氷の城、発見
ジョセフィーヌは道を知っているようで、シトラス達を引き連れてどんどん進む。シトラス達は黙っていたが、やがて口を開いた。
「ねえ、ジョセフィーヌ」
「なあに、シトラスちゃん」
「あの、あなたはこの山に棲みついた魔物を知っているの?」
「ええ。ここが雪の国で良かったわね。あの女にはピッタリ」
「あの女?」
「通称雪の魔女と、アタシ達は呼んでるわ。スノーマーメイドという、全身氷の人魚よ」
「スノーマーメイド……」
シトラスはそこで黙った。
何かを考えてる。
実はロックも同じ事を考えていたらしく、シトラスの肩に手を回した。
鼻の下が伸びる。
「氷の人魚……。なんて綺麗な響きなんだ」
「そうシトラス。きっと美しくグラマーな……」
「ストップ! 二人とも」
後ろからメラメラと燃える殺気を感じる。
恐る恐る振り向くと、サララとジェニファーがそれぞれの武器を構え立っていた。
怒りの表情。
シトラスとロックは冷や汗を流す。
「シトラスぅ、またエッチな事考えてたのね……!」
「ロック。わたしの方が綺麗よねぇ?」
「ちょ、ちょっと待てジェニファー。落ち着いて……」
「サララさん、剣を、収めて下さい」
「黙らっしゃい!」
女子二人の怒りが、ピークに達した。
同時に叫ぶ。
「他の女の事考えるなんて、許さないわ!」
「あわわわ! ごめんなさ〜〜い!」
シトラスとロックは頭を押さえ逃げようとする。
サララとジェニファーは、追いかける準備。
ジョセフィーヌが間に入った。
「待つのよサララ、ジェニファー。シトラスちゃん達謝っているじゃない」
「ジョセフィーヌ、どいて!」
「落ち着いて。いい? あなた達、嫉妬するって事は、この子達の事好きなのよね。正式に、付き合ってるの?」
「そ、それは……」
サララとジェニファーは戸惑い、動きを止める。
答えられない。
ジョセフィーヌはため息をついた。
「やれやれ、自覚が無いって事なのかしら。それじゃあシトラスちゃん達を殴る理由が無いわねえ」
「………」
ジョセフィーヌに言いくるめられ、サララとジェニファーは力無く武器を下ろした。
ジョセフィーヌは自信たっぷりに言う。
「まあ、一番美しいのは、このアタシよねぇ❤️」
鏡を見て、うっとりしている。
シトラスとロックは、ジョセフィーヌに感謝した。
「ありがとう。助かったよ、ジョセフィーヌ」
「オレも、殺されるかと思った」
そんな二人にジョセフィーヌはそっと囁いた。
ジェニファー達に聞こえないように。
「まあ、アタシも半分男だから、あなた達の気持ちは分かるわ。けど、伝えるものは、きちんと伝えた方がいいわよ」
「えっ、何を?」
「とぼけないの。彼女達の事、気になってるんでしょ。だったら、ガツンと告ってやりなさい」
「えっ、それは……」
「照れないで頑張るの。応援してるから」
ドンと背中を叩かれた。
彼女なりのエールだろう。
シトラスとロックはそれぞれ、サララとジェニファーの手を握る。
「シトラス……」
「ロック……」
男の子二人は、爽やかに笑う。
ジョセフィーヌも笑顔を見せた。
「それじゃあ、先を急ぎましょうか。こっちよ❤️」
軽くウィンク。
ジョセフィーヌに続いて、雪山を行く。
それにしても、結構別れ道がある山だな。
ジョセフィーヌがいなかったら、迷っていたよ。
って、彼女って、何で道を知ってるんだろう。
前にも、来た事がある?
「ジョセフィーヌ。ところで、あなた何で道を知ってるの?」
ジェニファーが尋ねた。
ジョセフィーヌは歩きながら答える。
「それはね。アタシ達魔物は、同じ魔物の気配を感じる事ができるの。この道から、あの女の気を感じるからね」
「しかし、何本もある道から辿る事ができるって、凄いね」
「フフッ。線みたいに見えるのよ。不思議だけどね」
「そうなんだ」
他の魔物の気配が分かるのだったら、ジョセフィーヌがいれば戦いが楽になるな。と、ちょっと思った。
「あ、氷の城が見えたわね。アタシ達の目的の花も、あの城のどこかにあるはずよ」
ジョセフィーヌが指差す先。
山の頂上にある、氷でできた城。
まるで彫刻のよう。キラキラ輝いている。
「入るわよ。あっ……!」
「どうしたんだ? ジョセフィーヌ」
「シトラスちゃん。あの女、気配を隠したわ」
ジョセフィーヌが困った顔をしている。
シトラスは気にせず、城の中に入った。
「仕方ないよジョセフィーヌ。一つ一つ捜すしかない」
「シトラスちゃん……」
「大丈夫よ。あたし達、こういうの慣れているから」
「ジェニファー……」
さすが勇者一行。動じない。
ジョセフィーヌも覚悟を決めた。
「分かったわ。乗りかかった船、アタシも協力するわ❤️」
「ジョセフィーヌ、でもそれだと、魔王を裏切る事に……」
「あらシトラスちゃん、アタシの心配? そうね、確かにアタシは魔物よ。でも、気に入っちゃったの。あなた達の事」
「ジョセフィーヌ……」
「まあ、何とかなるでしょ。細かい事は、後で考えるわ❤️」
おいおい、それでいいのか?
なんて気楽というか、自由な性格なんだ。
それがシトラス達と気が合っちゃった理由かも。
「あら〜、そんな事言ってる間に、お出迎えよ〜」
氷の塊が何個も。
と思ったら、顔が出て、手足がニョキッと生えた。
「彼らはアイシーね。みんな、準備はいい? 行くわよ!」
ジョセフィーヌの先制攻撃。
タコの足が、アイシーを貫いた。
シトラス達も続く。
「たあーっ!」
氷の城での、戦いが始まった。




