第35話 アーティファクト
アリオーシュからの提案は理にかなっていると思う。
現状、クラスメイトの実力はまだまだ伸び盛りだ。
ダンジョンの奥深くに行きレベルを上げ、力を蓄える。
そして、その力を持って魔王の群生に対抗したいといったところだろう。
俺としてもレベリングをして自分の力を上げておきたい気持ちがある。
ダンジョンとは思った以上に効率良くレベルが上がる。
元の世界での力に加えて、このなぞの法則により地力がどんどん上がっていくのはとても楽しい。
雀の涙ほどしかなかったエーテルの保有量が今では考えられない程あがっている。
レベリングをするだけでこんなふうに力がついて行くのは信じられないことではあるがまぎれもない事実なのだ。
今までもダンジョンへ通ってはいたのだが、勇者たちのペースに合わせ、十分なマージンを取って進んでいた。
簡単な演習という形でダンジョンへ行っていたと言ってもいいだろう。
しかし、最深部を目指すという意味はかなりハードルを上げてきたと言える。
俺たち勇者は特殊なスキルと高いステータスを保有している。
そのため比較的浅い層ではゲーム感覚で探索を進めることができていた。
聖騎士の補助があったとしてもだ。
だが、一般的な冒険者などは特別な力に恵まれているわけではない。
ダンジョン探索はそれこそ死人が出るような危険と隣り合わせの行為なのである。
ダンジョンの最深部へ行くのがどれくらい難しいことなのか、どれくらい危険なことなのかは実際のところはわからない。
いくら勇者といえども死に直面する場面もでてくるかもしれない。
だが、それぐらいの危険を犯さなければ魔王軍へ対抗するのは厳しいと言わざるを得ないだろう。
それともう一つ気になることがある。
アーティファクトというものだ。
ステータスを測定する機械もアーティファクトといわれてた。
前の世界でも似たようなものはあったが性能が段違いに良い。
精々能力を測れたとしても、エーテルの保有量を参照するぐらいだった。
しかし、こちらの世界の測定器は力や防御能力、果てはその者の特別な力まで示してしまう。
とても不思議なアイテムだった。
ダンジョンとはそんなアーティファクトが手に入れられる場所なのだろうか?
少し気になるな。
ひとまずアリオーシュの話に乗っておくか。
「ダンジョンの最深部へ行ってレベリングかなるほどな。 それぐらいの気持ちが無いと対抗できそうにないし、俺も微力ながら協力しよう」
「ありがとうございます如月様」
「それより聞きたいことがあるんだが、アーティファクトって、あのステータスを測る機械以外にも色々あるものなのか?」
「ええ、もちろんでございます」
「なんじゃ貴様アーティファクトも知らんのか?」
ラフタルの横やりが入る。
座学でもアーティファクトについてはまだ説明されていなかった。
わからなくても仕方ないじゃないか。
なんか腹立つなこいつ。
「……まだ教わってないからな」
「ふふん。 我も一つもっておるのじゃ! 特別に見せてやろう!」
そう言うと胸からネックレスに繋げられたアーティファクトを取り出した。
ガラスで出来たような球体の中に独特の造形が施された金色の針が浮いている。
「どうじゃどうじゃ!? かっこいいであろう!」
「へぇ綺麗なもんだな。 で、これ何に使うんだ?」
「わからないのじゃ」
「は?」
「だからわからないのじゃ!」
「いやいや、アーティファクトって何かしら不思議な効果があるアイテムじゃないのか?」
「如月様のおっしゃる通りなのですが、時には役に立たない物もあるということですね」
「あーーーまた馬鹿にしおったなアリオーシュ! これは絶対すごいアーティファクトなのじゃ!」
「も、申し訳ありませんラフタル様」
ぷくぅと頬を膨らませるラフタル。
しかし、どうやら俺の認識している不思議なアイテムというもので間違いなさそうだ。
となると色々な機能を持ったものがあるに違いない。
「ダンジョンや古い遺跡にはこのようなアーティファクトが埋もれているのです。 時には宝箱に、時には魔物を討伐した後に出現いたします。 我々もすべてのアーティファクトの存在を知っているわけではありませんし、機能・性能が不明なものもたくさんあるのです。 特に古い時代のアーティファクトには強力なものが多く、使い方を間違えば世界を破滅に導いてしまうものもあるのです」
思った以上に興味深いものだな。
落ち着いたらそういうのを探してみてもいいかもしれない。
「我々が捜索するのはクトゥグアの円盤とワールドスレイヤーと呼ばれる伝説のアーティファクトです。 クトゥグアの円盤は起動すると周囲を地獄の炎で埋め尽くし一帯に死をばらまくと言われています。 ワールドスレイヤーは文字の如く世界を切り裂くと言われている剣でして、所有者までもその斬撃によって死に至るというアーティファクトらしいです」
……それ使って大丈夫なものなのか?
使ったら死んじゃうよって言ってますけど?
神谷が訪ねる。
「それ危なくないですか?」
「ええ普通に使えば自爆物ですが、一応使い方は古い伝記に記載されていました。 クトゥグアの円盤は起動して敵地に投げ込んで使うそうです。 ワールドスレイヤーも剣として使うのではなく投てきして使う必要があるみたいですね。 最も効果範囲がわからないので、少々賭けにはなるかもしれませんが……」
恐ろしいアイテムがあったもんだな。
アリオーシュの言う通り効果範囲にもよるが、聞いた限りでは恐ろしいことこの上ない。
「その仰々しいアーティファクトがあのラウムのダンジョンにあるのか」
「ええ、その通りです。 現在ラウムのダンジョンの最高到達点は第50階層です。 おそらくこの階層が最深部とみて間違いないでしょう。 かつての勇者が到達した階層と言われていまして、アーティファクトもここに封印されているはずです。 我々は第40階層辺りが限界でしたが勇者様方の力を合わせれば踏破も不可能ではないと考えています」
「大体話の内容はわかったが、第50階層までしかないのか。 てっきり切りのいい100階層くらいまであるのかと思っていたな」
「そう思われるのもしかたないかもしれませんが、第30階層を超えると急激に敵が強くなります。 今までのようにはいかないことでしょう。 我々も危険は十分承知しておりますが、人類の存亡がかかっているのです。 背に腹は代えられません」
「ああ、わかっている」
なんとなくではあるがアリオーシュが気にするほど難しそうな感じはしないな。
俺も一人で第30階層まで進んでいるし。
多少敵は強くなったとしても本気を出せば基本的に一撃。
だからこそ、どんな敵が出てきても何とも言えない気持ちになる。
俺の攻撃を避けるレベルの敵が出てきたら全滅してしまうだろうし。
そんな場面に出くわしたことはないしな。
……いや一人いたけどあいつは例外中の例外だ。
まぁ行ってみないことには何とも言えないというのが本音かな。
「それと如月様に一つ提案があるのですが」
「提案?」
「片腕だと何かと不便ではないですか?」
「いや~もうだいぶ慣れたけどなぁ」
「そうおっしゃらずに」
小さいころから片腕だったんだ。
今更って感じだよな。
「アーティファクトというものはなにもダンジョンや古い遺跡だけで取れるものではないのです。 この国でもアーティファクトの職人がいらっしゃいます。 錬金術師と呼ばれる人たちなのですが、その方に左腕を作ってもらうのはどうでしょう?」
2019/9/8 錬成師を錬金術師に変えました。