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金の洞窟

 サンの町から東にあるという洞窟。

 ここにトールさんが、鉄を採りに来ているらしい。

 ヤンジャ師匠の話だと、この洞窟に関してある噂が広まっているそうだ。だいぶ昔にこの洞窟を訪れた職人が、洞窟の深〜い所で一面が(きん)で埋まっている部屋を見つけたとか、隠れた宝箱があるとかいう噂だ。

 しかし、魔物がはびこるようになってから、奥に行く人が減り、それが本当かどうか分からないんだとか。

 まさかトールさん、そこまで行ってないよね。

 洞窟の入り口に着く。

 そこでガルディスが、ある提案をした。


「なあシトラス。隠れた宝箱があるかもって噂だろ? 使ってみないか。せっかく買ったお宝メガネ」


 お宝メガネとは、フィールドやダンジョンで使うと隠れた宝箱が見えるという不思議なメガネだ。イチ村で手に入れてから、そう言えば試してないな。


「あっ、それいいかも。せっかく買ったんだし。トールさん探すついでにさ。じゃないと、宝の持ち腐れになっちゃうよ」

「ティナさんそれ、上手いです」

「そう? 考えて言った訳じゃないんだけどねジェニファー。さあ、どうするシトラス?」

「そうですね。面白いかもです」

「だったら早速。ヒョイッと」


 ロックが洞窟に一歩足を踏み入れてメガネを掛ける。

 彼の荷物の中に入れてあったのだ。


「ん〜。ここのフロアには、隠れた宝箱は無いですね」

「そうか。じゃあ先に進もう。モンスターが襲って来る前にな」

「ああ、兄さん」


 しばらく真っ直ぐな道が続く。

 時々広いフロアがあったが、トールさんの気配はなく、宝箱も今の所見つからない。

 モンスターも現れないなんて、静かだ。


「静か過ぎるわね。罠が待っていないといいけど」


 サララがポツリと言った。

 ルナンが頷く。


「そうですね。あら、行き止まりですか?」


 目の前には壁。

 通って来た道に別れ道など無かった。

 だとすると、このパターンは、


「く……」


 シトラス、ロック、ジェニファーは思わず下を見た。

 だが、何も起きない。

 床が割れる様子も無い。

 その時、ティナが天井の方を見て叫んだ。


「みんな、何か紐がぶら下がってるよ」


 確かに上から紐がブランと。

 てか、あの天井何であんなに高いんだ。

 穴が開いているように見える。

 紐も良く見ると途中で壁に引っかかっていた。

 本当ならもっと長く垂れ下がるはずなんだろう。

 サララがポケットから出て浮かんだ。

 忘れそうになっていたけど、彼女は魂で飛べるんだった。

 ロックの胸ポケットに入っているだけじゃないのだ。


「わたしがあの紐を落とすね」

「姉さん、気をつけて」


 サララは壁に引っかかった紐をヒョイッと落とした。

 床につく長さだ。

 サララが戻って来る。

 その途端、ガラガラと音を立てて上からゴンドラが降りて来た。

 紐は少し浮く。


「そういう事か」


 ガルディスは仕掛けに気づいた。

 みんなでゴンドラに乗るように言う。

 全員が乗ったら、力を込め紐を引いた。

 ゴンドラは上昇して行く。


「そうか。これで上に昇るのね」

「そうだティナ。シトラス、ロック、一緒に紐を引いてくれ」

「うん!」


 ガルディス一人ではさすがに疲れる。

 六人分の体重が乗っているんだ。

 シトラス達に手伝ってもらい、一気にゴンドラは上へ。


 ガタン。


 上に到着し紐を放すと、ゴンドラは下に降りて行く。

 さっきは途中で紐が引っかかっていたから、中途半端でゴンドラが降りて来なかったんだ。

 次のフロアに着く。

 鉄の結晶の欠片みたいな物。

 それを専用の道具で採掘している男性がいた。

 もしかしてーー、


「あの、トールさんですか?」


 シトラスの問いに男性が振り向く。


「確かにボクはトールだけど、誰だい? 君たちは」

「あの、俺達ヤンジャさんに頼まれて、あなたを探しに来たんです。その前に、こういう事がありまして」


 トールさんにニイ村のお婆さん達からの手紙を渡す。


「そうか。母さんも父さんも兄さんも元気なんだね。良かった。ボクも修行頑張ってるよ。兄さん、結婚するんだね。そっか……」

「トールさん……」

「兄さんは、母が35の時に生んだ子らしいんだ。なかなか子供ができなくて、苦労したらしい。ボクは兄さんと三歳離れてる。30で結婚か。あの奥手だった兄さんが……。おめでとう」


 トールは涙を流して喜んでいた。

 ジェニファーは、ヤンジャ師匠から預かったおにぎりを思い出す。


「トールさん。あと、これも。ヤンジャさんがあなたがお腹空いただろうって」

「師匠が……? ああ、師匠のおにぎり。少し硬いけど、頂くよ」


 トールは涙と鼻水を拭いておにぎりにかぶり付いた。


「ああ。しょっぱくて、美味しいや」

「トールさん。そんなに急いで食べられたら喉に詰まってしまいますよ。こちら、水です」


 ルナンが水を差し出す。

 トールは感謝して飲んだ。


「ありがとう。ご馳走さま」

「食べ終わりましたね。では、わたくし達と一緒に戻りませんか」

「いや。他の人が採ったみたいで、鉄があまり集まらなかったんだ。だから、この先に行ってみたい。鉄以外の材料もあるかもしれないし」


 その答えはだいたい予測していた。

 それにシトラス一行も、せっかくここまで来たのだから、奥の方にも興味はある。

 隠れた宝箱というのも、あるなら見つけたいし。


「分かりました。俺達も付き合います」

「えっ? いいのかい?」

「はい! ある噂というのも聞きましたし」

「ああ。あの噂の事だね。ではせっかくだし、お付き合いして貰おうかな。えっと……」

「ああすいません。俺達は……」


 さっと自己紹介する。

 トールさんは目を輝かせて驚いていた。


「勇者? 君たちが? これは凄い。では宜しく、シトラス君達」

「はい!」


 奥の部屋に足を進めた。
















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