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ユノ村

 ビグアック大陸最初の村、ユノ村に到着した。

 一体ここはどんな村なんだろう。

 木の家が建ち並ぶ。

 人々は洗濯物を干したり、桶で野菜を洗ったり、でもシトラス達が通ると、ちゃんと挨拶をしてくれた。

 女性達は忙しそうなので、家の前でお茶を飲んでいる、あのおじさんに聞いてみよう。


「あの、こんにちは」

「こんにちは。旅の者達かい?」

「はい。あの、ここはどんな村なんですか?」

「見ての通り、のどかな村だよ。名物は温泉かな」

「えっ? 温泉があるんですか?」

「そう。見えるかな。あの小さな滝のあるとこ。あの下に、温泉が湧き出ているんだ」


 おじさんが指差す方向を見ると、確かに滝がある。

 周りに囲いが設置されているので、入浴中でも安心できそうだ。


「滝を見ながら露天風呂に入れるなんて、贅沢ですね」

「だろう。源泉は熱いんだけどね、滝の水で冷やされてちょうど良くなるんだ」

「わぁ、入ってみたいな、俺」

「どうぞ。ただし、混浴だけどね」

「ふえっ?」


 シトラスは妙な声を出してジェニファーを見た。

 ロックも同じ事を考えていたのか、サララの顔を見る。

 女子二人は不機嫌な顔になる。


「シトラス〜、あたしの裸を想像してるんでしょ?」

「ロックもそうなの?」

「うっ……」


 シトラスとロックは口を押さえた。

 気持ちを落ち着けないと、鼻血が出てきそうだ。

 が、サララ達に顔を覗かれた。


「あら〜、鼻血〜?」

「ブッ」


 赤い物が垂れてくる。

 急いでティッシュを詰めた。


「いや〜ん。シトラスとロックの、エッチい!」


 ぶりっ子口調で、そんな事言われてもねえ。

 こっちは大変なんだよ。

 おじさんが、首の後ろを軽く叩いてくれた。


「あ、ありがとうございます」

「若いねえ。でも、その露天風呂は水着着用なんだ」

「どえええええっ!」


 ジェニファーとサララは笑った。


「あ〜ら、残念ね二人とも。それにまだ、一緒に入るとは言ってないわよ」


 くっそー。

 大ラッキーだと思ったのに。

 と、シトラス達が悔しがっていると、


「どけどけい、邪魔だ!」


 全員同じ横縞の服を着た横暴な男達が、我が物顔で歩いて来る。

 村の人々はサッと家の中に隠れた。

 おじさんが、シトラス達を家の脇に隠れさせる。

 男達は目の前を通りすぎて行った。


「何なんですか、あの人達?」


 サララが小声でおじさんに聞いた。


「あいつらはここら一帯を仕切っている山賊だよ。我が物顔で、この村を自分たちの物にしようとしているんだ。あいつらに逆らった村の者は、皆アジトに連れて行かれて行方不明になっている。君達も、気をつけた方がいいよ」

「そんな……。村の人々は、我慢しているんですか?」

「もちろん、戦おうとした。けど、あいつらは強かった。どうにも、ならなかったんだ……!」

「そんな……!」


 そこに、女の子の悲鳴が聞こえた。

 転んで、山賊の一人に、持っていたジュースをかけたらしい。


「この娘……! 新品の靴が汚れたじゃねぇか。どう落とし前つけてくれんだ。オラア!」


 女の子はぶるぶる震えている。

 首根っこを掴まれ、持ち上げられた。


「何とか言いやがれ、このガキャア!」


 殴られる。

 女の子は覚悟して、目を閉じた。


「待って下さい!」

「パパぁ!」


 現れたのは、女の子の父親、ユノ村の村長だった。

 シトラス達も現場に駆けつける。

 村長は、山賊達の前に土下座をして、謝った。


「その子が、何かあなた方に粗相をしたようで、本当に申し訳ない事をしました。どうか、わたしに免じて、お許し下さいませ」


 山賊達は、村長に近づく。


「お前は、この村の村長か。そうか、このチビはお前の娘か。なら良く見ろ! てめえの娘が俺様の新品の靴にジュースをこぼしやがったんだ!」

「ならば、新しい靴に替えさせて頂きます」

「要らねえよ」

「え?」

「新品の靴だと言っただろ。それよりも村長。この村を俺様達にくれるなら、許してやってもいいぜ」

「そ、それは……」

「なら、こうだ!」


 村長はいきなり殴られた。

 シトラス達が助けに行こうとするが、先ほどのおじさんに止められた。

 村長はぼこぼこにされる。


「フッ、行くぞ」


 山賊達は村長の娘を連れて、アジトへと向かおうとする。


「パパぁ、パパぁ、助けて〜〜!」

「あ、アミー!」


 村長が手を伸ばすが、間に合わなかった。

 テレポートで消える。

 少女の叫び声だけが、耳に残った。

 シトラス達が村長の元に駆け寄る。

 シトラスの目線に、ジェニファーが気付き、頷いた。


「キュアリー!」


 村長の顔の腫れを、魔法で癒す。

 村長は、シトラス達を見つめた。


「君達は、一体?」

「俺達は、魔王を倒す為に旅をしている者です。旅の途中で、この村に寄りました」

「魔王を倒すって、君達はまだ子供じゃないか」

「けど俺は勇者です。魔王を倒すのは、俺の使命なのです」

「勇者……」


 村長さんも、おじさんも、改めてシトラス達をまじまじと見た。

 子供とはいえ、剣や弓矢を持っている。

 魔法使いの杖もある。

 それなりに、修行したのだろうか。


「村長さん。俺達が、山賊のアジトに行って、さらわれた人達を取り戻して来ます。あんな小さな女の子にまで暴力を振るうなんて、俺達は許せません」


 シトラスの言葉に、仲間達は頷いた。

 村長も覚悟を決める。


「分かった。君達のような子供に戦わせるのは忍びないが、これ以上手をこまねいている訳にはいかない。悪いが、お願いするよ。勇者殿」

「はい!」

「これぐらいしかできないが、せめてアジトまで案内させてもらうよ。さあ、こちらへ」


 村長自らの案内で、外に出た。

 村からはさほど離れていない。

 頑丈そうな石造りの砦が、そこにあった。

 丸い扉の前にシトラス達が立つと、村長が懇願する。


「勇者殿。どうか娘を、アミーを、お助け下さい」

「ええ、お任せ下さい。あんな可愛い子を、死なせる訳にはいきません。それでは」

「お願いします」


 扉の中に、シトラス達は消えた。

 村長はその場で祈る。


(どうか、みんな無事で帰ってきますように……)


 村人達も、少しずつ集まり始めていた。

 みんな心配なのだ。

 シトラス達も、捕まっている者達も。

 それに、子供達が頑張っているのに、自分たちが何もしない訳にいかない。

 真っ直ぐ、砦を見つめた。








感想、随時受け付けています。

どうぞ皆さま、よろしくお願いいたします。

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