ハナノ村に到着
「グアアーッ!」
クマッチの振りかざすこん棒が、シトラスの目の前で地に穴を空ける。さすが体格がいい。一撃でこんな穴を空けるなんて。
ぶつかったら怪我は間違いないので、シトラスはこん棒の上に乗って、高く飛んだ。
「飛翔斬!」
クマッチはこん棒を持ち上げ、シトラスの剣を受け止める。
「わっ!」
こん棒を払われ、飛ばされた。
一回転して着地する。
「炎天狩射!」
「ファイヤーショット!」
ロックの矢とジェニファーの魔法が同時に発射される。
それすらもクマッチは避けた。
と、そこに、
「演舞斬!」
火の攻撃を避けてホッとしていた所に、サララの剣技が決まる。
「グオッ」
クマッチは、少し退いた。
「時間差攻撃というやつか。やるな」
あれだけ動いたのに、息が乱れていない。
この魔物、強い。
シトラス達の方が、疲れていた。
笑わせ隊の皆さんは、木の陰で、戦いを見守っている。
シトラスが勇者だと名乗って驚いたようだが、今はその場から動けない。
再び、シトラスが剣を構えた。
「疾風!」
残像を残すその動きに、クマッチは翻弄される。
こん棒が当たらない。
逆に斬られた。
「グオッ」
膝をついた。
シトラスの耳に、ジェニファーの声が届く。
「シトラス、離れて!」
サンダーボムが、クマッチの頭上に落とされる。
彼は仰向けに倒れた。
笑わせ隊の人々が、木の後ろから出て来ようとしている。
シトラスは止めた。
「まだです。皆さん!」
ガキン。
クマッチが起き上がり、シトラスをこん棒で殴る。
シトラスは、地面に転がった。
頭から、血が出ている。
立てないままの彼を、クマッチが狙う。
「バーニングバード!」
炎の鳥が、華麗に飛ぶ。
狙いはクマッチではなく、こん棒。
あの武器がある限り、勝てない。
「熱ちちちちちっ!」
クマッチがこん棒を落とした。
こん棒は、炭クズになる。
ロックがその隙に、シトラスを安全な場所へ。
「待ってろシトラス。今手当てする」
「ああ、悪い……」
呆然としているが意識はあるようだ。
ロックが、自分のハンカチを巻いてくれる。
いつ怪我人が出るか分からないので、冒険者達のハンカチは大きめだ。
ジェニファーは、本当はすぐにでもシトラスの元に行きたいのだが、サララと一緒にクマッチの気を引くのに精一杯だ。
ロックに支えられ、シトラスが立ち上がる。
「本当に平気なのかシトラス。頭を打ったんだぞ」
「ああ。今はクマッチを止める」
「分かった。でも無理だったら、オレ達に任せろ。いいな?」
「ああ……」
クマッチの方を向く。
サララが演舞斬で攻撃していた。
ジェニファーは、少し離れた所で魔法の準備。
クマッチが怯んだのを見計らい、ロックが矢を放つ。
「飛天狩射!」
クマッチの胸に刺さった。
ジェニファーも仕掛ける。
「アイシクルレイン!」
「グハアッ!」
さすがのクマッチも、フラフラしていた。
行くなら今しかない。
シトラスは、懐に飛び込んだ。
「五月雨!」
激しい剣の雨。
クマッチは白眼を向きそうになるものの、最後の力でシトラスの右肩を噛んだ。
牙が刺さる。
「……痛っ」
しかしシトラスも負けてはいない。
剣が深く、クマッチの腹にのめり込んでいた。
「グウ……」
天に昇るように、煙と化すクマッチ。
赤い石を残し、消えた。
「シトラスッ!」
ジェニファーが駆け寄る。
彼はその場に座り込み、ジェニファーにもたれかかった。
ロックとサララも来た。
「大丈夫か、シトラス。頭フラフラするのか?」
「ああ……」
息が荒く、聞き取りづらい声だった。
ロックは言わんこっちゃないという顔で、彼を横にしようとする。
笑わせ隊の人々が、そこに走って来た。
「待ったバンダナボーイ。下手に横にしないほうがいいよ」
「えっ、でも……」
「まぁ、ここはミー達に任せて」
笑わせ隊の女性二人が、回復魔法でシトラスの傷を癒す。
ついでにロック達の分も。
「ありがとうございます。助かりました」
「あの魔物から、ミー達を助けてくれたお礼だよー。本当、君達、強かったね」
「ところで、あなた達はこれからどうするんですか?」
サララが尋ねた。
眼鏡の男性は、即座に答える。
「実はね〜、この先のハナノ村という所に呼ばれているんだ。そこでイベントをやるらしくて、楽しい音楽を奏でてくれとね〜」
「ハナノ村、ですか?」
「そうだ! 君達も、ミー達と一緒に来ない? 少しその村で休んだらいいよー。勇者ボーイもねえ」
その笑わせ隊の人々の提案に、シトラス達は乗る事にした。
笑わせ隊の人達が、隠していた馬車を持って来る。
それにシトラス一行を乗せてくれた。
笑わせ隊の女性二人も乗り込んで来る。
残った三人の男性は、外で馬と一緒に歩き出す。
悪いと思ったシトラスとロックが降りようとしたが、眼鏡の男性に止められた。
「いいよー、遠慮しないで。キュアリーで怪我は治ったかもしれないけど、疲れは取れてないよね。それに勇者ボーイ。頭まだフラフラするよね〜。無理ないよ。あんな強く殴られたら。だから横になってて。刺激が少ないように、ゆっくり行くから」
ここでも、人の温かさがあった。
シトラス達は笑わせ隊の男性の言葉に甘えて、馬車の中で体を休める。
花のかぐわしい香りが漂ってくる。
「オー。もうすぐハナノ村に着くよ! この村は、花畑で有名な村なんだ〜」
入り口に馬車を止め、馬を休ませる。
馬達は、村の外にある屋根付きの馬小屋の中で、草を頂いた。
笑わせ隊の人達は、村長さんに話を聞く為、シトラス達とここで別れた。
シトラスは、ロックに肩を借りながら村の中へ。
サララとジェニファーも、後ろから支える。
この村でやるイベントって、一体何だろうな。
その頃、
村に入ったシトラス達を、崖の上から、ある人物が見ていた。
シトラス達が村に消えると、その人物も動き出す。
その人物とは、そう、あの男ー。




