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落ちこぼれ現代魔法使いの異世界召喚  作者: 雲珠
第三章 クラン結成編
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第90話 強敵

 大西の渾身の一撃が炸裂した。

 鋼でできた騎士は鈍い音を立てながら、後方へ飛んで行く。

 ここまでダメージを与えたのは初めてではないだろうか。

 数刻宙に舞ったのち、床に何度か打ち付けられ地面が抉られていく。

 何度かのバウンドを挟み、片腕を地に引っ掛け体勢を立て直す。

 吹き飛んだ際の威力を完全に殺しきり、再び攻勢にかかる魔物の騎士。

 兜がひび割れ目と思しき赤い瞳がこちらを睨みつける。

 背筋がぞっとするような感覚に襲われた。

 大西の攻撃はそれこそ必殺の一撃として十分なものだったはず。

 それでもこれだけのダメージしか与えられていない。


 大西の前に出て、光の熱線を浴びせると、ジュワッと焦げるような音がする。

 効いてはいるようだが、手ごたえは薄い。

 範囲を絞るか、剣に収束して威力を上げればダメージも見込めるがあのスピードにヒットさせるのは困難だった。

 だからこそ範囲を広げ少しでもダメージを稼ぐのだ。


 スザクは光が途切れるのを見越して、敵の間合いに入った。

 地面がピシリとひび割れ、全身を使った重い一撃を加える。

 顎にクリーンヒットした強烈な一撃。

 もし相手が人だとするならば、完全に急所を捉えたと言ってもいいだろう。

 兜の亀裂がまた一段と大きく広がっていく。


 そして腹部からミスリルの長槍が生えてくる。

 末永の攻撃だ。

 俺も追撃を加える。

 今のタイミングであれば、強力な一撃を当てることができる。

 この攻撃が一発通れば、こちらの勝ちは盤石なものとなるだろう。

 桜田のウィークポイントにより腹部に防御力低下を示すアイコンが出現する。

 しかし、相手も一つ一つの攻撃を取捨選択していた。

 魔物の体に吸い込まれるように放たれた光炎の刃は、奇しくも奴の盾によって軌道をずらされる。

 対象を失った攻撃はレンガで出来た床にザックリと深い溝を作り出した。


「アイスフィールド!」


 動きを止めようと東雲が再び氷柱を発生させる。

 先ほどは回避されたが、スザクの攻撃により宙に浮かぶ体では防ぎようのない攻撃だった。

 巨大な氷塊に閉じ込められる魔物の騎士。

 兜はひび割れ、ミスリルの槍が突き刺さり、全身は光炎による熱により溶解している。

 捕縛できたことに安堵する一向。

 だが、その油断が大きな仇となる。


「まだ終わってません! 離れてください!」


 氷塊が崩壊し、無数の氷が弾丸のように弾かれる。

 腹に、腕に、足に直撃し、赤い液体が噴出した。

 ……まだ動けるのか。

 グラッと来る意識を何とか保つことに成功するが、他のメンバーはもろに反撃を受けてしまった。 

 その場に倒れ込むパーティを見てギリリと奥歯を噛みしめる。


「サウザンドエッジ!」


 エクスキューショナーの周囲に無数の剣が現れ、吸い込まれるように魔物の騎士を襲う。

 はたから見れば避けようがない完璧な攻撃であった。

 しかし、その魔物は剣を構え着弾する瞬間、すべてをはじき返す。

 敵に当てるはずの攻撃が逆にこちらへと返って来た。

 致命傷となりそうな刃を避けつつ、どうしてもよけきれない剣が体へと突き刺さる。

 再び鮮血があふれ出した。


「アリオーシュ!? もう無理ではないか!? 早く助けてやらねば取り返しのつかないことになるぞ!?」

「……気持ちはわかりますが、……もう少し、もう少しだけ待ってください」


 ふと二人の声が耳に届くが、戦闘に集中していたため何を話しているのかわからない。

 だが、ロイスさんが剣を構えているのが横目に見えた。

 助けに入ろうとしているのだろうか。

 この状況を見れば全部放り出して助けて欲しい気持ちもある。

 自分の力の足りなさと、不甲斐なさで思考が満たされていく。


 さらに追い打ちをかけるように力がふっと抜け出した。

 桜田が使っていた能力向上の魔法が切れたのだ。

 無数の刃をはじき返され、その流れ弾が桜田と東雲、下地に突き刺さっていた。

 偶然……?

 ……いや違う。

 あいつはこちらの攻撃を利用したんだ。

 遠距離攻撃もあると聞いていたが、それではない。

 スキルとも違う、単なる技術でこちらを圧倒していた。


 俺たちの力はまだつけ焼刃。

 ただ力が強くてもだめなんだ。

 レベルアップをしても研鑽された剣術には遠く及ばない……ということか?


 味方がやられたというのに頭の中がクリアになっていく。

 絶望的な状況なのに、怒り狂ってもおかしくない状況なのにどんどんと冷静になっていく自分がいた。

 まだ、助けてくれないのだろうか?

 どうして助けてくれないのか?

 助けてくれないということはまだ勝機はある、ということか?

 今までも危ない場面では助けてくれていたし、きっとそういうことなのだろう。

 でもみんながこんなに苦しんでいるのに、痛いのにどうして……?


 世界の流れが遅くなる。

 ダメだ、この距離では逃れられない。

 寸前まで迫ってくる魔物の剣。

 それでも、助けが来る様子はない。

 自分が何とかするしかない。

 助けてくれない憤りと、自分が何とかするしかないという焦り、全身に駆け巡る痛みで頭の中がぐちゃぐちゃになっている。


 次の瞬間脳内に何者かが囁くような声が聞こえてきた。

 その声に耳を傾ける。

 すると声の主は言っていた。

 “よく見ろ”と。


 何を言ってるのかはわからない。

 ただ、めちゃくちゃな今の状況で縋るのはこの声しかないと確信した。

 このスローモーな世界で一転集中する。

 エクスキューショナーの魔力の流れ、駆動するパーツの軋み具合。

 俺ならわかる。

 連動するそれらの構成がどのような動きをするのか。

 それが脳内に流れ込んでくる。

 いくら相手が早かろうと、その動きに合わせて攻撃を与えればいいのだ。

 蓄積されたダメージと、動きが鈍くなった体を無理やり奮い立たせ、動かす力を無理やり捻出させる。

 そして渾身の一撃を叩きこんで……。

 体力の限界が訪れる。

 最善は尽くしたのだ……。

 その後意識がふっと遠のいた。

 

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