表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/635

村からの追放

 シトラス達が麓に下りて来た時、その魔物は村の中を走り回っていた。普通の牛と違い、全体が黒くて大きい。その上俊敏だ。ただし、一頭しかいない。

 神父さまがその姿を確認する。


「あれは、カウーか。一頭とは言え、厄介じゃな」


 村の人達は悲鳴を上げて逃げ惑う。

 サララが剣を握り、ワンピースの裾をたくしあげ、短く切る。

 長い美脚があらわになった。

 カウーから逃げていた村の男たちだが、その光景にデレッと鼻の下を伸ばす。


「オオ〜〜!」


 サララの隣にいたシトラスは驚き、小声で言う。


「ちょ、ちょっと姉さん」

「あら、仕方ないじゃない。ワンピースを着替える暇がなかったんだから」

「それにしても……」

「とにかく、これで動きやすくなったわ」


 サララは気にする様子もなく、カウーに剣を向けた。


「さあ、来なさい!」


 カウーは真っ直ぐ、サララに向かって来る。

 まさか、彼女の美脚に惹かれたのか。

 サララは斬り込む準備をする。

 その時、


 クルッ。


 カウーが突然、向きを変えた。

 タイミングを逃したサララは、きょとんとしている。

 カウーは村の男に向かって行った。

 サララがボソッと呟く。


「え〜、わたしのお色気が効かなかった」

 シトラスはずっこけながら突っ込む。


「姉さん、そんな事言ってる場合じゃないでしょ。あれを見てよ」


 男は泣きながら逃げ惑う。


「わぁ〜〜。俺が何をしたんだ〜〜!」


 見ると赤い上着を着ている。

 それに気づいたロックは、自分のバンダナを外して振り回した。


「ほ〜ら。こっちだ。こっち!」


 カウーは今度はロックの方へ。

 カウーの立派な角が当たる瞬間に、ロックはサッと横へ避けた。

 ジェニファーが合わせる。


「ファイヤーショット!」


 カウーは倒れる。

 神父さまが叫んだ。


「今じゃ、みんな、家の中へ!」


 村人達は全員家の中に隠れた。

 残ったシトラス達はカウーの様子を見るため、回りを囲む。


「ブルルルルル」


 カウーは怒りの咆哮を上げ、起き上がる。

 ロックがまたバンダナを振り回した。

 が、今度は効かない。

 カウーは暴れ、走り回る。


「まさか、学習したとでもいうのか?」

「神父さま、どうするんですか?」

「ウムムムム……」


 シトラスの焦りに、神父さまは考える。

 そして服の内ポケットから、赤い布を出した。


「本当は恥ずかしくて出したくなかったんじゃが、仕方ない、村人のためじゃ」


 広げてみると、それは何と、


「わしの赤フンの予備じゃ。さあカウーよ。こっちじゃ!」


 闘牛士がやるように赤フンを体の脇に持つ。

 カウーは見つめているものの警戒していた。


「駄目か。ならば」


 神父さまはカウーに背中を向け、赤フンを持って踊り出す。さらに、お尻を赤フンで包み、誘うみたいに腰をフリフリ振った。


「ほ〜らカウー。こっちへおいで〜。来ないとお尻ペンペンじゃ〜♪」


 シトラス達は呆れ顔。

 まさか神父さまがここまでやるなんて。

 ただ、カウーは興味を惹かれたらしい。

 脇目も振らず突進して来た。


「今じゃ! シトラス、サララ!」

「は、はい!」


 二人の剣士が、カウーから逃げる神父さまの前に飛び出す。

 そして、


 ズバッ。


 両脇からカウーを斬った。

 カウーは最後の咆哮を上げ、煙になって消え去った。

 この世界の魔物は、ほとんどがそう。

 そして石を落として行く。

 この石は、魔物の強さによって色が違う。

 魔王の力で産み出された、ストーンモンスターと言われる魔物だ。

 やがて物音が無くなり、家々から人々が出て来る。

 神父さまは、素早く赤フンをしまった。


「神父さま……」

「おお、みんな。もう安心じゃ。あの魔物はシトラスが倒してくれたわい」

「そうですか。しかし、あの魔物がこの村に来たのは、そこにいる勇者のせいではないのですか?」

「何じゃと!?」


 一体村人達は何を言っているんだ。

 神父さまは憤った。


「お主達、何が言いたい」

「神父さま。われわれは今まで勇者がここにいる事で、魔王がこの村を襲うんじゃないかという不安と戦って来ました。神父さまは勇者を庇いますが、われわれは納得できません。実際、今日魔物が襲って来たじゃないですか。よって、この村から、勇者は出て行ってもらいます」

「そうだ、勇者は出て行け!」

「馬鹿シトラス!」


 怒声が響き、シトラスは石を投げられる。

 サララ、ジェニファー、ロックは、怒りの表情でぐっと拳を握った。


「黙らっしゃい!」


 神父さまもよほど腹に据えかねたのだろう。

 一言で、村人達を黙らせた。


「お主達、何を好き勝手な事を言っておるんじゃ! 魔物から村を守ってくれたのは、この子達なのじゃぞ。それを出て行けとは、何事じゃ!」

「しかし……」

「しかしもかかしも無い! シトラスが、お主達に何かしたか? 勇者という事で、威張って横暴な態度をとったか? そんな事はないはずじゃ。この子は優しい子。お主達には、それが分からんのか?」

「それは、そうなのですが……。とにかく、われわれはもう、怯えて暮らすのは嫌なのです。勇者さえ出て行ってくれたら、村は平穏になるのです」

「お主達は……!!」


 神父さまが再びシトラスを庇おうとしたところに、当のシトラスがそれを止めた。


「神父さま。もういいのです。俺が村を出て行けば、それでいいのですから」

「シトラス……」

「ただし、覚えておいて下さい。俺がこの村を出るのは、村人達のためじゃない。魔王を、倒しに行くのです。それと、あとでどんなに懇願されても、俺はもう、二度とこの村には戻りません」


 シトラスのその言葉を聞いて、村人達は安心したような顔をした。


「そうか。助かるよ。これで安心して眠れる。けど、われわれも鬼じゃない。今は暗くなってきたから、明日の朝まで待とう。朝になったら、出て行ってもらうよ」


 村人達は、そのまま家に帰って行った。

 納得できないのはジェニファー達。

 何て無理解で、冷たくて、自分勝手な人達なんだろう。

 その中に、自分達の親がいるのも、悲しかった。

 シトラスが、何をしたっていうの。

 こうなったら……。

 ジェニファーとロックは、心に決めた。



 その日の夜。

 ジェニファーとロックは、シトラスの家に集まっていた。

 荷物を抱えて。

 もちろん神父さまも、その場にいた。

 シトラスが言う。


「ジェニファー、ロック、本当にいいのか?」


 ジェニファーはニッコリ笑った。


「ええ。あたし達、あなたと一緒に行くと決めたの。あなたは何も悪くない。なのに出て行けなんて、おかしいよ。だから、もうこの村にはいたくない。あなたを一人には、させない」

「オレも、ジェニファーと同じ気持ちだよ。情けない。両親があんな冷たいとは、思わなかった。それにオレ達、親友だろ?」

「ロック、ジェニファー……」


 シトラスは涙が出てきた。

 二人の気持ちが、嬉しい。


「しかし、今、こんな暗い夜中に出発か?朝の方がいいのではないかの?」

「いいえ、神父さま。両親が寝ている、今の方がいいのです。朝になったら、あたしもロックも、家から出してもらえません。それに、置き手紙を置いて来ましたから」

「そうか」


 神父さまはもう、何も言わない。

 サララが動きやすそうなズボンを履いて登場する。


「それじゃ、みんな、行きましょう」

「サララ、これを……」


 神父さまが渡してくれたのは、手のひらサイズのクリスタルだった。


「わしも同じ物を持っておる。これを持っていれば、いつでも話ができるぞ。お守り代わりにな」

「ありがとうございます、神父さま」

「じゃあ、行っておいで。あとの事は任せるのじゃ」

「はい、お世話になりました」

「うむ」


 シトラス、サララ、ジェニファー、ロック。四人の少年少女は、魔王を倒しに旅立って行った。

 さよなら、アルズベルト村。







 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ