願い
命の木は半分枯れていた。
スカイドラゴンの体も、下半分は透けている状態。
命が危ないのに、よく飛んだな。
シトラスとジェニファーは感謝しながら、木の核へと急いだ。
おばば様とユリハさんは外で待っている。
「あれか!」
根にぐるぐると包まれて守られている物。
シトラスが触れると、根は幹の中に戻り、核が出てきた。
卵の殻みたいな、つやつやして丸い物。
大きさはというと、人の顔ぐらい。
本来色は白かったらしいが、今は闇のせいで黒く染まっている。
「ガルディス様、これが核ですか?」
「ああ。そうみたいだな」
「しかし、思ったより小さいのね」
「そうですねティナさん。俺ももっと大きい物を想像してました」
「これだけの木だからね。でもそうだったらシトラス大変じゃないの?」
「まあ、兄さんがいるし。平気だよジェニファー」
「おいおい。お前もやるんだよ」
「では、そろそろ始められたらいかがですか?」
「ああ」
二人は目を閉じ、紋章に祈りを込める。
ジェニファー、ロック、ティナ、ルナンは側で見守っているだけ。
サララが教えてくれる。
「二人とも。メモリーリングは、紋章の力と連動しているの。紋章の力が高まれば、メモリーリングも輝くわ」
「分かった」
メモリーリングがまばゆい光を放つ。
紋章と同調して、腕まで輝いているようだ。
目を開け、核に手を添える。
パアアアアア。
核が光を吸収して白い色に変わっていく。
枯れていた木も、元気になっていくのが分かった。
「もう少しね」
「そうねサララ。やるわね二人とも」
「でも、あたし達見ているだけなんですか?」
「仕方ないだろ。オレらあんな力無いんだから」
「ではせめて応援しますか? ジェニファー様」
「うん。シトラ……」
そう言いかけた時、何かの気配を感じた。
幹から飛び出して来る影。
あれは、コウモリのモンスター、ドラキューだ。
一匹や二匹では無い。
何十匹もいる。
「あらら〜〜」
「ティナ様。お客様のようですわね」
「しょうがないわね。シトラス達の邪魔はさせない。ジェニファー、ロック、やるわよ!」
「はい!」
シトラスとガルディスの後ろで、戦いが始まった。
二人はそっちの気配を気にしつつ、手を放す訳にはいかず内心焦っていた。
「シトラス、ガルディス。アタシ達の事はいいわ。今はそっちに集中して。そっちの方が大事よ」
「わ、分かった」
ティナの声に二人は緩めていた気を再び集中させた。
ポワワワワワ。
光が木の中に充満していく。
暖かい。
シトラス達は願いを込めた。
「命の木よ。俺達の、みんなの思いを受け取れ!」
核は完全に白くなった。
枯れていた木が蘇って行く。
ティナ達は、
「乱天狩射!」
「ラッピー、風を!」
「アイシクルレイン!」
怒涛の攻撃でドラキューの群れを減らして行く。
あと一匹。
ロックの矢で片付いた。
「あと、いないよねロック」
「そうだなジェニファー。シトラス達の方は?」
「ああ、オッケーだ」
シトラスとガルディスが核から離れる。
命の木はすっかり元気になった。
嬉しそう。
枯れている箇所は見当たらない。
「やったねシトラス。じゃあ、木の中から出よう」
「ああ、ジェニファー」
「ガルディスもお疲れさま」
「ああ」
それぞれジェニファーとティナが称える。
シトラスは少しフラッときた。
「おい、大丈夫かシトラス」
「悪いロック。もうめまいは起こらないと思っていたけど」
「あれだけの気を出したんだ。俺もはっきり言って疲れてる。早く外に出て休もう」
「じゃあ、ガルディスはアタシが」
シトラスはロックの、ガルディスはティナの肩を借りた。
おばば様とユリハが迎えてくれた。
二人ともニコニコしている。
喜びが溢れているようだ。
スカイドラゴンもお礼をするように鳴いた。
「キュイキュイ!」
翼をばたつかせる。
シトラスとガルディスは、ドラゴンの側に座らせてもらった。
「礼を言うよ勇者達。よくやってくれた。おかげで命の木は元通りじゃ。また力強く枝を広げておる」
「私からも礼を言わせて下さい。本当に、ありがとうございました。今はお疲れでしょう。ゆっくりお休みになって下さい。今、水をお持ちします」
ユリハから渡されたコップの水。
冷たくて、美味しい。
ほんのり甘味も感じる。
「美味しい。この水。飲んだ事無いような」
「あたしも初めての味かも」
シトラスとジェニファーが感想を言うと、他の仲間達も次々褒めた。
ユリハはニッコリ。
「そうですか。ありがとうございます。その水は命の木が作り出した水。井戸から汲んでいるので、ヒンヤリしていると思います。ですが、汗をかかれたあなた方には、ちょうどいいでしょう?」
「はい!」
澄んだ水で生き返るようだ。
ドラゴンの顔も笑ってる。
喉の辺りをさすると、気持ち良さそうに鳴いた。
「ではの、ワシは王様に報告して来ようかの。命の木が勇者達のおかげで蘇ったと」
おばば様がよっこらしょと立つ。
ユリハはすかさず、
「いいえおばば様。私が参ります。おばば様は、勇者ご一行様とともにここにいて下さいませ」
と言い、駆け出そうとした。
魔王の声が聞こえたのは、その時。
「フフフ。お前達、命の木が蘇ったと思ったか。まだ、まだだぞ。わたしの闇は、まだ続いている」
「何っ!?」
ガルディスは命の木を見た。
黒く染まりかけている。
ドラゴンが、バタッと倒れた。
「ドラゴンっ!」
慌てるシトラス。
ガルディスは空を睨む。
「魔王、一体何をした?」
「ガルディスよ。核が白くなって安心したのだろうが、それだけではわたしの闇は消えないぞ。フフフ。苦しませてやる。お前をな」
「くっ……」
どうすればいい?
シトラス一行は手をこまねいていた。




