砦での戦い
山賊のアジトである、石の砦の一階。
中は奥までぐんと広がっている。
東の塔と同じように罠があるかもしれないから、シトラス達は慎重に進んだ。
天井に吊り下げられたランプの灯りが、四人の影を写して行く。
今の所、魔物の気配はない。
不気味な程静かだ。
広い通路を真っ直ぐ行くと、道が三つに分かれた。
左右に行く道と、真っ直ぐ行く道。
分岐点で、シトラス達は止まる。
「姉さん、どの道を行こう?」
サララは考えようとしたのを止めて、シトラスを見た。
「シトラス。それはあなたが、自分で考えなさい」
「えっ!?」
突然の姉の言葉に、シトラスは戸惑った。
サララは優しく諭す。
「あなたは魔王ダイロスを倒す為に旅に出た。その為には、自分の足で行動し、自分の頭で考えなきゃならない時がくるわ。あなたは勇者。このチームのリーダーはあなたよ」
「姉さん……」
「わたしはサポートするわ。さあ、シトラス」
シトラスはロックとジェニファーを見る。
彼ら二人は、力強く頷いた。
「大丈夫。あたし、シトラスについていく」
「オレもだよ。オレ達は、親友だからな」
「ジェニファー、ロック……!」
シトラスは分岐点に向き直る。
どの道に行こうか。
彼は考えた後、答えを出した。
「よし。まず、左に向かおう!」
「オ〜ッ!」
左に向かう道は、大きくカーブしていた。
それも坂道になっている。
どうやら、地下があるみたいだ。
緩やかな坂道を下ると、平らな道になった。
左右に部屋がある。
右の方の部屋は、頑丈な扉で、鍵がかかっていた。
耳を澄ませると、中から人の声がする。
「助けて、助けてぇ!」
「ここから出してくれ〜〜!」
その声を聞いた途端、シトラス達は理解した。
村からさらわれた人達が、閉じ込められているんだ。
しかし扉の鍵が無い。
ここでシトラスの勘が働く。
左の部屋が怪しい。
勢いよく、左の部屋の扉を開く。
中にいた人物が振り向いた。
「な、何だ、お前ら!」
その服装と顔。山賊の一人だ。
シトラス達は武器を持つ。
「俺達はさらわれた人達を助けに来た! さあ、人々を閉じ込めている扉の鍵は何処だ!」
「フッ、馬鹿が!」
山賊の服が破れていく。
彼は元の姿、黒いお化けの姿になった。
「魔物か!」
「シトラス、あれ、シャドウよ」
「分かった、ジェニファー」
サララが剣を構え、踊るように敵を斬る。
「演舞斬!」
ロックも続いた。
矢が真っ直ぐ、敵を貫くように飛んで行く。
「飛天狩射!」
当て字だが、許して欲しい。
ロックいわく、カッコいいからこの呼び名をつけたんだそうだ。
二人の時間差攻撃に、シャドウは沈黙する。
白い石と鍵が落ちていた。
それをシトラスが拾い、叫ぶ。
「みんな、村の人々を解放するぞ!」
錠前に鍵を差し込む。
思ったとおり、ぴったり合った。
ガチャッ。
分厚い扉が開き、人々が飛び出して来た。
怪我をしている人はいない。
「ありがとう。ありがとう」
人々は口々に言う。
だけど、その中に村長の娘、アミーちゃんはいない。
ロックが聞いてみた。
「皆さん、アミーちゃんを知りませんか?」
「えっ!? アミーちゃんが捕まっているのかい?」
人々は村長の娘が捕まっている事を知らなかったようで、驚愕していた。
「弱ったな。何処にいるんだ……」
「ロック。この砦は広いみたいよ。今はとにかくこの人々を逃がして、それから探しましょう」
「そうですね、サララさん」
他にも魔物がいると危険なので、シトラス達が人々を出口まで誘導する。
そして、外への扉を開いた。
人々は喜び勇んで出て行く。
外で待っていた村人達と、涙の再会を果たしたのが、シトラス達には見えた。
「さて」
シトラスがサララ、ジェニファー、ロックを見る。
「行こう! アミーちゃんを探しに」
三人は笑って、シトラスについていく。
今度は、分岐点を右の方向に曲がった。
その道はカーブをしておらず、短い。
すぐ壁にぶち当たった。
行き止まりかと思ったその時、足下の床がパッカリ割れた。
「うわあああああ!」
「キャアアアアアッ!」
落とし穴に落ちて行く。
ようやく止まった。
四方を壁に囲まれた狭い部屋。
唯一置いてあったのは宝箱だけ。
シトラスが箱を開ける。
「ちょっとシトラス。勝手に開けていいの?」
そんなジェニファーの注意にシトラスは、
「いいのいいの。こういうのは、冒険者の定番だろ」
「でも……」
「いいんじゃないジェニファー。ここは山賊、いえ魔物の砦なんだし」
「そうそう。それに少しぐらい楽しみがないと、せっかく冒険してるのに意味がないぜ」
「サララさんとロックまで。分かったわ。みんなに従う」
「そうそう」
箱の中身は風船だった。
普通の大きさの風船と思ったのに、だんだん膨らんでいく。
風船についていた紐を持つと、フワリと浮かんだ。
「みんな、紐を持って!」
四人が紐を握った所で、身体が浮かんだ。
フワリフワリと、落とし穴を上昇して行く。
穴の上まで出た時、ガチャリと床が元通りになり、風船も消えた。
「役に立つアイテムで良かったな、シトラス」
「ああ。言った通りだろ? ジェニファー」
「ええ」
良かった、宝箱は罠じゃなかった。
落とし穴だけが罠だったみたい。
もしかして、魔物が自分で落ちちゃった時に備えて、用意していた物?
そんな訳ないか。
それにしても、シトラスって運がいい。
シトラスの眩しい笑顔を見つめながら、ジェニファーは考えた。
「ん? どうしたジェニファー。俺の顔に何かついてる?」
「えっ? う、ううん何でもないの。ゴメンね」
赤い顔を隠すように、ジェニファーは逃げた。
シトラスはポカンとして、一人呟いた。
「変なの」
あ〜あ、やっぱり気付いてないよ。シトラスってば。
右の道は何もなかったので、後は真っ直ぐ進む道。
この先にアミーちゃんがいるのか。
慎重かつ迅速に、走って進む。
両脇の壁から、シトラス達めがけて幾つもの槍が発射された。
シトラスとサララの剣技で、それを斬り落とす。
目の前から一体、木彫りの人形、パペットマンが襲って来た。
「バーニングバード!」
パペットマンが、体をバラバラにして攻撃する前に、ジェニファーの魔法が貫く。
哀れパペットマンは、プスプスと煙を上げ炭になり、消滅した。
扉が現れる。
「ここか……」
一旦立ち止まり、呼吸を整える。
ノブに、手をかけた。




