サンの町
お婆さんの家の居間に通され、お茶を頂くシトラス達。その場でお婆さんから、ある手紙を託された。
「お主達、この先の町にも行くのじゃろう? そこでワシらの次男が鍛冶の修行をしているんじゃ。元気でいるかどうか心配でのう。この手紙を渡してもらえないじゃろうか? トールという名前なんじゃ」
「ババア。勇者達は疲れているんだ。そんな事を頼む訳には……」
「おや、勇者達の前でババアと呼ばないんじゃなかったのか? まあいい。若いの、頼まれてくれないかの?」
「お袋。そんな無理強いは……。手紙ならボクが届けるから」
「お前はもうじき結婚式じゃろうが」
シトラス達はニッコリ笑いながら言った。
「いいですよ。その手紙をトールという人に渡せばいいんですよね」
「済まんな。頼まれてくれるか?」
「はい」
手紙を受け取った。
汚さないよう気をつけて荷物の中へ。
お婆さんの家を出る。
「どうも、ご馳走さまでした」
「おお。若いの、お願いな」
村の様子を見てみると、早速あの井戸から女性が水を汲んでいた。
良かった。
多分生活用水なんだろうな、ここも。
あの天空の王国、スカイラーと同じで。
「さあ、シトラス」
「うん。姉さん、行こうか」
崖の上のスカイドラゴンは、食事中だ。
お腹が空いたら食べろって、餌を置いて来たから。
偉いな、ちゃんと自分で食べてる。
野菜は今、八百屋で補充して来たから、人間達の分は大丈夫だろう。
「キュイ」
「あら、スカイドラゴン。食べ終わった? なら、出発しようか?」
ジェニファーが首を撫でる。
ドラゴンは気持ち良くなったみたいで、横になった。
「ええ? お昼寝?」
「残念ねジェニファー。ドラゴンが起きるまで、アタシ達はお話してよっか」
「そうですね。ティナさん」
ロック、シトラス、ガルディスはドラゴンの体に寄りかかった。
風が気持ちいいし、こうしてると温かいから。
サララはロックの胸ポケットで空を見つめる。
雲が流れていた。
その時、
「あ……」
サララは感じた。
自分の体が、透明になりかかっているのを。
顔は消えていない。
と思っている内に、元に戻った。
「どうしたんですか、サララさん」
「あ。平気よロック。何でも無いわ。空が、綺麗だなって」
「そうですね」
ロックにはああ言ったけど、サララは分かっていた。
これは迎えに来たんだと。
前にスカイラーの神官ユリハさんが、予知をしたように。
ただ、今はもう少し、この温もりの中でというのが本音だった。
30分後、スカイドラゴンがムクッと起きる。
「お早うドラゴン。フワアアア」
「シトラス、あなたまで寝てたの?」
「そう言うなジェニファー。この日差しが心地良くて」
「だよな。オレもそう」
「もう、シトラスもロックも。行くわよ」
ジェニファーは崖から降りた。
ドラゴン達も続く。
お婆さんに頼まれた手紙を持って、サンの町へと足を向けた。
ザッザッ。
みんなで並んで歩く。
ドラゴンの背には乗っていない。
たまに歩かないと運動不足になるからとルナンが言った為、日差しの中歩く事にした。
ドラゴンはというと、みんなと一緒に歩いている。
別に強制した訳じゃないのに。
シトラス達の側にいたいのか。
「あ、ご主人様。あそこではないのですか?」
草むらを抜けた所で、バリアーの中の町を発見した。
大きい、石造りの町だ。
町の入り口と思われる場所に人がいた。
「あの、すみません」
「はいはい。うわっ!」
巨大なドラゴンを見て、若い男性はひっくり返る。
事情を説明すると、驚いてポカンとしたものの、広場に連れて行ってくれた。
広場は町の西側にある。
ベンチや噴水があり、町の人々の憩いの場だ。
「ここなら、ドラゴンも休めると思うよ。それにしてもびっくりしたなあ」
「すみません。驚かせてしまって」
「いや。勇者に会えるなんて光栄だよ。後でサイン貰おうかな?」
「そ、それは……。是非書かせて頂きます」
シトラスはキッと白い歯を見せ笑った。
何だかガルディスに似て来たな。とティナは思った。
さすが兄弟。
カッコつけの部分なんてそっくりだ。
男性は感動して、後で色紙を用意しますとシトラスの手を握り、泣いた。
ここまで喜んでもらえるとは。
そして男性はまた後でと言って手を振り、ピューッと消えた。
残された勇者達は、ポカンとして立ち尽くす。
「何だったんだ、今の……」
「さぁ?」
シトラスとジェニファーの呟きにティナが答える。
「まあ、この世界にもアタシ達のファンがいるって事でしょ」
シトラス達は納得。
「そうですね。俺の力が広まったかな」
「あら、あたしの魅力よ」
「おいおい、オレも忘れるな」
と、そこでルナンの突っ込みが入った。
「ところでご主人様。先ほどの方にトールさんの居場所を尋ねられたら良かったのでは?」
「あ〜〜〜!」
「やれやれ。肝心な所で抜けてるんだな」
「兄さんこそ、何も言わなかったよね」
「手紙を受け取ったのはお前だ、シトラス」
「う……」
「まあ、俺達はパーティーだからな。聞かなかったのは悪かった。仕方ない、町の人に尋ねて廻ろう」
ガルディスが上手くまとめて、パーティーを引っ張る。
ドラゴンは、行ってらっしゃいと鳴いた。




