探検、ノースエガリア
雪の国ノースエガリアは、小さな島国だった。
スノブルという名前の村と、雪山しかない。
今、シトラス達はそのスノブル村にいた。
まずは預り所で、冬の装備を受け取る。
長いコートとブーツの女の子達。
雪国でしか見られない衣装は、新鮮に映る。
シトラス達もコート姿。
これで寒さも少しはましになった。
しかし、それにしても、この村は静かだ。
家の中で暖をとっているのか?
外に出ている人が、見当たらない。
猫が震えながら通りすぎる。
ピュウウウウ。
北風に雪が混じる。
コートの襟を立てながら、とりあえず近くの家から回ってみる事にした。
コンコン。
ドアをノックする。
一人のお爺さんが出て来た。
「あ、すみませんお爺さん。俺達この世界を旅している者なんですけど、この村について、お話を……」
「帰れ」
「えっ!?」
「わしに構わないでくれ」
ドアが勢いよく閉められる。
呆気に取られるシトラス達。
しかし諦めず他の家も回ってみるが、どこも同じようにつっけんどんな態度を取られる。
「どうなってるんだ、この村は」
「そうだねシトラス。何か変」
「大丈夫かジェニファー、震えてるぞ」
シトラスは彼女を抱き寄せる。
シトラスの横顔に、ジェニファーはキュンとした。
「けどどうする? このままじゃ風邪引くぞ、シトラス」
「そうね。わたし達を避けている理由が、何かあるのかもしれないけど、諦めないで探しましょう。もしかしたら、魔物に関係あるかも」
「うん」
五軒目の家。
にこやかで太ったおじさんが、玄関で対応してくれた。
震えるシトラス達。
事情を話す。
じ〜っと見られた後、家の中に入れてくれた。
「こんな寒い国まで、良く来たね。さぁ、中にお入り。震えてるじゃないか」
「はい。ありがとうございます」
コートを脱ぎ、お邪魔させてもらう。
部屋の中は暖かい。
暖炉の火が、赤々と燃えている。
おじさんが、ココアを入れて来てくれた。
「さぁ、暖かいうちにどうぞ」
「はい!」
ホッと一息。
心も体も満たされる。
おじさんが、この村の事情を説明してくれた。
「この村があんまり静かで、君達は驚いただろうね」
「ええ。俺達、この家の前に四軒ほど回ったんですけど、どこの家でも、追い返されました。まるで、旅人を嫌っているみたいに」
「済まないね。君達のような旅人を嫌っている訳ではないんだ。家の中に入って、病気が移ると困るからさ」
「病気、ですか?」
「ああ。実は、この村の先に雪山があるんだが、そこに住む魔物が、この村に病気をもたらした」
「その話、詳しく聞かせて下さい!」
これはただ事ではない。
村に魔物が病気を運んで来たとしたら、何とかしないと。
「あの山に魔物が棲みついたのは、今から三ヶ月ほど前だ。村の猛者達が倒しに行ったんだが、殺られてしまってね。一人命からがら帰って来た者もいたけど、彼も死んだ。それからだ。病気が広がったのは。どうやら亡くなった彼は、魔物によって病気にされたらしいね。看病した女性は、咳から移された。それから村の体力のない、子供達や女性達が次々倒れてる。死んではいないが、苦しんでる。隔離されてね」
「そんな……」
「だから君達に移らないように、他の家に入れなかったんだ。許してくれ。この家には、病気の人間はいない。僕一人だ。だから、この家は今の所安全だ」
「そんな……、何とかならないんですか?何か方法は?」
「一つだけ、方法はある。だが……」
おじさんは言葉に詰まり悲しげな顔をした。
シトラス達が見つめる。
「おじさん……」
「あの山に、リトルフラワーという、小さな花が咲いている。幻の花と言われていて、どんな病気も治す万能薬だそうだ。花びらは、虹色に輝いていてとても美しい。が、魔物のいる山に行くなんて、無理だ」
「だったら、俺達が行きましょうか?」
「えっ!?」
「こういう事、慣れてますから。俺達」
早速シトラス達は出かけようとする。
おじさんは慌てた。
「ちょ、ちょっと君達」
「こういうの放っとけ無いのが、俺達の性分なんです。心配しないで下さい」
「だったら、これを持って行って」
おじさんがシトラスの手に握らせてくれた物。
蓋つきのガラスの瓶だ。
後は熱いお湯が入った水筒。
「そのガラスの瓶にリトルフラワーを入れて来て欲しいんだ。あとお湯は何かの役に立つかも。雪山は寒いからね。服の中に入れておくと暖かいし」
「分かりました。お任せ下さい」
「こちらこそ。悪いね。旅人の君達にこんな事をやらせてしまって」
「気にしないで下さい。では」
爽やかに笑顔を見せると、シトラス達は外へ。
雪は降っていない。曇り空。
村を出て雪山に向かう。
おじさんの話だと、確か道なりに真っ直ぐだ。
「あ、あそこかな」
登山道入り口の看板が見える。
坂道を登り始めた。
雪山は、普通の山と違って、滑る危険性がある。
気をつけて歩く。
「あ、シトラス、あそこ」
三分の一くらい登った所で、サララが誰か前にいるのに気づく。
ピンクのドレスに角刈り頭。
黄色いリボンを留めている。
「ジョセフィーヌ!」
名前を呼ばれ、その人物は振り向いた。
懐かしい顔に、笑顔が溢れる。
「あらあ、シトラスちゃんにロックちゃん。サララにジェニファーじゃないの〜。久しぶりね〜」
駆け寄る四人に挨拶する。
シトラスはジョセフィーヌに詰め寄る。
「ジョセフィーヌ、この山で何を? まさか、スノブル村の人達を苦しめているのは……」
「ええ〜? ちょっと違うわよ〜。アタシはこの山に美しい花があるっていうから見に来ただけ。アタシ、綺麗な物に目がないから❤️」
シトラスはホッとする。
が、ジョセフィーヌも魔族だ。油断はできない。
「ジョセフィーヌ、俺達はこの山の魔物を倒し、リトルフラワーという花を取りに来た。もし、邪魔するなら……!」
「あら、リトルフラワーって、アタシの目的の花よ。分かったわ。一緒に行きましょう❤️」
「え?」
「アタシはあの時、あなた達に負けたのよ。それに言ったでしょ。もう戦う気は無いって。共闘って事でいいわよね」
「ジョセフィーヌ……」
「あら、信じられない? 気に入ったの。あなた達が」
ジョセフィーヌは笑って歩いて行く。
シトラス達は憮然としながらもついていく。
勇者一行と魔族の、奇妙な絆が結ばれた。




