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落ちこぼれ現代魔法使いの異世界召喚  作者: 雲珠
第二章 奴隷少女と異世界最深部編
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第38話 魔族の戦闘

 金属でできた肋骨が砕け、よろめく化け物。

 それを見たデネブはじっくりと俺を観察する。


「あの子はあなたが傷をつけることすら不可能なはずなのですが……お見事です」

 

 片目にはめたモノクルを取り、人差し指と親指でつまみつぶす。

 粉々に砕けた破片がキラキラと落ちていった。

 

「もう、このレンズは不要ですね。 あなたの保有するエネルギーの変動は確認できませんでした。 ですが、私のアーティファクトを破壊することができた。 これは、非常に素晴らしい結果です。 つまり、私たちが知りえない何かしらのエネルギーが働いていたことになります。 これがカノープス様がおっしゃられていた魔法……というものなのでしょうか? ふふ、これから忙しくなりそうです」


 突如として現れる光の円。

 それはヤギの化け物を挟み込むように出現し輝く円柱を作り出す。


「ティンカー」


 光り越しに砕けた肋骨が修復されていくのが見える。

 今まで真っ黒な金属光沢をしていた骨の色が変化していく。

 鬣は青くなり、瞳も同じ色に変化する。


「この世界を少し拝見させていただきましたが、不思議なことばかりです。 あなたの使う魔法は最たるものですね。 複雑で応用力が効き、そしてなによりも強い。 そんな戦闘技術はみたことがありませんでした」


 俺に言わせればデネブの力こそ不可解極まりない。

 この世界のスキルもそうだが、何が起こってどうしてそうなっているのか、それが検討もつかないのだ。

 今まさに行われている行動も意味不明。

 光りに包まれている化け物の傷が治り、あまつさえ強化されているような気がする。


「本来、私たち魔族は魔闘気というエネルギー源を用いて戦闘いたします。 一人の魔族には一つの固有属性というものがございまして、例えばカノープス様ですと火を司る固有属性をお持ちになっておりますね。 個人個人が保有している魔闘気の属性はそれ自体が力であり、それ自体が防御壁として機能をいたします」


 あら?

 とデネブは声を出す。

 冒険者の生き残り。

 呆然と立ち尽くす彼女に憎しみの炎が灯ったのだ。

 逃げ出したくなる現実に立ち向かう姿は何とも痛々しい。

 だが、彼女は決死の思いで立ち上がったのだ。

 地面に落ちていた金属製の杖を持ち上げ集中する。

 紅に染まる体からほとばしる火炎。

 その練度から言っても並大抵の冒険者でないことは確かだろう。

 先ほど散っていった仲間たち。

 恐らく彼らも熟練した戦士に違いない。

 ただ、相手が悪かったのだ。


「私の仲間をやったのはお前か!?」

「ふふ、私と言えば私なのかもしれませんね。 でも直接手を下したのは私が生み出したあの子ですよ? 実験中に妨害してくるほうが悪いとは思いませんか?」

「だまれ!!」


 唇を噛みしめる彼女は燃え滾る魔力を高めていく。

 天高く上げた杖の先端に輝く力。

 それを解き放つと、デネブの周囲にダイヤ状の膜が形成される。


「器用なものですね。 炎をこんな形に変化させるとは」

「燃え尽きろ! ファイアクレスト!」


 形成された膜の内側に灼熱の炎が吹き荒れる。

 デネブの姿が隠れてしまうほどの攻撃。

 生身の人間ではひとたまりもないだろう。


「面白いですが、火力が全く足りていないようですね? これでは何の効果もありませんよ?」


 炎の空間から涼しい顔をした魔族が現れた。

 何事もなかったように、必殺の一撃を受け止められる絶望。


「……どうして」

「どうして……と申されても困ってしまいますね。 規定量に達していない攻撃を受けてもどうしようもないことはお判りでしょう?」


 再び地獄の淵へ突き落とされる彼女。

 そんな彼女と目が合った。


「あなたも冒険者でしょ!? あいつをどうにかしてよ!」

「ああ、もちろんだ」


 よくわからないがあの骨の化け物は修復中のようだ。

 先ほどの攻撃が効かなかったのは意外だが、それでも俺のミスリルの剣が効かないとは思えなかった。

 ミスリルの剣は非常に頑丈で固い。

 それでいて魔力を通すと羽のように軽くなる。

 今ではお気に入りの武器になってきているほどだ。


 空中に出現させたバリアを足場にデネブへと急接近。

 正面から切り込んだ。

 肩から横っ腹を引き裂く袈裟斬り。

 しかし、あいつは避けようともしない。

 手ごたえはあった。

 だが、どうしたんだ?

 この違和感は?


 地上から空中へ至るその斬撃はよどみのない一閃であった。

 デネブを眼下にさらに空中でバリアを形成。

 過ぎ去った体を再び地上へ落とすように斬撃も舞い落とす。

 切った感覚はある。

 何故だ?

 何故あいつは笑みを崩さない?


「アクティベイト、ミスティックエンジェル」


 白銀に覆われた金属の天使が現れる。

 顔は仮面に覆われておりその表情を伺うことはできない。

 しかしその姿は見るものを魅了する美しい光沢に包まれていた。


「先ほどお話させていただいた固有属性以外にもよく使われるのがこちらになります。 アーティファクトというものですね。 こちらの世界にもアーティファクトがあるみたいですし珍しいものではないかもしれませんが」


 ……あれがアーティファクト?

 俺もこの世界に来てまだ日は浅いがあんなものがあるのか?


「ちなみにこの子が存在している限り私を倒すことはできなくなります」


 そういうアーティファクトなんですよ。

 と、デネブは付け加えてきた。

 理不尽だと思った。

 倒すことはできない。

 つまり死ななくなるっていうこと。

 そんな性能おかしいだろ。


「さて、不相応な人には消えてもらいましょう。 アクティベイト、デモニックヴァイス」


 冒険者の彼女の足場が瓦解し、2枚の鋼が口を開ける。

 壁のような分厚い鋼に痛々しい図太い針。

 卵を割るように彼女は押しつぶされてこの世から去っていった。


「あと気づいたのは魔眼でしょうか?」


 薬指と中指で瞳を包み込むとオレンジ色の瞳がキラリと光る。

 吸い込まれそうなその色合い。


「恐らくこれも魔族特有のものなのかもしれません。 魔族は生まれながらその瞳に特殊な力を宿して生まれてきます。 私の場合は地味ですがアーティファクトをいじくりまわすことができる魔眼ですね」


 光りに覆われていた化け物が姿を現す。

 先ほどのダークな印象から一変。

 神々しいオーラを放つ聖者のような雰囲気に変化していた。


「素材を変更フルメタルへ、属性変化闇から光へ、斬撃によるダメージ軽減を追加、組成変形荷重軽減措置実行」


 こいつはしゃれにならない。

 得体のしれない力がどんどんと付与されていっている。


「アクティベイト、エンジェルフェザー」


 天使の羽が化け物の周囲を覆う。


「アクティベイト、荒廃のアンク」


 首に十字架のようなアクセサリーが付いたかと思うと、天使の羽が化け物に触れるごとに灰となり消えていく。


「アクティベイト、クロノスブレイカー」


 右手に装備していた武器が無くなり新たな武器へと置換される。

 緑色をしたきれいな剣。

 しかし、それはうわべだけ。

 底の見えない深海を覗くように終わりが見えない。

 触れたらすべてが終わってしまいそうな、そんな存在感。

 あれ自体があの化け物よりも、デネブというあいつよりも明らかに異質なオーラを放っていた。


「アクティベイト、ワールドスレイヤー」


 ……?

 今なんて言った?

 ワールドスレイヤー?

 最近聞いた気がする。

 そうそうアリオーシュが言っていたな。

 そうだそうだ。

 伝説のアーティファクトって言ってた。

 古い伝記に記されていた俺たちが取りに行く予定のあれだ。

 文字の如く世界を切り裂くとかなんとか。

 え?

 なんで持ってるの?

 いやいや、たぶん名前が似てるだけだな。

 伝説のアーティファクトって呼ばれるくらいのものらしいし。

 そんなポンポン出てきても……。


「薙ぎ払ってください」


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