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エルウィンの正体

 シトラス達が王様と王妃様の前に戻って来た時、そこには彼らに話をしてくれた女官の女性もいた。

 彼女はミリーという名で呼ばれていた。

 王様がシトラス達に気がつく。

 側に呼ばれた。

 シトラス一行は横一列に並び、お辞儀をして敬意を示す。


「して、何か分かったかなシトラスよ。研究所にも行ったと聞いたが」

「はい。そこでナジム王子様とエルウィンさんにお会いしました」

「そうか。ナジムは研究所に入り浸っておるからの。最近は、余や王妃と話をする事も少ない」

「お元気そうでしたよ。俺の見た目の印象ですが」

「構わんよ。して、エルウィンは何をしていたのだ?」

「はい。エルウィンさんは……」


 シトラス、ロック、ジェニファーはあの研究所で見た事聞いた事を、王様達に詳しく話した。


「そうか。エルウィン以外の科学者達が奥の部屋にいるのは間違いないのだな。しかし、ナジムに大砲を作るなど。あの子はまだ、戦闘訓練もしておらんのだぞ」


 王様のその言葉に、王妃様も同調した。


「ええ、その通りですわ。ナジムはまだ11才。王子とはいえ、子供です。その子供に大砲などと、危険なおもちゃを与えたと同じです。前に、爆発するビー玉を与えた事がありましたね。それさえも嘆かわしいのに、何を考えているのでしょう」


 王妃は目頭を押さえる。

 涙が一筋、頬を流れた。

 その姿に、シトラス達は何も言えなくなる。

 王様が言った。


「余と王妃は三年もの間、子宝に恵まれなかった。ナジムは、ようやく生まれて来てくれた待望の子だ。それも王子。少々、甘やかして育ててしまった。あれがわがままになったのは、余達の失敗だ。危険なおもちゃも、取り上げる事ができないままだ」

「王様……」

「しかし、そなた達のおかげで、研究所の内部も、エルウィンの事も、少しずつ明らかになってきた。ありがとう。部屋を用意しておいたから、今日は休みなさい。ミリー、案内を」

「はい」


 女官ミリーの案内で、シトラス達は王様の元を後にする。

 途中、あのメイドの女官と出会った。

 ミリーが彼女に話しかける。


「エリス。仕事終わったの?」

「ええ。今日は早めに終わらせた。それよりミリー、この方達は?」

「国王様の客人である、勇者の方達よ。しばらくこの城にいらっしゃるというので、お部屋に案内して差し上げる所よ」

「そうなんですか。よろしくお願いしますね」


 笑顔が不安げだった。

 今も、怯えているのが分かる。

 エリスはシトラス達に一礼して部屋に向かった。


「さぁ、こちらです」


 ミリーがドアを開ける。

 広い。

 ベッドが三つに大きな窓。

 天井に吊り下げられたシャンデリア。

 村育ちのシトラス達にとっては、ため息が出るほどだ。


「近くにわたくし達女官の部屋もありますから、ご用があったらいつでもお呼び下さい。それと、お洗濯物がたまっていませんか? もし良かったら、わたくし達が洗いますよ」

「えっ、それは……」


 遠慮するジェニファーの耳元でミリーが囁く。


「ご心配なさらずに。ちゃんと男性用と別の所で干しますから。あ、部屋は一緒でごめんなさいね」


 クスッと笑う。

 ジェニファーは袋に入れた洗濯物をミリーに渡した。

 二重になっている為、シトラス達の分と分けてある。


「じゃあ、よろしくお願いします。すみません、こんな事まで」

「構いませんよ。わたくし達も勇者様がいらしてくれて嬉しいですから。では、ごゆっくりお休み下さい」


 ミリーが出て行く。

 ジェニファーが早速ベッドに腰かけた。


「わぁ〜。柔らかくてふわふわ〜。寝心地良さそう〜」

「ほんとだ〜」


 シトラス、ロックも横になる。


「こういうベッドだったら、オレ、いつまでもこの城にいたいな〜。女官の人も美人だし」

「美人の女官さんは置いといて、シトラス、あたしもここ気に入った。この件が解決するまで、いるんでしょ?」

「ん〜。そうだな〜。ま、困っている人を放っては置けないからね」

「よっ、さすが勇者!」

「おう!」


 その後、彼らは明日に備えて早めに消灯した。

 ほのかな足下の明かりだけ残して。

 が、事件は明け方に起こった。



「キャアアアアアッ!」


 響く女性の悲鳴に、シトラス達は飛び起きた。

 ベッド脇の武器を素早く取り、廊下に出る。

 ある女官の部屋に、魔物が集まっている。

 兵士達が対応していた。

 コウモリの魔物、ドラキューだ。

 兵士達と協力して、ドラキューを倒す。

 部屋に入ると、ベッドの上で震えるエリスの姿があった。


「エリスさんでしたよね。ご無事ですか? お怪我は?」

「あ……、は、はい。大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」


 そこに、騒ぎを聞きつけた王様、王妃様、ミリー、それにナジム王子まで駆けつけた。


「エリス、大丈夫?」


 ミリーが震えるエリスの肩をそっと抱く。

 王様は、兵士達が持っていたストーンモンスターの石を見て、怪訝な顔をした。


「どうして、魔物がこんな所に……」

 

 城の外から魔物が入った様子はない。

 常に兵士達が交代で見張っているからだ。

 では、一体どこから。

 その時、王妃の側にいたナジム王子が、何かに気づく。


 ガタン。

「わっ!」


 兵士達をなぎ倒して何者かが部屋に押し入った。

 それは、エルウィンと共に研究していた科学者の一人だった。

 だが、様子がおかしい。

 異様なうめき声を上げている。

 筋肉が、メキメキ膨れた。

 身体がグッと大きくなる。


 ダッ。


 襲いかかってきた。

 びっくりしたナジム王子が、ビー玉を投げる。

 科学者の身体に当たり、爆発した。

 王様達やシトラス一行は咄嗟に伏せたので怪我はない。

 煙が止み、見てみると科学者は仁王立ちしていた。


「王子……様……」


 ナジム王子に話しかける。


「エルウィン、が……、わたし達を、実験台に……」


 血を吐き倒れた。

 そのまま動かなくなる。

 ミリー、エリスの悲鳴が響いた。

 突然の事に、シトラス達は呆然とする。

 王様が、兵士達に科学者の遺体を運ばせた。

 ナジム王子は、


「あ、あああああああっ!」


 パニックを起こしていた。

 王様と王妃様が落ち着かせようとする。


「ナジム、落ち着くのだ!」

「大丈夫ですよ、ナジム」

「あああああっ、触るな!」


 王妃様を突飛ばし、暴れる。

 さらに、例のビー玉を投げた。


 パシッ。


 王様に当たる直前に、シトラスがそのビー玉を掴む。

 爆発はしない。

 何かに当たらないと、爆発しないように設定されているみたいだ。


「ナジム!」


 王様が、王子の頬を叩いた。

 ナジム王子は、赤い頬を押さえ、王様を見る。

 パニックは、収まっていた。


「そんな危険な物を、人に向けて投げるとは……! 分かるか? 余や王妃が、どれほどお前を案じているかを。科学が発展すれば、国は豊かになるだろう。だが、過ぎた兵器は、身を滅ぼすものだ。お前には、王子として、自分の心で考え、感じて欲しいと思っている。この国の為に、何ができるかを」


 目を赤くして、真っ直ぐ自分に訴えてくる王の言葉に、ナジムは何も言い返す事ができなかった。

 心に、ズシンと響いてくる。

 重い言葉だ。

 ナジムの目からも、涙が溢れてきた。


「父上……」

「ナジム。本当にエルウィンが、科学者に人体実験をしたのなら、それは許しがたい行為だ。人の、守るべき人の命を粗末にして。余は、悲しいぞ」


 ナジムは、グッと唇を噛んだ。

 ようやく分かった。

 本当に大切な物が。


「父上、ボク、エルウィンの所に行く。行って、真実を確かめてみる!」

「ナジム……」

「だから、父上と母上は残って。ミリーとエリスを見ていて。怖い思いを、させたから」

「いや」


 せっかくのナジムの決意だが、王様は否定した。


「余も行こう。お前と共に、真実を確かめに」

「父上……!」

「俺達も行きます!」


 シトラス達も名乗りを上げた。

 勇者として、この事態を放っては置けない。

 エリスは一応、用心をとって医務室に移された。

 王妃様とミリーが付き添う。

 シトラス達と王様、ナジム王子は地下に向かった。


 その頃、研究所のエルウィン。


「実験は、まあ成功したな」


 長い爪に黒い肌。

 その姿は、まさに、魔物ーー。






















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