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いよいよ船出

 翌朝、船乗りの人に言われた待ち合わせの場所へ行くと、その人はもう来ていた。


「おはようございます」


 シトラスの挨拶に、その人が振り向く。


「おはよう。昨日は良く眠れたかい?」

「はい、とっても」

「それは良かった。俺はこの港で船乗りをやっているエンバーだ。ノースエガリアへは、俺の船に乗って行くといい。よろしく」

「よろしくお願いします。エンバーさん」

「じゃあ、早速船に案内しよう」


 エンバーの後について埠頭に行くと、たくさんの船が並んでいた。


「俺の船は、これだ。中にどうぞ」

「はい!」


 中型と言える大きさ。

 エンバーがいろいろ説明してくれる。

 一階の広いスペースに、様々な部屋があった。


「ここが医務室。ここが食堂。トイレは、説明しなくてもいいね。奥にあるのが操舵室。そして、ここが君達の部屋だ」

「武器屋や道具屋、防具屋まであるんですね」

「そう。雪の国に行く為の、暖かい服も揃ってる。後で自由に船の中を見て廻るといいよ。ただし、操舵室の機械は、触らないようにね」

「はい、ありがとうございます!」

「じゃあ、そろそろ出発しよう。準備はいい?」

「はい。よろしくお願いします」

「では……」


 エンバーは、壁の通信機を取った。

 が、それを口に当てて喋るのかと思いきや、


「と、その前に」


 シトラス達をもう一度見て、通信機をしまった。


 ガクッ。


 シトラス達はこける。

 いくらギャグの定番とはいえ、期待させておいてそれは無いだろ。

 それに乗ってしまう彼らも彼らだが。

 エンバーは笑っていた。


「いや〜君達ノリがいいね。もう一回やろうか?」


 いいえ、やらなくて結構ですから。


「そうか、残念。じゃあ、君達の名前を聞いておこうか」


 えっ、名前?

 そうか、自己紹介まだすんでいなかった。

 こうなったらカッコよく名乗ろうかと、シトラス達はポーズを決めた。


「俺は、シトラス・ハント。勇者やってま〜す」

「ジェニファー・マーチンです。魔法使いです」

「弓使いロック・アーネスト。よろしくう!」

「サララ・ハント。剣士よ。わたし達、四人合わせて」

「勇者チーム、やってま〜す!」


 おお、最後は息がピッタリ合った。

 エンバーは、目をパチクリし、


「おお〜! 君達が噂の勇者チームか。会えて光栄だよ。まさか、俺の船に乗ってくれるとは……」


 と、感激していた。

 自分達がそんな噂になっているとは知らなかったシトラス達は、詳しくエンバーに聞く。するとユノ村で暴れていた山賊を退治した者達がいるらしい。その者達はドグアック大陸から来た勇者じゃないかと噂が広まっていたというのだ。


「わたし達が山賊を倒した事が、こんな所にまで届いていたんですね」

「うん。実はその噂を広めたのは、ドグアックから来た人らしいんだ」

「えっ、俺達の他にもドグアックから?」

「そう。俺は実際に見た事は無いけど、何でも、ピンクのドレスを着た女性、いや、おネエだったとか、そう、船に乗せた人が言ってた」

「あっ、そ、そうなんですか」


 シトラス一行には思い当たる人物が一人いる。が、エンバーが混乱しちゃうかもしれないので、知らないふりをして黙っていた。


「そうなんだよ。あっ、長話をしたね。興奮して申し訳ない。今度こそ出発しよう」


 カチャッ。

 再び壁の通信機を手にする。


「みんな、出港だ!」


 エンバーの声に、船はようやく動き出す。

 彼はどうやら船長らしい。

 ここで彼は仕事の為、シトラス達と別れた。

 自由に船内を見学していいと言われたシトラス達は、とりあえずショップを見る事にした。

 武器屋、防具屋、道具屋は同じ室内にある。

 雪の国に行く為、暖かい服を買わないと。

 モフモフのコートがある。毛皮の靴も。

 ジェニファーとサララは手袋も買った。

 道具屋で、薬草も揃えておこう。

 そこのお姉さんが言った。


「お荷物が一杯のようですね。そこの預りロッカーを利用なさいますか?」


 シトラスが部屋の隅に置かれている大きなロッカーの前に立つ。


「預りロッカーって、これですか?」

「はい。各預り所にあるロッカーと同じ物です。そこに荷物を入れますと、任意の場所で受け取る事ができますよ」


 シトラスは少し悩む。

 サララは、シトラスの好きにさせるつもりだ。

 ジェニファーとロックも、口を出さない。

 シトラスは、今買ったばかりの冬の装備を、雪の国ノースエガリアで受け取る事にした。

 ロッカーに荷物を入れ、1000コインを投入口に入れる。


「では、お預かりした荷物をノースエガリアでお渡しいたしますね」


 笑顔のお姉さん。

 どうやって荷物が運ばれるかは言えないらしいが、魔法の力みたいだ。


「さて、次は……」


 買い物を済ませたシトラス達は部屋から出る。

 デッキに行って見よう。

 船から海が見てみたい。

 風が気持ちいい。

 波しぶきを受けながら船は進む。

 空から鳥達が挨拶に来てくれた。

 が、急に慌ただしい鳴き声を上げて一斉に飛び立つ。


「な、何だ?」

「シトラス君!」


 エンバーがデッキに上がって来た。


「エンバーさん、どうかしたんですか?」

「自室の窓から、空に黒い影が見えたんだ。あっ、あれだ!」


 船に向かって、空から骨だけの鳥の魔物の群れが飛んで来る。

 スケルトンバードと言われる魔物だ。


「エンバーさん、船内に戻って下さい! ここは俺達が引き受けます!」

「分かった」


 エンバーは急いで船内に戻る。

 ロックは弓を構えた。


「乱天狩射!」


 スケルトンバードの数羽が、海に落ちる。

 ジェニファーも負けじと魔法を放った。


「アイシクルレイン!」


 ドドドドッ。


 氷に当たった魔物が、デッキで痙攣する。

 空を飛んでいる敵なので、シトラスとサララの剣は届かない。

 飛翔斬でも、あの距離までは飛べないからだ。

 近くまで降りて来た敵を、斬るしかない。

 ロックとジェニファーに、ほとんど任せていた。


「ハアハア……」


 スケルトンバードの数がどんどん減ってる。

 もう少し、と思った時だった。

 海に落ちた奴らが、フラフラと飛んで空中の仲間と一体化した。

 次々重なり、大きくなってる。


「こ、これは……」


 ビッグスケルトンバード。

 巨大な骨の鳥が、シトラス達の目の前に立っていた。









 






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