舞い戻る、地上に
一夜明けたスカイラー城、食堂。
ゆっくり休んでだいぶ具合が良くなったユリハと、シトラス達は食事を共にしていた。
兵士達と同じメニューだという。
朝から精のつく肉料理が多い。
しかしこんな山盛りのご飯は、さすがに女性陣、いや、シトラス達でさえもちょっと無理だったので、少なくしてもらった。
バランスを採る為に、野菜もちゃんと頂いている。
「凄い量ですわね。皆さま。朝からお元気ですわ」
牛乳を喉に流し込んで、ルナンが言う。
「そうね。でもそれだけ食べないと、お腹空くって事じゃない? 兵士の仕事って、大変そうだし」
「いざという時に、動けないといけませんからね、ティナ様」
「ええ。けど、ユリハにはキツイかな?」
ティナは隣のユリハを見る。
彼女の皿には、肉が半分残っていた。
「大丈夫です。私、何とか……」
「無理しなくていいのよ。箸が止まっているじゃない。仕方ないわ。調子戻っていないんだから」
「けれど、このまま捨ててしまうのは……」
「勿体無い、か。それもそうだな」
ハッとしてユリハは顔を上げる。
シトラス達も声のする方を見て口を押さえた。
「こ、国王様……」
「様子を確かめに来たのだ。ユリハ、具合はどうだ?」
「は、はい。皆さまのおかげで、だいぶ楽になりました」
「それは良かった。ところで、食材が勿体無いと言ったな」
「はい。あの……」
「心配はいらん。どうしても食べ切れなかった野菜はもう一度綺麗に洗って、馬達の餌にしているそうだ。肉などは、何とか肥料になるだろう。だから、具合の悪い時は残ってしまっても仕方ない。まあ、なるべくなら綺麗に食べて欲しいが」
「国王様……」
「ん。要するに、無理をするなという事だ。ティナの言う通りにな」
「はい!」
「いい返事だ。ところでシトラスよ」
王様はシトラスの方を眺める。
「出発する前に、わたしの所に寄って欲しいのだ。渡したい物がある」
「えっ? あ、はい」
「まあ慌てなくても良い。ゆっくり食事を食べておいで」
そう告げると王様は食堂を後にした。
「渡したい物って何だろうな? ロック」
「さぁ。ドラゴンの餌だったりして」
それでも期待を込めながら、シトラス達は王様の下に向かった。
王様は深く椅子に腰掛けている。
兵士が奥からケースに入った物を持って来た。
大きさは二センチほど。
長い紐が輪になって結ばれている。
どう見ても首にかけて使う笛だ。
「国王様。これは……?」
「うむ。宝物庫を整理したら出て来たのだ。何故そんな所にあったのかは分からんが、お主達の役に立つかもしれないのでな。ドラゴンの笛という物だ」
「ドラゴンの笛、という事は……」
「ほう、察したか。さすがだな。そう。それはドラゴンを呼び出す為の笛。スカイドラゴンと旅をしている以上、必要だろうと思ってな」
「はい、ありがとうございます」
シトラス達は少々戸惑ったが、有り難く受け取った。
その次に、ドラゴンの餌まで貰う。
やっぱりね。
「ん? どうしたシトラス。嫌か?」
「い、いいえ。とっても嬉しいです」
そこへユリハが現れる。
「皆さん。もう、お立ちになられるのですよね?」
寂しそうなユリハに、ガルディスは声をかけた。
「ユリハ。君には世話になった。ありがとう」
「いいえ。私の方こそ、お世話になりました」
「また会おう。体を大事にな」
「はい。シトラスさん、ガルディスさん、ロックさん、ジェニファーさん、ティナさん、ルナンさん。皆さん、お元気で」
王様にも一礼をする。
「国王様。それでは……」
「うむ。旅の無事を祈っておるぞ。元気でな」
「はい!」
兵士達にも見送られ、城の外に。
「よし」
輪になって、ジェニファーのテレポートで飛んだ。
ヒュルルルルル。
「わ〜〜っ」
「キャッ!」
セントミディアの大地。
スカイラーから落ちて来たシトラス達は、墜落した。
地面に穴を開け、しりもちをつく。
「痛たたたた。ジェニファー様。どうなさったのですか?」
「ごめ〜んルナン。空からのテレポートって、難しいね。みんな大丈夫?」
服の土をはらって立ち上がる。
物音に驚いて、バルーチェさんとグラニーがやって来た。
「ちょっ、あんた達、どうしたの?」
「みんな、大丈夫かい? こんな汚れて」
「ああ。バルーチェさん、グラニー。あのですね」
シトラスが説明する。
「そ〜う。そんな事があったんだ。命の木から養分を盗むなんて、魔王もとんでもない事をするわね〜。あたち達の力だけじゃ飽きたらず」
「そうですね。しかし、古い船なんてここら辺じゃ聞いた事ありませんね。沈んだ船って事かな?」
「それも含めて、とりあえずグリンズム王国に向かってみようと思います。と、その前に……」
「ん?」
「ケツが痛い〜。腕も擦った〜。治療して〜」
「アタシも〜」
プッ、とグラニーは吹き出した。
「しょうがないな〜。あたちが特別に治してあげるよ。ただし、高いから」
「げっ!」
「冗談よ。さぁ、見せてみて」
ジタバタするシトラス達を、バルーチェさんとグラニーは治療した。




