ。これでジングー村に行けるね。ん? どうしたのシトラス」

「な、何でもない!」


 何故かムキになるシトラスをジェニファーは不思議がった。ロックは、笑いをこらえているよう。まあいいか。ジェニファーは再び、魔法を使った。



 ジングー村。占いの館。

 カーテンを開くと、びっくりした顔の村長の弟さん。

 すぐに笑顔に変わった。


「お〜。僕ちん驚いちゃった。驚いちゃって、踊ろかな」


 シトラス達はボ〜。

 弟さんは話題を変える。


「と言うギャグもあるんだ僕ちん。さぁ、冗談はこれくらいにして、中に入って。今日は一体どうしたの?」


 シトラスはお土産を手渡すと、ここに来た訳を話した。


「そう。これから何処に行くべきか、行き詰まった訳だね。分かったよ。では早速占おう」

「あ、その前に……」


 シトラスが釘を刺す。


「あの、占ってるフリして、くしゃみをするのは無しですからね」

「はいはい。けど君達も、ずっこける準備はできてるじゃん」


 見ると、シトラス達は椅子に浅く腰かけている。

 いつでもリアクションが取れるように。


「では……」


 水晶玉に手をかざす。

 みんなの目が、真剣になった。


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