山賊壊滅
扉を開けると、そこはかなり広い部屋だった。
横縞の服の山賊達と、もう一人、見た事もない人が。
椅子に腰かけている、かなり妖絶な美女。
黒いピチッとしたドレス。丈は短く、スリットから覗く長い脚が美しい。足元は同じ色のハイヒール。髪は銀髪で、腰くらい。襟足がクルッと外側にカールしている。
そして、その美女の傍らには、村長の娘アミーちゃんが、鎖で拘束されていた。
鎖は椅子に繋がれている。
「んふふふふふふ。何か騒がしいと思ったら、勇者一行が入って来たのね」
「俺達の事を知っている?」
「ええ。ドグアック大陸にある、東の塔の魔物を倒したと、魔王様がおっしゃっていたわ。ジョセフィーヌは、裏切ったみたいだけど」
「なら、俺達がここに来た理由も分かるな?」
「この女の子を、返してもらいに来たのでしょう。だけどそうはいかなくてよ。あの村を、手に入れるまではね」
「お前達が、ユノ村を狙う理由は?」
「あそこを奪えば、あのツヤツヤした温泉に入り放題、というのが理由の一つ。あと、魔王様がおっしゃったのよ。何処でもいいから手に入れて、力を示せと」
「そんな事……」
「させない? じゃあ、あなた方の実力、試させてもらうわね」
美女が山賊達に命令する。
山賊の姿が、シャドウに変わった。
「そのシャドウは、アタシの部下。さぁ、可愛がっておあげなさい」
シャドウは、シトラス達の回りを囲みながら、次々増殖していった。
あっという間に数が増える。
「くっ、演舞斬!」
サララの剣技が舞う。
ジェニファーも、杖に願った。
「アイシクルレイン!」
「シトラス、オレ達も」
「ああ!」
シトラスが敵の群れに飛び込む。
高速で動き、シャドウを斬っていった。
「疾風!」
最後はロック。
矢を一気に何本も放った。
「乱天狩射!」
しかしそれでも、シャドウの群れはなかなか減らない。
美女は妖しく微笑んだまま、戦いの様子を伺っていた。
アミーちゃんはというと、半分泣き顔を浮かべている。
不安なのだろう。
早く助けないと。
息を切らしたシトラス達が立ち止まる。
シャドウ達が口を膨らませ、息を吐いた。
ビシュウウウウ。
黒い吹雪だ。
シトラス達は吹き飛ぶ。
「サララさん、大丈夫ですか?」
「ええ、ロック」
「ジェニファーも無事か!?」
「うん!」
シトラスとロックがそれぞれ女子二人の手を引いて起こす。
シャドウは攻撃態勢に入っていた。
「おいシトラス、奴らを一気に片付けないと、またやられるぞ」
「分かってる」
「シトラス、ロック。あたしに任せて!」
ジェニファーが杖を両手で持ち、高く掲げる。
杖の先端の宝石が、輝き出した。
「シャイニング!」
眩しい光に、シャドウは包まれる。
闇の性質を持つ彼らは、光に弱い。
次々消えていく。
美女が焦って、立ち上がった。
「もういいわ。お前達、戻りなさい!」
美女の両方の手のひらの上に、残ったシャドウが集まる。
それは黒い玉になった。
「まずは、あなた」
右手の玉をジェニファーに向かって投げる。
彼女は壁にぶつかった。
さらに、黒い玉が鎖に変化、壁にくっつき、ジェニファーの動きを封じる。
「ジェニファー!」
ジェニファーを助けようとしたサララだが、同じようにもう一つの玉をぶつけられて、動けなくなる。
「ジェニファー! 姉さん!」
シトラスは怒り、キッと美女を見る。
ロックも同じ。
美女は余裕で笑っていた。
「んふふふふふふ。ちょっと、遊びましょうか」
美女が自分の胸元をはだけさせる。
白い胸の谷間がくっきりと。
シトラスとロックは唾を飲んだ。
ゴクン。
心臓の鼓動が早くなる。
興奮しているのが、自分でも分かった。
美女は服の隙間から手を入れて、胸を押し出そうとしている。
「ふふふ。ここだけじゃなくて、おっぱいを見せてあげてもいいわよ。後ろの娘達なんか放っといて、アタシと遊びましょう」
その時、ジェニファーとサララが叫んだ。
「ダメ〜〜! シトラス!」
「ロック。言う事を聞いちゃダメよ!」
その声にシトラスとロックは我に返る。
剣と矢を、美女に向けた。
美女は驚く。
「アタシの美貌より、娘達の方がいいって言うの? 許せないわ!」
彼女は怒りに満ちた顔で、魔法を放った。
「サンダーボム!」
「わっ!」
ギリギリで雷を避ける。
シトラスが懐に入った。
「五月雨!」
嵐のように剣撃を叩き込む。
美女の顔が苦痛に歪んだ。
その顔に、シトラスの剣が触れ、小さな傷ができる。
その途端、美女は悲鳴を上げて叫ぶ。
「あああああっ! アタシの美貌が!」
シトラスはびっくりして離れた。
美女の姿が変わる。
肌はシワシワ、頬はこけ髪は白髪に。背も曲がり小さくなった。服は黒だがドレスじゃなく、マントで足を隠している。
その容姿は、まさに魔女だ。
彼女がその姿になった時、ジェニファーとサララ、アミーちゃんを拘束していた鎖が消えた。
魔力が途切れたのか。
自由になったジェニファーとサララが、シトラス達の側に来る。
魔女は、まだ叫んでいた。
「あああっ! アタシの魔力が、美貌が!」
どうやらあの美女の姿は、魔力で作っていたものらしい。
本来の彼女は、お婆さんのようだ。
「許さん、許さんぞ、お前達ぃ〜〜!」
魔女が放ったバーニングバードを避けて、シトラス達の反撃が始まる。
空中に飛び上がったシトラスが、落下しながら魔女を斬った。
「飛翔斬!」
「ギャアアアアッ!」
「まだまだァ!」
ロックが火の点いた矢を飛ばす。
「炎天狩射!」
魔女の顔に当たった。
魔女は顔を押さえ、もがく。
「最後はわたしよ!」
サララが剣を構え、走る。
舞い散る桜の花を斬るような、優雅な剣技が決まった。
「桜花斬!」
トドメの一撃を受け、魔女は消滅した。
床に石が転がる。
その石をジェニファーが拾って、シトラスを手招きした。
「見て! シトラスこれ、赤い石だよ!」
「何っ!?」
レベルの高いストーンモンスターが持つ赤い石。
やっと手に入れる事ができた。
シトラス達はキャッキャとはしゃぐ。
「あの〜」
可愛らしい声がした。
ハッ、とシトラス達が振り向く。
アミーちゃんだ。
ジェニファーが近づいた。
「ゴメンねアミーちゃん。お姉ちゃん達、勝手にはしゃいじゃって。どこも痛い所はない?」
「うん! 痛くないよ」
「そう、良かった……」
アミーちゃんは満面の笑みを見せた。
「ありがとう、お姉ちゃん達!」
ジェニファーがアミーちゃんの手を引く。
外で、ユノ村の人達が待っているはずだ。
アミーちゃんのお父さんも。
砦の魔物も、いなくなったはず。
シトラス達はさらわれた人達の解放に、成功した。




