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科学の結晶

 鍵の閉められた薄暗い部屋。

 シトラス、ロック、ジェニファーに女官は声をひそめて教えてくれた。


「実は、ここだけのお話なのですが、エルウィン様と共に研究していた科学者が、次々行方不明になっているのです」

「エルウィン様? 行方不明?」

「はい。エルウィン様は王子様のご指名により、科学長に就任なされました。そして、選ばれた科学者達とご一緒に、最強の兵器を作っていたのですが、その科学者達が消えてしまったのです」

「その事は、王様はご存知なのですか?」

「はい。ご存知です。ただ、エルウィン様は彼らは行方不明ではなく、研究所に閉じ込もって仕事をしているだけだと国王様におっしゃっていました。が、国王様は疑念をお持ちです」

「そうですか。では、ナジム王子はどのように?」

「ナジム王子様は、エルウィン様を信じておいでですから、全く疑っていないと思います」

「そうなんですか」


 シトラス、ロック、ジェニファーはため息をするようにハアと息を吐いた。ここまで話を聞いて、ますますエルウィンという人が怪しく思えてくる。もしかして、ナジム王子は、騙されているのではないかとも思えてきた。

 でも、それより気になる事が。

 ジェニファーが女官に聞く。


「ところで、どうしてあなたはその事をご存知なのですか?」

「それは……」


 今度は女官の方が息を大きく吐いた。


「実は、わたくしも国王様にお頼みされて、内部調査をしていたのです」

「内部調査、ですか?」

「はい。たまたま王子様付きの女官が研究所に行った所、エルウィン様によって科学者の方達が眠らされ、奥に運ばれるのを目撃したそうです。その女官はわたくしと仲が良いので、一目散に研究所から逃げ帰り、わたくしに知らせてくれました。しかし、彼女はエルウィン様に疑われているようです」

「それは、現場を目撃したという事で?」

「そうです。彼女は知らないと言っていますが、いつエルウィン様にばれるか分かりません。あの方に知られたら最後、彼女はとてつもなく怖い目にあうでしょう。この事を知っているのは彼女とわたくし以外はあなた達だけです。どうか、口外なさらずに」

「分かりました。話してくれてありがとうございます。あたし達も協力しますから、一緒に解決していきましょう」

「はい」


 勇者一行の協力を得て、女官は笑顔になる。

 シトラス達はだいたい想像がついた。

 エルウィンの影に怯えている女官というのは、先ほど会ったメイド姿の女性だろう。

 彼女の慌てぶり、間違いない。

 ドアの鍵を、そっと開ける。

 外に誰もいないのを確認して、シトラス達は通路に出た。

 女官も外へ。

 何事もなかったかのように、仕事に戻る。


「さて」


 シトラス達は、女官に教えてもらった研究所に行く事にした。

 疑いは、疑いのまま。

 本当は、違うかもしれない。

 実際に、見てみるまでは。

 ジェニファーが、シトラスの腕を掴んでギュッと近づく。


「どうした? ジェニファー。怖いのか?」

「うん。そんな、最強の兵器なんて。誰かを傷つけちゃうかもしれないでしょ。あたしも魔法を使うけど、そのへんは気をつけてる」

「確かにそうだな。剣は人を守る物だけど、同時に凶器にもなるんだって、姉さん言ってた。だから、むやみに振り回しちゃいけないと」

「そう。だから怖いの。その、実物を見た訳じゃないけど、何か、ね」

「大丈夫だよ。俺がついてる」

「オレも、な。ジェニファー」

「ありがと。シトラス、ロック!」


 二人の言葉に、ジェニファーは安心した。

 でもピッタリとくっついたまま離れない。

 胸の感触が、伝わってくる。


(あ、悪くないかも)


 シトラスはジェニファーに気づかれないようにニヤッとした。

 ロックも隣で笑ってる。

 ジェニファーもこの方が落ち着くみたいだし、ま、いっか。

 少し歩きにくいけど。



 研究所は、城の地下だという。

 地下室への階段を降り、鉄の扉を開ける。

 白く大きな大砲があった。

 土台に戦車のキャタピラーのようなタイヤがついている。


「これは……」


 シトラスが驚きの声を上げると、誰かが歩いて来た。


「凄いだろう。これはボクの為に、エルウィンが開発してくれた物だ」


 シトラス達より小さい、赤毛の男の子。

 着ている豪華な服装から判断して、王子様だろう。


「ナジム王子様ですか?」

「そうだ。それで、お前達は誰だ」

「国王様の客人であらせられる、勇者一行ですよ。王子様」


 白衣を着たスラッとした体型の男。

 眉が細く、目が吊り上がっている。


「勇者一行?」

「ええ。各地で魔物を倒している、戦士達だと聞きました。多分、我々の研究に興味があるのでしょう」


 エルウィンはニヤリと笑う。

 シトラスは合わせた。


「あなたが、エルウィンさんですか。優秀な科学者の方だと聞き及んでいます。今は、何の研究をなさっているのですか?」

「最強の兵器を、他の科学者の方達と開発中です。いわば、わたしの科学の結晶です。これがあれば、いかなる強い敵とも闘えるでしょう」

「他の科学者の方達は、どちらに?」

「奥の方で、設計図を書いてもらっています。真面目な方達ですので、気が散るのを嫌がるのですよ」

「そうなんですね。それで、いつ頃完成する予定ですか?」

「あと数日でできると思います。それまで、いらっしゃるんですよね」

「はい。完成するの、楽しみにしています」

「ええ。是非、見に来て下さい」

「はい」


 エルウィンとシトラスが握手を交わすのを、ナジム王子は誇らしげに見ていた。ここにもまた、エルウィンを信じている者がいるのだ。科学の力は、絶大だ。

 シトラス達は地下を後にする。

 ロックが聞いた。


「これからどうする、シトラス」

「そうだな。とりあえず、王様に報告しに行こう。今見た事、全部」

「だな」


 再び、国王様に会いに行く為歩く。

 エルウィンが正しいのかそうでないのか。

 それは、これから分かる事。








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