地上へ
それから二日後。
妖精さん達の懸命な治療により、シトラス一行の傷は治り、動けるまで回復していた。
その間、彼らはスターティオスや兵士達と一緒に、ドラゴンを元に戻す方法を探ったが、城にある本を調べても見つける事はできなかった。
スターティオスも、自分の記憶の中では、魔王がスカイドラゴンを小さくしたのは初めてだと言う。
魔王城からの動きも、あれから無い。
様子を伺っているのか。
それとも、クリスタルを壊す方法を考えているのか。
「ふう」
シトラスが大きなため息をついた。
ベッドは綺麗にして、支度を整えてある。
彼らは今、あの広い部屋にいた。
「ご主人様……」
「ルナン。ドラゴンが可哀想で。これだけ探しても、方法が分からないなんて」
「仕方ないよ。アタシ達もやるだけやったんだ。自分を責めるのはよそう。ね?」
ティナがフォローしてくれる。
スターティオスも部屋に入って来た。
「その通りだよ。シトラス」
「スターティオス……」
「私の知識も、及ばなくて済まない。しかし、聖霊達の力を利用してドラゴンを小さくしたとするなら、オーブの輝きを灯せば、元に戻るかもしれないな」
勇者達の顔が明るくなった。
「意思の欠片をオーブに入れればいいんですよね。そうすればドラゴンは……」
「可能性の話だよ。あくまで。しかし、やってみる価値はあると思う」
「はい!」
その笑顔を見て、スターティオスも嬉しくなった。
「いい返事だ。シトラス。君はやっぱり笑っている方がいい」
「そ、そうですか?」
「そう。君の笑顔はみんなを元気にする。ほら、ドラゴンもそう思うだろう?」
「キュイ!」
シトラスの腕の中。
ドラゴンは思い切りしっぽを振った。
「ドラゴン……」
「クスッ。では早速行くかい? みんな」
「はい! スターティオス、今までお世話になりました。妖精さん達も」
「礼はいいよ。この世界に生きる者として、私達も手伝わせてもらう。これからもね」
スターティオスが手を前に出す。
スカイドラゴンが空を飛べなくなったので、スターティオスの力で地上まで降ろしてもらう事になっていた。
ジェニファーがタリスマンを使ってテレポートしても何とか行けそうだが、怪我が治ったばかり。
負担をかけるのは良くないと、スターティオスがおっしゃった。
「それでは、お願いします。スターティオス」
「うん。最初の場所は何処がいい? アクアリーゼの神殿かい?」
「そうですね。たまには船を動かさないと。ドラゴンも乗せてあげたいし」
「分かった。ドラゴンはいつも空を飛んでるからね。船に乗るのは初めてじゃないかな。きっと珍しい体験ができるよ。それじゃ、バード大陸だね」
「はい!」
「けどなるべく急いでね、シトラス」
「分かりました」
シトラス一行の体がフワリと宙に浮く。
スターティオスが力を込めた。
ビュン。
シトラス達は目的の場所へ、優しく飛ばされた。
一方、三人の聖霊がいる所では、
「アクアリーゼ様。勇者達がオーブの光を灯しに、もうすぐ来るそうです」
「フレイル様。わたし達は見守る事しかできませんが、どうか頑張って下さいませ」
「グラニー様……。もう少しです。シトラス達ならあなた方が闇に染められる前に外した意思の欠片を、必ず見つけてくれます。ですから、待っていて下さい」
と、人魚や妖精やバルーチェさんが、それぞれにゆかりのある聖霊に話しかけていた。
彼らは、シトラス達が聖霊王の城で眠っていた時に、事前に説明を受けていたのだった。
シトラス達が降りて来た時に、手助けができるようにと。
ヒュウウ。
バード大陸に向けて、光の玉が舞い降りた。
船の甲板に足が着く。
「よっ」
何も変わっていない。
ただ向きが逆になっていた。
この島に到着した際には、川を渡って細くなった所で止まったんだけど、今は何故か出やすいように、海の方向を向いていた。
「ほえ?」
不思議がるシトラス達の目に、懐かしい人物が飛び込んだ。
船の脇で手を振ってる。
「あなたは……」
「グレイスさん!」
シトラスとジェニファーが身を乗り出す。
「久しぶりね。元気だった? わたしの所にも聖霊王の声が届いたのよ。だから、天人の村のみんなと一緒に、船の位置を変えておいたの。あなた達が、気持ち良く旅立てるようにね」
天人とは元々はスカイラーに住んでいた人々。
地上に降りた為、地上の人々からは天の人。つまり天人と呼ばれている。
そしてグレイスさんは天人の中でも、優れた力を持つ魔女さんなのだ。
「ありがとうございますグレイスさん。またあなたに会えて嬉しいです。けど……」
シトラスは腕の中の、小さくなったドラゴンを見せた。
しかしグレイスさんは、
「大丈夫よ。小さくてもドラゴンはドラゴン。あなた達の友達よ。それにね、聖霊達のオーブを元に戻したらドラゴンも大きくなるんじゃないかって、聖霊王様言ってたわ。だから、気に病む事はないのよ」
と、明るく笑った。
その笑顔にシトラス達も安心する。
「それじゃ、グレイスさん。俺達行きますね」
「ええ。気をつけてね。また会える日を願ってるわ」
「はい!」
甲板から手を振って、船は動き出す。
心地良い風を受けて。
「出発、進行〜〜!」
「キュイ!」
聖霊達の心を捜しに。




