闇の結界
スカイドラゴンの首で光る宝石。
その光に導かれ、シトラス達はグンと上空までやって来た。
位置的にいうとキボー国から少し北に行った所か。
ただし、天空の王国スカイラーより高い。
天気は晴れなのに、そこだけが雲が何十にも重なったようになっていた。
普通の雲ではなく、黒っぽい雲。
光はその中を通っている。
「……あ」
ルナンが声にした。
両手で肩を抱くような仕草をする。
「ルナン、怖い?」
シトラスが尋ねた。
彼女は正直に言う。
「はいご主人様。正直に申しまして、もう一度あの城に入るのが怖いです。しかし大丈夫です。皆さまと同じく、わたくしも戦わせて頂きます」
ティナが後ろからそっと肩に手を置いた。
「ルナン。アタシ達が守るからね。辛かったらアタシ達を頼りなよ」
「そう。なるべく一人にならず、俺達の側から離れるな」
「ティナ様……、ガルディス様……」
二人の言葉に、ルナンの瞳は潤んだ。
ドラゴンも結界を通らず、待っててくれてる。
ルナンは笑った。
「よし」
シトラスは前を向き、右手を出す。
「いいよ、ドラゴン」
スカイドラゴンの白い翼が動く。
首を伸ばし結界に顔で触れたら、雲が避け道が現れた。
まるで雲のトンネルみたい。
「突入〜〜!」
結界の先に、勇者一行は向かった。
シトラス達が裏側の世界に突入した頃、彼らの世界ではある異変が起きていた。
三人の聖霊が苦しんでいる。
水の聖霊アクアリーゼと炎の聖霊フレイル、大地の聖霊グラニーだ。
「うう……」
オーブを闇のクリスタルに無理やり押し込められた為、力を徐々に奪われていた。
聖霊王スターティオスも気づく。
「……っ。これは……っ」
今は聖霊達自身も何とか頑張っているが、もし意識を奪われ、力を利用されたら。
世界に影響が出る可能性がある。
まず海の水が上昇するだろう。
フレイルが守護する火山も、爆発するかもしれない。
そしてグラニーの力。
大地を緑にするだけではなく、砂漠にする事も可能だ。
そうしたら人間を含めた、あらゆる命が危険に及ぶ。
「くっ、魔王め……」
スターティオス一人の力では、抑えきれまい。
シトラス達に頼るしかないか。
(シトラス、ガルディス、みんな、急いでくれ)
三人の聖霊の様子に注意を払いつつ、スターティオスは願った。
雲のトンネルを抜ける。
前方に浮かぶ大地。
その縁にドラゴンは降り立ち、シトラス達は急ぎ城の中に走って行く。
ドラゴンはスターティオスの気を受けている。
魔物が襲って来ても大丈夫だろう。
カツカツカツ。
通路に勇者一行の足音が響く。
城の内装は、ガルディスやルナンがいた頃とほとんど変わっていない。
城は二階建て。
二階は主に、魔族や魔王の各部屋がある。
一階奥に接見の間。
その他一階には、魔族やモンスターを治療する部屋や、武器や食料の保管庫。大浴場などがある。
あと、用途の分からない部屋がちらほら。
オーブは何処にあるんだ?
「ガルディス様……」
「ああルナン。おかしい。あまりにも静か過ぎる」
魔王ダイロスはおろか、ドラモス達の気配すら無い。
何かの罠なのか。
彼らは足を止めた。
「あたし達おびき出されたって事? ガルディス」
ジェニファーの質問にガルディスは答えた。
「ああ。そう考えるのが妥当だな。オーブを奪われた時点で、何か仕掛けていてもおかしくない」
「けど兄さん。罠があるかもしれないのは覚悟していた事。それよりも、早くオーブを探そう」
「ああ、慎重に部屋を回ってみるか」
治療室とか用途が分かる部屋はあらかじめ避けた。
まずは一つ目。
「さて……」
ドアノブに指をかけた。
と、その瞬間だった。
「ガルディス様っ!」
「何っ」
一行の足元に黒い闇が広がる。
一気にその中に吸い込まれた。
体が沈む。
「うわああああっ!」
「キャアアアアア!」
床の闇はシトラス達を吸い込むと、何も無かったかのように消えた。
地下に落とされる。
気を失ったままの彼らを、二人の戦士が見つめていた。




