第78話 ギルドカードを作ろう
太陽が空の天辺を目指し上っている。
大体前の世界でいうところの午前9時とか10時とかそのぐらいの時間だろう。
そもそも太陽というものなのかよくわからないのだけどな。
俺はフェリシア、ロイスと一緒にギルドに向かった。
最初は少しぎこちなかったフェリシアの歩き方も、到着する頃には自然な感じで歩けるようになっていた。
この調子なら問題なさそうだ。
「私、ギルドって来るの初めてです」
「そういえば私も来るのは初めてかもしれんな」
「ロイスが初めてだと驚きだな」
「大体のことは城で済んでしまうからな必要なかったのだ」
建物の内部に入るとやはり右側の食事処ではワイワイと昼間から酒を飲んでいる連中がいる。
のんきな奴らだ。
料理の香りに少し釣られるがここは我慢する。
用事があるのは左側の受付だからな。
とりあえず金になりそうなものは金にしたい。
「じゃあまずさっき話していた金属が売れるか聞いてみるか、あとはフェリシアのギルドカードも作っておいた方がよさそうだな」
「は、はい!」
「んー私も作っておいた方がいいのだろうか?」
「お前も持っていないのか」
そう言えばブラックナイトのラフタルもギルドカードを持ってなかったな。
ダンジョンを探索する必要はないから、いらないのかもしれない。
「聖騎士の私には必要のないものだからな!」
「……そうですか」
めんどくさいのであまりつっこまないようにする。
「そんなめんどくさそうな顔をしないでくれ!? 私も作っておくぞ! ギルドカードがないとここで素材の取引とかできないからな!」
「ロイスはなんか勝手にしてくれ……」
あはは、とフェリシアが笑っているのが見えた。
受付では数人の受付嬢がテキパキと仕事をこなしている様子が見えた。
まだ朝だというのにそこそこの冒険者がいて忙しそうだ。
彼らはダンジョンからとってきたであろう素材を引き渡し、代わりに金銭を貰っている。
朝一で潜って昼間はゆったりしたい、とかそういうことなんだろうか?
ある程度の実力がある人ならぼろい商売なのかもしれない。
何せ昼間から酒場でワイワイしているのだ。
俺もそんな生活を送りたい……。
そんなことを考えていると受付の方で手を振っている人が見えた。
前に対応してくれたベンタナさんだ。
ウェスタンチックなギルドの制服がよく似合うお姉さん。
茶色見がかったロングヘアーとやさしい瞳がかわいらしい。
でも話が長いんだよなぁそこさえなければいいんだが……。
たぶんこっちに来てくれと言う合図なのだろう。
特に避ける必要もないし、彼女にお願いするとしようか。
「おはようございます! 今日はどういったご用件でしょうか?」
ハキハキとした挨拶をしてくれる。
朝っぱらからこんな感じなのだろうか?
でもこういう元気なふるまいはこちらも元気にしてくれるからありがたい。
端的に来た目的を話す。
「おはようございます。 今日は素材の換金と、この子のギルドカードを作って欲しくて来ました」
「如月! 私のギルドカードも作るのだぞ!?」
「あー……あとこいつのギルドカードもお願いします」
「さっき話したではないか!? どうして忘れた振りをするのだ!?」
「いやなんかめんどくさくてな」
「うう……フェリシアと私の扱いの違いは一体何なのだ……」
クスッっとベンタナさんが笑う。
「いい仲間と巡り会えたようですね。 ダンジョンでは一人だとどうしても対応できない出来事や、事故が起こる可能性があります。 やはりそういう観点からも信頼しあえる仲間って重要なんですよね」
「いや、でもこいつはいないほうがマシかもしれない」
「そんなことは言わずに彼女を信頼してみてもいいかもしれませんよ? いつか彼女がいて良かったと思える日が来るかもしれませんし」
「そういうもんなのかねぇ……」
「まぁ私、受付嬢なのでよくわかりませんが! それっぽいことを言ってみたかっただけです。 それに彼女はかなり強そうに見えますけど……」
ベンタナの表情が固まり、言葉が止まる。
何かすごいものを見て呆然としてる感じだ。
「って、聖騎士のロイスさんじゃないですか!?」
「そうだが?」
「そうだが? じゃないですよ!? なんでこんなギルドに来てるんですか!?」
「俺もよくわからない」
「如月はわかっているだろう!? 私はギルドカードが欲しいのだ、それがないとここの施設は使えんだろう!?」
あわあわした表情でこちらを見てくるベンタナ。
別に俺を見ても何も変わらないぞ。
「聖騎士のロイスさんがパーティメンバーになっているんですか……?」
「残念ながら……」
「いえいえいえいえ!? そこは嬉しがるところじゃないですか!? 聖騎士と言えば冒険者ランクでいうとSを超えるような人たちですよ!? 普通ならこんなとこにいていい人じゃないですから!?」
「なんかわからんけど、お前の評価がものすごいな」
「当然だ私はすごいのだ」
なんだこの自身過剰な聖騎士は。
前まであんなに落ち込んでいたのに。
「……もしかしてそちらのお嬢さんもとんでもない人だったり?」
「わ、私は普通です……」
少しホッとするような表情を見せるベンタナ。
やはり聖騎士というものはこの国でものすごい存在なのだな。
そんな人がなにげなくパーティメンバーにいたりしたら驚くのも当然か。
実際はそんなに使えない奴なんだが……。
「そういえば、左腕も……」
「ああ、これはアークトゥルスってやつが作ってくれたんだ。 手がなかったのが嘘のように動くから正直めちゃくちゃびっくりした」
ベンタナの目の前でアーティファクトの腕を動かしてみる。
正直なところあまりにもスムーズに動くので、もはや体の一部みたいになっていた。
「ええ!? アークトゥルスさん!? アークトゥルスさんと言えば世界有数の錬金術師と言われる人ですよ!?」
またも驚きの表情を隠せない受付嬢。
変なこと言うんじゃなかった。
「彼の作るアーティファクト一つで豪邸が出来上がるとかそんな噂まであるくらいです。 本当にすごいですね……」
つまりこれを売れば金銭的な問題は無くなるわけなのか。
でも、これを手放すのは惜しい。
このアーティファクトを参考にフェリシアの義足を作ったが、再現できていない部分も多いのだ。
特に細かい指の動きを表現するのは難しい。
エーテルの回路が複雑に重なり合っていて解読ができなかったのだ。
フェリシアの場合は足なのでそこまで細かい動きは必要なかった。
だからどうにか作れたって感じだからな。
「少し興奮して話が脱線してしまいましたね……。 えーご用件は素材の換金とフェリシアさんのギルドカードですね。 ロイスさんのギルドカードはギルド長に相談してきます。 聖騎士ですから特別な試験とかは必要ないはずですので……。 あ、それと戦闘経験に応じてクラスも変更できますので、如月さんのギルドカードもお預かりしましょうか?」
「それでお願いします」
短い返事を返し、ギルドカードを差し出す。
ギルドカードには戦闘経験の情報が蓄積されるらしく、それを元にクラスチェンジすることができるのだそうだ。
そこらへんはあまりよくわかっていないので、暇があるときに詳しく知らべておきたい。
「では、素材の方を受け取りたいのですが出していただいてよろしいでしょうか?」
「ロイスあの2種類の金属出してもらえるか?」
「さっき言ってたやつだな」
ロイスがごそごそとアイテム袋に手をかけ銀色の金属と金色に光る金属を取り出す。
見た目は機械の残骸っていったほうがいいだろう。
果たして売れるのかどうなのか気になるところだ。
「この二つをお願いしたい」
「へぇー金属ですか。 ある程度のものなら私もわかるのですが、これはちょっとわかりませんね。 担当の者がいるので、少々お待ちください」
ベンタナは奥の部屋に消えていった。