ドグアックの城
一夜明けたアルズベルト村。
ジェニファーの両親とロックの両親は、娘と息子の姿が見えないのに大騒ぎしていた。
家中を探し、置き手紙を見つける。
それを読んだ途端、泣き出してしまった。
〈パパとママへ。勝手に家を飛び出してごめんなさい。けど、あたしはもう、この村には居られません。シトラスがいなくなるのは、あたしには耐えられません。だから、彼と一緒に行きます。行って、魔王を倒して来ます。多分、この村には戻れません。だけど、それも覚悟の上です。だから、止めないで下さい。さようなら。元気でね。ジェニファーより〉
〈親父、お袋。今までオレを育ててくれた事には感謝してる。ありがとう。だけど、シトラスはオレの親友だ。それを、村から追い出すなんて許せない。あいつはいい奴だ。ただ勇者というだけで、嫌われる理由なんてあるのか? 確かに、魔王は怖い。滅ぼされるかもしれない。が、それが何だ。そんな事で、シトラスを追い出す理由にはならない。だからオレも村を出る。あいつの助けになって、一緒に魔王を倒す。さよなら。もう二度と戻らない〉
他の家からも村人が駆けつける。
そして手紙を読んだ。
「行こう。勇者が出て行くのは今日の朝だ。まだあの山の家にいるかもしれない。行って、ジェニファーとロックを連れ戻そう!」
ジェニファーとロックの両親を連れ、山に向かおうとする。
その時、教会から神父さまが出て来た。
「無駄じゃ」
「神父さま!」
村人達は戸惑う。
ジェニファーの母親が尋ねた。
「神父さま、無駄とは、どういう事なのですか?」
神父さまは、落ち着いてゆっくり答えた。
「ジェニファーとロックは、もう夜中の内に、シトラス姉弟と一緒に出て行ったよ。追ったとしても、もう何処にいるかも分からんじゃろうて」
「子供の足で、夜中に……。何で、何で止めてくれなかったんですか!?」
母親は神父さまにしがみつく。
「あの子達は相当な覚悟を持って、村を出て行ったのじゃ。魔王を倒すという事は、かなりの危険を伴うという事。命を落とす可能性もある。なのにわしらは、シトラスを追い出した事で安心して、何もしようとしなかった。そんなわしらに、何も言う資格は無いのじゃ」
「そんな、じゃあ、どうすれば……」
「毎日教会に来なさい。そしてせめてあの子達の無事を祈ろうぞ」
ジェニファーとロックの両親は、膝を落とし泣き崩れた。
村人達も言葉が出ない。
神父さまは、空を見上げた。
(シトラス、サララ、ジェニファー、ロック。いずれお主達の事を、分かってくれる日が来る。いつか無事で、その姿を見せてくれる日を、わしはここで待っておるよ)
爽やかな、青い晴れの朝だった。
その頃ー、
シトラス一行はドグアックという城を目指していた。
昨夜はあの後、ジェニファーの杖の明かりで歩けるまで歩き、休めそうな河原を見つけたので、寝袋にくるまって少し眠った。
川沿いの道を歩きながらシトラスが言う。
「姉さん、こっちの道であっているよね?」
サララは地図を見ていた。
ジェニファーが横から覗く。
「ええ。間違いないわ。この道を真っ直ぐ行って森の方に行くと、ドグアックの城に着く」
「その城に、何かあるんですか?」
今度はロックだ。
彼はシトラスの隣で、先頭のサララとジェニファーの後について歩いていた。
「ん〜、城も後で行くけど、まずは城下町ね。その街にコインの交換所があるはずだから」
ストーンモンスターの落とす石は、交換所でコインに変える事ができる。値段も決まっていて、レベルの低いモンスターの白い石は一つ100コイン。次の灰色の石は1000コイン。赤い石になると1万コインになる。あと、めったに出ないけど、金色の石を落とすモンスターがいる。これらはレアモンスターで、自らの体が発光している。もちろんレベルも高い。が、石の値段が5万コインと高価なので、一攫千金を夢見て探すハンターも大勢いる。
「楽しみだな。俺、大きな街って行った事ないから」
「あたしも〜〜」
「キレイな女の人が、いっぱいいるだろうなぁ。本当楽しみだな。シトラス」
「えっ!? それマジ? ロック」
ニタッとした顔をしたシトラスの耳を、ジェニファーが引っ張る。
「も〜! シトラスったら、デレッとした顔しない」
「いっ、痛てて。何すんだよジェニファー」
赤くヒリヒリする耳を押さえる。
そのジェニファーは、サララと先に進んで行く。
「も〜。何なんだよ〜」
シトラスも、後を追った。
ホント、乙女心は複雑だよ。
森を抜けると、すぐ賑やかな街並みが広がった。
行き交う人々も、店の多さも、アルズベルト村とは全然違う。
石畳の街並みだ。
シトラス達は初めての街に目をパチクリ。
サララがそっと話す。
「シトラス、ロック、ジェニファー。初めての街に興奮するのは分かるけど、あまりキョロキョロしちゃ駄目よ」
「は〜い。田舎者だと思われるもんね〜」
「そこまで言ってないじゃない……」
まあいいか。
サララはとりあえず、コインの交換所を探す。
大きな教会の隣に、それはあった。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうのお姉さん、綺麗だ。
シトラスとロックは思わず見つめる。
赤い顔のシトラスに気づいたジェニファーは、
「も〜、またなの!?」
と、杖を振り上げた。
「ちょ、ちょっと待てジェニファー。何でお前そんなに俺に突っ込むわけ?」
「え? そ、それは……」
シトラスの言葉に、ジェニファーは杖を下ろす。
「ん〜〜?」
シトラスがジェニファーの顔を覗いた。
今度は彼女が赤くなり、逃げる。
「え、ご、ゴメンなさい!」
ジェニファーはカウンターに。
カウンターでは、サララがみんなの分の石を出していた。
ロックがシトラスに近づく。
「シトラス、お前、分かってないの?」
「え? いや、まあ……」
「フッ。まあいいや。石がコインになったみたいだし」
「ああ」
コイン交換所の女性が、サララにコインを渡す。
「全部で6000コインですね。ご利用ありがとうございます。あの、もしよろしければ、荷物をそちらの預り所に預ける事ができますよ。各支部がありますので、旅の途中に支部で荷物を受けとる事ができます」
「へえ、そうなんですか。でも、お金は?」
「預り料として1000コインほど頂きますが、後は無料です。自由に出し入れもできますから、どうぞご利用になってはいかがですか?」
「は、はあ。ありがとうございます」
少し高いなと、サララは思った。まだそんなに荷物が多いわけではないし、後で考えようと、彼女はジェニファーと、シトラス達の元に行く。
「姉さん、これから城に行くんだよね」
「ええ、そうね。勇者として魔王を倒す為には、まずこの国の王に挨拶しないと」
四人は城への階段を昇る。
槍を持った兵士二人に止められた。
「待て、お前達。この城に何の用だ?」
サララが代表して言う。
「わたし達、アルズベルトから来ました。勇者として魔王を倒す為に、この城の王様にご挨拶がしたいのです」
「何? アルズベルト?」
アルズベルト村に勇者シトラスがいるという事は、ここドグアックにも伝わっていた。兵士の一人が城の入り口の扉を少し開け、女官に何かを伝える。女官は、奥に走って行った。シトラス達は、その間じっと待つ。やがて、扉が開いた。
「どうぞ。勇者ご一行様。お入り下さい」
ドグアックの城に、シトラス達は入った。
まだ二話しか投稿していないのに、ブックマークがチェックされていました。びっくりしてます。けど、ありがとうございます❗
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