鏡の部屋
ガルディスが部屋のノブを回す。
中に入ると、左右に長く何枚もの鏡が敷き詰められていた。
「ここは……」
「鏡の部屋、みたいねガルディス」
「ああ、そうだなティナ」
ティナはガルディスとしっかり腕を組んで歩いていた。
スーリアに取られたくない。
彼女がガルディスのキスを奪ったのを目の前で見せられ、心に火がついた。
負けたくない。
そんなティナの温もりを肌で感じながらガルディスが話しかける。
「おい、ティナ」
鏡の方を眺めていたティナは、パッとガルディスの横顔を見つめた。
ガルディスもティナの顔を見る。
「な、何ガルディス?」
「あのな……。あれはスーリアが勝手にやった事だ。俺は彼女とは何もない」
じっと無実を訴える。
ティナはちょっと斜め横を向き、拗ねたふりをした。
腕が離れる。
「それは、そうかもしれないけどさ……。アタシはショックだったんだよ」
「もしかして、ルナンの事か?」
「え?」
「ルナンに嫉妬、してるのか?」
これは怪しい雰囲気。
シトラスが場を収めようとしたら、ティナ本人が否定した。
「違うよ。アタシはルナンには怒ってない。あの子は、いい子だよ」
「そうか。ありがとな」
「あ、アタシは、別に……」
「ティナ」
ガルディスが顔を近づけ、ティナの頬にキスをした。
ティナは真っ赤になる。
「あ……」
「俺が好きなのは、お前だけだ。だから安心しろ」
その言葉を聞いて、ティナは嬉しそうに笑う。
「うん!」
シトラス達もにこやかに見守っていた。
「良かったです。ガルディス様、ティナ様」
「そうだね。でもルナン、いいの?」
「はいジェニファー様。わたくしは皆様やガルディス様のお側にいられるだけで幸せです」
「そう、ならいいんだ」
そこにティナの声。
「あんた達、早くいらっしゃい」
「は〜〜い」
自分達の姿を写しながら先に進む。
鏡は綺麗に磨かれていて、ピカピカだ。
「それにしても、これだけ鏡があると、迷路に入った気分だな」
「そうねロック。あれ? 左右の鏡が無くなったよ」
ジェニファーの言葉の通り、左右の鏡が途切れた。
その代わり、目の前に大きな鏡がある。
けどこの鏡、曇っていて姿が良く写らない。
ルナンが触れてみた。
「どうしたのでしょう。今まではとても美しい鏡でしたのに、ここだけ……」
すると鏡が光る。
丸くなったルナンが写った。
「まあ、この鏡、触れた者がおデブさんになって写るようです」
「えっ、そうなの?」
今度はシトラスが触れてみた。
ボワッ。
「ホントだ。丸くなってる。ジェニファーも来いよ」
「嫌よ。太って写るなんて。ギャグだとしても」
「そう考えると、そうだね」
「あら、それは失礼しましたね」
ジェニファーとティナの声に反応したらしく、部屋中の鏡が一斉に消えた。
鏡がなくなると、今までの景色が一変。
ガラン。
少し広めの部屋だ。
「あたくしの演出が、満足して頂けなかったでしょうか?」
トン。
細身で爪の長い女が降りて来た。
艶々なドレスを身に纏っている。
「誰だ!」
「あたくしはミラージュ。この部屋を守る魔物でございます」
言うが早いが長い爪でティナを狙う。
ティナはサッと扇子を開き、防いだ。
「まあ、やりますのね」
刺で傷ついた指を舐め、ミラージュは離れる。
「それでは、こちらを」
右手首を振ると、無数の鏡の破片がシトラス達めがけ降り注ぐ。
ご丁寧にも先が尖っていた。
「シールド!」
ジェニファーの魔法が守ってくれた隙を縫って、シトラスが飛び込む。
「十字斬!」
ミラージュは鏡を盾にして、消えた。
「……! どこだ!?」
「ご主人様。相手は鏡の力を使うモンスターのようです。お気をつけ下さいませ」
ガタンっ。
床から何枚もの鏡が飛び出し、シトラス一行の周りを囲んだ。
シトラス達は背中合わせになって、敵の出方を待つ。
ビュッ。
ジェニファーの前の鏡から、ミラージュの手が伸びて来る。
ジェニファーは、間一髪爪を避けた。
次はロックの前。
「わっ、危ねっ!」
どうやら鏡の中を自由に移動できるようだ。
どこの鏡から攻撃してくるのか分からない。
ルナンが鏡に手を伸ばした。
吸い込まれる。
「これは……」
「空間が、繋がっているようだな」
ガルディスの言葉にロックがニッと笑う。
「だったら、これでどうだ!」
彼は鏡の一つ一つに矢を放った。
悲鳴が聞こえる。
全ての鏡が割れ、体に矢が刺さったミラージュが現れた。
「何て事を……、するのです……!」
が、その爪はロックには届かず、
「キャア」
シトラスの演舞斬でトドメを刺され、ミラージュは消滅した。
ガルディスが部屋を確認する。
オーブは見当たらない。
「兄さん……」
「ああ。どうやらここも違ったようだ」
「でしたら次へ向かいましょう」
「そうだな」
シトラス達は次の部屋に向かった。
オーブは一体、何処にあるんだ。




