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風を受けて

 明け方になって、ようやく雨は上がった。

 しかし、まだ甲板は濡れている。

 モップで床を、操縦かんはタオルで拭く。

 あとはこの天気で乾くだろう。

 また雨が降らなければの話だが。


「ガルディス様。それでは船を動かしますか?」

「ああ、そうだな」


 モンスターに狙われないよう、わざと止めていた船を再び動かす。

 鳥の鳴く声が聞こえた。

 雲の隙間から太陽が顔を覗かせる。

 シトラスが伸びをする。


「あら、シトラス。大きなあくび。眠れなかったの?」

「いや、寝たよ。そういうジェニファーは?」

「あたしは、お風呂で暖まったからぐっすりだよ」

「そうか。ところでドラゴンは?」


 ティナの腕に抱かれて、ドラゴンがやって来る。


「ドラゴンなら、昨日はアタシのベッドで寝たよ。ぬくぬくしてて可愛いんだ〜」


 ドラゴンはもう、シトラス一行の各部屋を覚えてしまったらしく、夜は好きな部屋にお邪魔していた。

 頭がいいのかも。


「そ、そうか。ティナさんのベッドで……」


 シトラスとロックは、ティナのプルンとした胸に抱かれたドラゴンの姿を想像した。

 それをジェニファーに見破られる。


「あ〜〜! 二人ともまたエッチな事考えてるな〜〜?」

「な、何言ってんだジェニファー。オレは何も」

「へ〜え。そう。ロックは違うっていうの? でもね〜、シトラスと同じで鼻の下伸ばして、デレッとした顔してるんだけど」

「なっ、ど、どこだ!?」

「ほ〜ら、やっぱり。あたしの目は誤魔化せないわよ」


 ロックはシトラスに小声で呟いた。


「シトラス、ジェニファー怖いな」

「あ、ああ……」

「な〜に二人してこそこそ喋ってるのよ!」


 ジェニファーが杖を振り上げた。

 シトラスとロックは頭を抱える。

 それを止めたのはガルディスだった。


「ジェニファー。許してやれよ。俺だって羨ましいんだ」


 ティナが食いつく。

 ガルディスにピタッとくっついた。


「あらガルディス。羨ましいの? それじゃ、今夜どう?」

「う……、な、何を……。今はグラニーの所に行くんだろ」

「ま〜た、赤くなっちゃって、嬉しいくせに。まあいいわ。行きましょ」


 ティナはたいして気にする様子もなく、飄々として海を眺めに行った。

 ジェニファーは呆気に取られたという感じ。

 杖を振り上げてても仕方ない。

 ティナの隣に並んだ。


「助かった〜〜」


 シトラスとロックはホッとする。

 ルナンが笑った。


「お二人とも、危なかったですね。けれど、そういうお気持ちになるのも分かります。わたくしも、そういった事はありますから」

「えっ? ルナンも?」

「はい。お年頃ですから。では、セントミディアに参りましょうか」

「あ、ああ」


 ドラゴンは、ティナの腕を抜け、今はシトラスの足元を駆け回っていた。

 やがて疲れたのか、船の縁に寄りかかる。


「フッ」


 軽く笑ってシトラスが脇に座った。

 爽やかな朝の光を浴びた海は穏やかだ。


 フワッ。


 風を受けて船は順調に進む。

 このままセントミディアまで無事に着くといい。

 雲が流れる。


「静かだな。シトラス」


 ロックが手すりに背中を預けて言う。


「ああ、そうだな」

「こう言うと何だけどさ、世界を魔王が狙っているなんて思えないよな。この綺麗な海を見てると」

「けど、確実に危機は迫ってる。だから日常のひとときを大切にしたいんだろ?」

「ああ。それにお前もだろシトラス。もっとジェニファーとお近づきになりたいと」

「わっ! ば、馬鹿ロック。何言ってんだお前!」

「ご主人様〜。照れてるって事は、本気と受け取ってよろしいですか〜?」

「なっ、ルナンまで。違うよ!」


 シトラスはいつも通り顔を横に向ける。

 ガルディスが呆れるように呟いた。


「あ〜あ、我が弟ながら、もっと素直になればいいのに」


 その瞬間、ドラゴンが吠えた。

 毛は逆立ち、目は吊り上がり、口を大きく開けてる。

 何かを威嚇しているよう。

 海を眺めていたジェニファーからも、声が聞こえた。


「シトラス、この船、囲まれてる!」


 背鰭がピンと立ち、銀の鱗を持つ体長三十センチぐらいの魚が、船の回りに群がっていた。

 数十匹はいる。


「ガルディス様、この魚は……」

「ああ。デスフィッシュだ。みんな、気をつけろ!」


 デスフィッシュ。

 群れで行動し、その鋭い牙と素早い動きで船乗り達を襲い、船を沈没させるという魔王のモンスター。

 そのデスフィッシュがシトラス一行を狙っている。


「構えろ!」


 今船をボロボロにさせる訳にはいかない。

 シトラス達は甲板のあちこちに散らばり、デスフィッシュとの戦いを開始した。














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