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雪の魔女スノーマーメイド

 フェイボーがギラッと歯を光らせ、今度はサララの方に向かって来た。サララは剣を構え、空中のフェイボーを素早く十字に斬った。


「十字斬!」


 シトラスに剣を教えたのだから、同じ技が使えるのもうなずける。ただ、桜花斬と演舞斬は、サララのオリジナルの剣技だが。

 あれは彼女がやるから、美しいといえる。

 さて、サララの攻撃を受けたフェイボーはどうなったかというと、そのまま床に落ちた。


 ギリギリギリ……。


 変な音を立てている。

 ジョセフィーヌがハッとした。


「みんな、逃げて! フェイボーが爆発するわ!」


 シトラス以下、一行が出口に殺到する。

 が、ドアは鍵が掛かったように開かない。

 フェイボーがピョンピョン跳ねて来る。


「くっ……!」


 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 強烈な光と音と振動が、シトラス達を襲う。

 爆風に吹き飛ばされ、気を失った。

 やがて、シトラスが目を覚ます。

 フェイボーがいた部屋は完全に破壊され、瓦礫の山になっていた。

 彼は、壊れたドアの向こう、つまり、部屋の外に投げ出されていた。

 擦り傷だらけの体で立つ。

 仲間の姿が見えない。

 シトラスは必死に叫んだ。


「ジェニファー、ロック、姉さん、ジョセフィーヌ! どこだ、返事をしてくれ!」


 瓦礫の山の中から、微かに声がする。

 一番盛り上がっている所が、ガラガラと崩れた。

 タコの足が見える。


「シトラス、ちゃん……」

「ジョセフィーヌ!」


 シトラスは慌てて瓦礫の山を掘る。

 崩れた天井が、覆いかぶさっていた。

 剣を挟み、テコの原理で大きな板をどかすと、ようやくジョセフィーヌの顔が見えた。

 近くにサララとジェニファーもいる。

 動けるようになったジョセフィーヌが、中から邪魔な瓦礫を蹴り、這い出て来た。

 サララとジェニファーも自力で抜け出す。


「ジェニファー、姉さん、ジョセフィーヌ。無事で良かった」


 シトラスは安堵の表情を浮かべる。

 ジェニファーも、シトラスの無事な姿を見て笑顔を見せる。


「うん! 爆発した時、ジョセフィーヌが庇ってくれたの。瓦礫の中でも隙間があったから、あたし達に怪我はなかった。でも、ジョセフィーヌは怪我をしたみたい」

「えっ!? 大丈夫なのか、ジョセフィーヌ」

「問題ないわ。瓦礫が落ちてきた時、ちょっと足を切っちゃっただけだから。それに、ジェニファーとサララを守らないと、シトラスちゃん悲しむでしょ?」

「それはそうだけど、ジョセフィーヌも……」

「あら嬉しい❤️心配してくれるなんて。と、そんな事よりもシトラスちゃん、ロックちゃんが見当たらないの」

「なっ……!」


 シトラス、ジェニファー、サララは辺りを見回す。

 静かで音もしない。


「ロック、どこだ!? 返事をしてくれ!」

「ロック、ロック〜!」


 シトラスとジェニファーは瓦礫をめくって歩き回る。

 サララは悲痛な面持ちで、へなへなと腰を落とした。

 ジョセフィーヌが叱咤する。


「しっかりしなさいサララ! あなたがそんなんでどうするの?」

「で、でも……」

「もう、まだ決まった訳じゃないでしょ! 見なさい。シトラスちゃんとジェニファーは諦めてないわよ。それなのに、あなたが諦めるの?」

「ジョセフィーヌ……」

「さあ、分かったら立って。あなたがちゃんと探してあげないと、ロックちゃん、可哀想よ」

「ええ!」


 ジョセフィーヌの言葉に、サララはすくっと立ち上がった。

 ジョセフィーヌも頷く。

(これでいい)

 そう思った時だった。


「フフフフフ。あの男の子を探しているのね」

「誰だ!」


 急に響いた声に、シトラスが反応した。

 ジョセフィーヌは、その声に聞き覚えがある。


「あんた、スノーマーメイドね」

「そうジョセフィーヌ。裏切り者のあなたが、良く勇者一行をこの城に連れて来たわねえ。魔王様の下を去ったっていうのは、嘘だったのかしら?」


 ジョセフィーヌはその揺さぶりには答えず、あくまで落ち着いた態度で言った。


「それよりもあんた、ロックちゃんの居場所を知っているの?」

「あら、知りたい? フフフ。あの男の子好みだったから、爆発の寸前にここに連れて来ちゃった。だから、いくらその部屋を探しても無駄よ」

「……くっ。ロックちゃんに、変な事してないでしょうね?」

「会いたいなら、来るといいわ。通路を真っ直ぐね」


 スノーマーメイドの声が、そこで聞こえなくなる。

 サララは通路に飛び出した。


「姉さん、一人で行っちゃ駄目だ!」


 一目散に走るサララの腕を、シトラスが掴む。

 ジョセフィーヌとジェニファーも追い付いた。


「姉さん、落ち着いて。ロックを助けたいのは、俺達も同じ。けど、焦って突っ走っちゃ、助けられるのも助けられないよ」

「シトラス……」

「姉さん、いつも言ってたじゃん。冷静になれ。敵に隙を見せるなって。こんなの、姉さんらしくないよ」

「そうね、シトラス」


 まさか、弟に言われるとは。

 成長したな、とサララは思った。

 ジョセフィーヌとジェニファーが見つめる。

 サララは二人に言った。


「ジョセフィーヌ、ジェニファー、力を貸して」


 二人は笑う。


「もちろんよ、サララ。お付き合いするわ❤️」

「あたしも。ロックは大事な仲間だもん」

「ありがとう、二人とも」


 サララは前を見つめる。

 ロックのいる場所は、あそこか。


(待っててね、ロック。今行くわ)


 シトラス、サララ、ジェニファー、ジョセフィーヌは歩き出した。



 ダン、ダン!

 ロックは、自分を拘束するその物の中から出ようと、必死に拳でそれを叩いていた。


(寒い……)


 彼が閉じ込められているのは、氷の結晶の中。

 すぐ近くにはスノーマーメイドがいて、椅子に座っている。

 美しき氷の人魚。

 整った顔立ちに長い髪。胸は大きく、形がいい。腰もキュッと引き締まって、まさに理想のボディだ。

 だが、ロックにはそれをじっと見ている余裕が無かった。

 早く脱出しないと。

 体が凍ってしまう。

 しかし、武器の弓矢は、スノーマーメイドに奪われていた。


「ロック君。そんなに強く叩いちゃ駄目よ。ほら、手から血が出てるじゃない」

「オレを、どうするつもりだ?」

「何もしないわよ。ただ、見ていたいだけ。あなた、私の好みだから」

「えっ!?」

「フフフ。もうすぐ勇者一行が来るわ。あなたのそんな姿を見たら、彼らどうするかしらね」

「くっ。出せ、ここから出せ!」

「駄目よ。あなたはここにいなさい。どこにもやらないわ」

「……っ」


 寒さのせいか、意識が薄くなっていく。

 体に力が、入らなくなってきた。


(シトラス、サララさん、ジェニファー、ジョセフィーヌ……)


 ガチャン!

 ドアが勢いよく開いた。

 先頭のサララの目に飛び込んできたものは、


「ロック!」


 氷漬けのロックの姿。

 スノーマーメイドが椅子から立つ。


「ようこそ、勇者シトラス。お仲間のみなさん。そして、裏切り者ジョセフィーヌ!」


 高らかに宣言する。


「私はこの城の(あるじ)、スノーマーメイド。この男の子を助けるには、私を倒すしかないわ。けど、私は強いわよ! かかってらっしゃい」


 スノーマーメイドと、シトラス達が睨み合った。


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