VSエルウィン
閉じられた扉の近くで国王とナジム王子が見守る中、シトラス達とエルウィンとの戦いが始まった。
ナジム王子はその小さな瞳で、ジッと戦の行方を追おうとしている。
責任を感じているのか。
自分がエルウィンの科学力を信じてしまったせいで、死ななくてもいい科学者の命が、失われた。
ミリーとエリスにも、怖い思いをさせてしまった。
止める事は、できたはずなのに。
目の前の楽しい事、楽な事を優先してしまい、自分の事しか考えなかった。
いずれ国を担うという自覚と、責任が無かった。
涙が溢れてくる。
シトラス達の姿が、ぼやけていた。
「ナジム……」
父親の力強い腕の中に抱きしめられた。
国王もまた、自分への怒りを感じていた。
エルウィンの愚行を止められなかった悲しみ。
もっと早く行動していたら、犠牲者は出なかったのではないか。
ナジム一人に押し付ける気は無い。
「父上……」
「ナジム。我々には責任がある。この国の為に、民を守るという責任が。だが、大切な民が……、科学者達が失われてしまった。シトラス達は今、余達の代わりにエルウィンを倒そうとしている。その戦いを逃さず、しかと見届けるしかない。科学者達の無念の思いを、忘れない為に」
「父上……、はい!」
国王の言葉を胸に、ナジムは涙を拭いた。
シトラス達を見つめる。
エルウィンは、空から急降下していた。
体全体を回転させる。
その風はまるでドリルのように、鋭い穴を床に何個も開けていた。
シトラス達はバラバラに逃げ回っている。
「ウイングナイフ!」
ジェニファーの放った細かい風だが、エルウィンの周りの竜巻にはね飛ばされ、彼女自身に返って来た。
ピシッ。
服があちこち切れる。
白い腕や足から血が出て、ジェニファーは床に倒れた。
「ジェニファー!」
シトラスが駆けつけようとするが、エルウィンに邪魔される。
ドリルのように急降下。
シトラスはギリギリ避けた。
その風が無くなる瞬間を狙い、ロックが後ろから一発。
「炎天狩射!」
ボオオオ……。
炎の矢が貫いた。
エルウィンは悲鳴を上げる。
羽をばたつかせ火を消した。
キリキリと歯ぎしりをし、睨む。
ジェニファーは自身にキュアリーを唱えると、シトラスに起こされ、立った。
低い姿勢から真っ直ぐシトラスとジェニファーの元に飛んでいくエルウィン。
口から超音波の光線を吐く。
ジェニファーはハッとして、
「シールドっ!」
大きな盾が現れ、シトラス達を守る。
シトラスが前に出て来て、剣でエルウィンを突いた。
「五月雨!」
容赦はしない。
悲しい怒りが、彼を動かしていた。
エルウィンは宙を舞い、ドスッと床に落ちた。
「ううう……」
頭を上げた時、シトラスの剣が体のギリギリで止まっていた。
「ゆ、勇者……」
「エルウィン。いくら魔王の命令とはいえ、お前のやった事を、俺は許せない」
「魔王様は、この国の科学力を利用しろとおっしゃっただけ。科学者達を殺したのは、わたしの意思です。だってそうでしょう。人間は、弱いのですから」
ズバアッ。
シトラスの剣に刺される。
何も言わず、エルウィンは消滅した。
その跡に、王様が近づく。
そして呟いた。
「エルウィン。確かに人間は弱い。しかし、だからこそ、強くなる事もできるのだ」
シトラス達は、無言で頷いた。
その後、地下にあった科学者達の遺体は兵士達により丁寧に庭に運ばれ、埋葬された。
手を合わせる国王。
王妃やナジム王子、ミリーとエリス、シトラス達もいる。
「皆、辛かったな。余は、エルウィンの悪意に気づく事ができなかった。その為に、そなた達という犠牲を払う事になり、すまなかったと思っている。今は、ゆっくりと休んでくれ」
王妃が、ナジム王子を促す。
ナジムは、花束を科学者達の墓に供える。
「みんな……。許してくれ。ボクがエルウィンの力を信じたばっかりに、みんなは、こんな姿になったんだ。どう詫びていいか分からない。ただ、みんなの魂に誓うよ。ボクは王子として、これからこの国の為に生きる。わがままも、止めようと思う。父上から、勉強や戦闘の仕方を習って、科学だけに頼らず、強くなりたいと思う。だから、見守っていて。もし、間違った事があっても、正しい道へ歩けるように……」
「ナジム……」
王妃が側に来て、そっとナジム王子の頭を撫でる。
そして科学者の為に祈った。
「わたくし達も、お側にいますよ王子様。これからもずっと、あなたを支えていく所存です」
「ミリー、エリス。二人とも、あんな思いをさせたのに……」
エリスがナジムの手を握った。
優しく微笑む。
「わたしは平気です。王子様。あなたを支え、守る事が、今のわたしの務めなのです。ですから、これからもずっと、お側で仕えさせて下さい」
「エリス、ありがとう」
シトラス達も笑顔で見ていた。
もう、この国は大丈夫だ。
心を入れ替えたナジム王子と王様が、平和に導いてくれる。
大きな犠牲は、払ってしまったが。
魔物に怯える事もないだろう。
王様が、シトラス達に問うた。
「シトラス。そなた達はこれからどうするのだ?」
シトラスは王様に、自分達はリカの街という所に人を探しに行くと告げる。
王様は地図を眺めながら難しい顔をした。
「シトラス。残念ながら余もリカの街という場所は聞いた事が無い。この地図にも、それらしい街は載っていないようだ」
「そうですか」
「そう落ち込むな。地図上には無いが、隠れた街や村があるらしいという話は聞いた事がある。この街も、そうかもしれないぞ」
「じゃあ……」
「うむ。まだ、希望はある」
ただ、地図上に無いとなると、リカの街にどう行けばいいのか。シトラス達は悩んだ。
「あ!」
ジェニファーが何か思いついた。
シトラスが聞く。
「ジェニファー。いい案でもあったのか?」
「うん。神父さまの弟さん。あの人に占ってもらえば……」
彼女が言っているのは、ドグアック大陸にあるジングー村。そこで、アルズベルト村でシトラス達を可愛がってくれた神父さまの弟さんが占い師をしているのだ。
「けど、ジングー村まではかなりの距離があるぞ。そこに行くっていうのは……」
「そう。それに、船は無いぞ。オレらがそこに行く手段は……」
「もう、シトラスもロックも、ちゃんと聞いてよ。あたし、魔法書で見たんだ。一度訪れた場所なら、どこでも飛んで行ける魔法を」
「ホントか? ジェニファー、できるのか?」
「うん。多分問題無いと思う」
「やったな。これで何とかなりそうだ」
喜ぶシトラスとロック。
王様が言った。
「では、その占いで行き先が分かったら、またこの城に戻っておいで。礼がしたい」
「ボクも、剣を教えてもらいたい」
「分かりました。必ず戻って来ます。それでは」
「うむ」
シトラス、ロック、ジェニファーは丸く円になる。
お互いの手をつないだ。
「テレポート!」
ジェニファーの呪文。
ヒュンと光に包まれ、一瞬で消えた。
再び、ドグアックの大地へ。
そこで見える物は、何だろう。




