武器職人ゴルゾン
「ふわあ」
「おはよう、シトラス」
眠い目をこすりながら起きて来たシトラスに、ジェニファーが笑いかけた。
これから妖精の村を出て、武器職人であるお爺さんに会いに行くのだ。
みんな支度はできている。
「ご主人様。眠れなかったのですか?」
「うん。これから会うお爺さんって、どんな人なんだろうなって。あ、でも少しは寝たよ」
「興奮してたんだよなシトラス。オレもそうだ。新しい武器が手に入るかもって」
「もっと強力な武器が、な」
「そうなんだよガルディス……さん」
「ロック、それにジェニファー。俺に無理やり敬語を使わなくていいぞ。仲間に入れてもらったとはいえ、敵だった事は否めない」
「でも、それは……」
「いいんだ」
ガルディスは穏やかに、諭すように言った。
それは仲間として、気を使って欲しく無かったから。
その言葉に気を良くしたロック。
「よ〜し、やっぱガルディスも強力な武器が欲しいよな。そうだよな」
と、叫んだ。
ガルディスは苦笑する。
ジェニファーは少し呆れて、
「もう。ロックったら調子いいんだから」
ってたしなめた。
シトラス達はプッと吹き出す。
ジェニファー達もつられて笑った。
そこへ宿の人がやって来る。
「ずいぶん楽しそうですね。皆さま」
シトラス達はハッとして平謝り。
一気に笑い声が消えた。
「すみません。うるさくしてしまって」
だが宿の人は気にも止めない様子。
笑顔で対応する。
「構いませんよ。私達妖精は、賑やかなのが大好きなのです。久しぶりに、人間の楽しげな声を聞きました」
「そ、そうですか」
「いけない。私ったら。朝食の準備ができたのです。どうぞ、お召し上がりになって下さい」
「はい!」
朝食はパンだった。
こんがり焼かれたトーストにサラダ。温かいミルクにスクランブルエッグ。
食後のコーヒーとデザート。
妖精の村で、こういう食事にありつけるとは思わなかった。
聞けばこういうのも好みらしい。
思えば魔物のジョセフィーヌだって、同じ物を食べていたし。
満足したシトラス達は宿を出発する。
だが、宿の妖精の人は、シトラス達が武器職人に会いに行くと聞いて不安な顔をした。しかし期待しているシトラス達の笑顔に、何も言えなかった。
ただ最後に、
「もし、その人が受け付けなかったら、また来て下さいね」
と意味深な言葉をかけた。
シトラス達は一瞬頭がハテナになったが、あまり気にせず村を後にした。
妖精の村から見て、確か東に向かうといいと言ってたな。
こっちの方角で合っているかな。
薄暗い森を抜ける。
ポツンと家が建っているのが見えた。
武器職人と聞いていたから、作業場を含めた大きい家を想像していたけど、ギー婆さんの小屋より多少大きいくらい。
玄関の扉に鈴がぶら下げてある。
これを鳴らすのかな?
チリーン。
鈴についていた紐を揺らすと、甲高い音が辺りに響いた。
次の瞬間、
「わっ!」
何処からか、竹槍が飛んで来た。
かろうじて避ける。
だが何本も。
ガルディスが、剣で斬り落とした。
「ほう、少しはやりおるな」
家の中からお爺さんが出て来る。
シトラスが話しかけた。
「あの、こんにちは。俺達……」
「フン」
お爺さんが杖で地面をトンと叩く。
いきなりヒビが入り、割れた。
落とし穴に落とされる。
「な、何するんですか!?」
「じゃかあしい! 儂は誰も信用できないのじゃ。分かったら、とっとと帰るがいい!」
バンと強く扉を閉める。
シトラス達は穴から這い上がった。
「何なんだ、一体?」
「シトラス、妖精さん達が言っていた通り、偏屈なジジイだな」
「ロック、聞こえるわよ」
「そうか? ジェニファー」
「それにしても、どうしてあのように頑固になってしまわれたのでしょうね」
「そういや、宿の人が言ってなかったかい? 受け入れられなかったら、戻って来いって」
「ティナの言う通りだ。ここでこうしていても仕方ない。宿に戻るぞ」
「うん」
とりあえず去って行くシトラス達を、家の中からお爺さんは見ていた。
「……フンっ」
そっぽを向く。
何なんだ、この人は。
妖精の村。宿の入り口。
シュンとして戻って来たシトラス一行を、宿の妖精さんは暖かく迎えてくれた。
「まあ、やはりこうなりましたか。とりあえずお入り下さい。詳しいお話を致しましょう」
部屋に通される。
お茶の準備もすでにできていた。
まるで戻って来るのが分かっていたようだ。
シトラス達は済まないと思いながら椅子に座る。
「大丈夫でしたか? あのお爺さんには、私達も手を焼いているのです」
「あのお爺さんの事に詳しいんですか?」
「ええ」
顔を上げ、尋ねたシトラスに宿の人は答えた。
「あのお爺さんの名前はゴルゾンさん。武器職人なのはご存知ですね」
「ええ」
「あの方は罠を作るのも得意で、私達が料理を作って持って行っても、それで追い返されてしまうのです。儂は誰も信じない。構わないでくれと、料理をひっくり返された事もありましたね」
「それは、あんまりですね」
「けど、哀れな方なんです。あのお爺さんは……」
妖精さんは泣きそうな顔になる。
それでも、話しを続けた。
「実は……」
シトラス達は、身を乗り出した。




