第34話 ダンジョンの最深部を目指そう
「アリオオーーーシュ! どこへ行っておったのじゃーー!」
「申し訳ありません。 私も王への説明やら、今後の方針を聖騎士の皆様や勇者様と相談したり忙しかったのです……」
病室に入ってくるなり怒鳴り散らすラフタル。
あいつもかわいそうな奴だな。
尻に敷かれるタイプだぞ。
完全にお世話係じゃないか。
「それよりも、体の調子はよろしいのですか? 本当に酷い状態でしたのでもうダメかもしれないと思いました」
「何を言っておるのじゃ! 痛みも痒みもないぞ!」
「……本当に良かった」
相も変わらず自由奔放にベッドの上を飛び跳ねる少女。
怪我をしていたとかそんな気配は一切感じられない。
だが、アリオーシュの表情からは心の底から安堵しているそんな印象を受ける。
「それとあなた様も無事目覚めたようですね」
琥珀色の瞳がこちらに目線を移す。
「キサラギ様でしたか?」
「そうだが、俺も寝起きで何が何だか頭が追い付いていないんだよな」
「そうですよね。 昨日の今日のことですし」
透き通る瞳には確固たる信念を秘めている。
そんな真っすぐな目をした騎士は話を続ける。
「キサラギ様の体調も大事なのですが、なるべく早く状況を確認しておきたいのです。 昨日何があったのか詳しく教えていただけないでしょうか?」
「僕も病室に付きっ切りでしたので話は聞いておきたいな」
神谷もアリオーシュの話に乗っかってきた。
「私も知りたいぞ! あんな奴に二度とかかわるのはごめんなのだからな!」
「ラフタル様もそうおっしゃるのはわかるのですが、奴らはもう一度ここに来るのです。 それは決定事項でしょう。 そのためにも今できることを精一杯やらなければなりません」
「俺も状況がわからない。 ひとまず今のこの国はどうなっているのか教えてくれないか?」
「かしこまりました」
アリオーシュからはカノープスが出現してから去るまでの一部始終を教えてくれた。
やはりというかとても悲惨な状態だったそうだ。
まずカノープスの出現を確認した聖騎士隊の一個大隊が全滅したこと。
人数にして約500人。
まるで歯が立たなかったそうだ。
話だけを聞くならば聖騎士隊が弱かったと考えられなくもないが、そうではない。
国中のエリートがこぞって集まっている最高峰ともいうべき戦力。
それが見るも無残な状態になり壊滅したのだ。
その現場に駆け付けたのがロイス。
壊滅した後だったそうだ。
現況であるカノープスとはそこで出会い、すぐに何かを見つけたように飛び去って行ったという。
遅れてロイスの兄のマグナス、アリオーシュ、ラフタルが応援に駆け付けたそうだ。
なるほど、俺が城で魔法を打ったらそれにつられてきたわけか。
その後、王城で戦闘の準備をするために帰還。
残りの聖騎士やブラックナイトを集めて戦うことにしたそうだ。
デモンズロードの砦と王城はクリスタルを使うことで転移が可能となる。
そのため、迅速に討伐に向かうことができる予定だった。
しかし王城へ戻ってきたところ、そこは既に火の海と化していた。
負傷者は少ないながらも王城は半壊。
残りの実力者たちに応援を仰いだが、戦闘で討伐するのは困難と判断したそうだ。
そこで考えたのが交渉をすること。
森林地帯で戦闘を繰り広げているカノープスに話し合いを持ちかけようとした。
その先にいたのがボロボロにされている俺だった。
文字通りボロボロにやられていたわけだが……。
しかしその計画は無残にも白紙に返る。
王城の塔で魔法の準備を進めていたヴィネーが容赦なく攻撃を開始したそうだ。
結果は御覧の通り。
カノープスも倒せず、しまいには跳ね返された魔法により塔ごと粉砕。
奇跡的にもヴィネー以外は無傷だった。
当の本人はエーテルの奔流に飲まれひどいありさまだという。
いい気味だ。
当然攻撃を仕掛ければ相手も反撃してくる。
カノープスの攻撃は圧倒的の一言に尽きる。
地面が爆ぜ、地形が変化し、森林地帯が荒野になる。
攻撃はいっさい通らず悪魔のような強さだったという。
だが、不思議なことにこちらにも攻撃が効かないようだった。
俺の特別製の魔法だからな。
そう簡単に破られるわけがない。
応戦するもダメージを一切与えることなく、しばらくしてカノープスは満足したように攻撃をやめたのだそうだ。
そして円をくり抜くように空間がねじ切れ、歪んだ空間から新たな敵が現れた。
名前はデネブと言い、戦意はいっさい感じられなかったという。
しまいにはこちらの傷の様子を伺い心配してくる始末。
その時にくれたのがエリクシルというアイテム。
このアイテムのおかげでラフタルは助かったといっても過言ではないという。
一連の流れはこんな感じ。
だが一つ重要な点がある。
それが魔王の出現だ。
その魔王は軍隊を率いてこの国へ攻めてくるという。
これには約2か月の猶予があるらしい。
もし現実になるのなら、人類の存亡をかけた戦いになることだろう。
カノープスと話した限りでは自分が一番強いということを言っていた。
あいつの話を鵜呑みするつもりはないがなぜか確信が持てる。
しかし魔王と呼ばれるからにはあいつに準じる力が無いとも限らない。
最善の準備をして迎え撃たねばならないのだ。
「おおよそはこんなところでしょうか? 私たちはこれから魔王軍を迎え撃つために一刻の猶予もない状態です」
「……なんとなくだが状況はわかった」
「我に怪我をさせたり癒したりよくわからんやつらじゃのう」
「次にキサラギ様のお話をきかせていただけないでしょうか? 聖騎士隊を全滅させるほどの敵と対峙してどうして生きていられたのか? カノープスと呼ばれる化け物の攻撃がなぜ無効化されていたのか?」
さて、どうしたものか。
本当のことを伝えてしまうのも良い気がするが、まだこの国のことを完全に信じているわけではない。聞いた話だと俺たちを呼び寄せるために何人もの人が犠牲にされたそうだ。人を人と思わないような連中がいることも事実。
そんな連中を助けるために必死に助ける必要はあるのだろうか?
なにより、死にかけるほどの戦いだったのだ。
もし、生き残りを考えた場合に優先すべきはクラスメイトのみんなだろう。
少し冷たい気もするが、この国全てを助けられるほど俺も万能ではない。
それならば……。
「大した話ではないんだけど、俺のスキルってバリアなんですよね」
「それは聞いています」
「つまるところ俺のバリアが特別強いみたいで、守りに特化してるっていうんですかね? あいつの攻撃を受け止めることができたんです」
「もしかしたら攻撃を防がれて興味持たれたかもしれない? ということですか?」
「そんな感じですね」
「一般的にバリアといえば盾等で肩代わりするものなのであまり一般的ではないのですが……」
一呼吸置くアリオーシュ。
なにか考え事をしているようだ。
「たしかに勇者様のレベルになると、おっしゃられたとおり特別なのかもしれませんね」
「ちなみにそのカノープスってやつの攻撃がこちらに効かなかったことはどうしてなのかはわからない。 そうじゃなければこんなにボロボロになるまで戦っていたりしない」
「そうですよね……」
再び沈黙するアリオーシュ。
傍観していた神谷が訪ねる。
「でも如月君のバリアってかなりすごいんじゃないですか? 僕ってよくゲーム好きでやっていたんですけど、鉄壁の守りを持つ人が味方を守ることで、攻撃役はより攻撃に専念することができたんですよね。 僕も味方を回復するとかそういうスキルなので守ってくれる人がいるととても心強いです」
「神谷さんの言うことも一理ありますね。 ですがバリアというものは基本的に自分にしか使えないものなのです。 防御のみが高いだけでは戦場ではすぐに別のターゲットを優先するようになるでしょう。 そうなれば盾役としてはあまり意味がないのです」
「へぇそういうものなんですか。 僕はてっきり味方にバリアを張るとかそんなふうに使うものだと」
「まぁそんな使い方もできるな」
「……え? そんなことができるのですか?」
「できるぞ?」
今まで険しい顔をしていたアリオーシュの表情が晴れていく。
他人にバリアを張れることがすごいことなのか?
「私はあなたの力を見誤っていたようです。 私たちは魔王軍に立ち向かうため今まで以上に強くならねばなりません。 そのためにはより厳しい訓練と戦闘に使えそうなアーティファクトを集める必要があります」
「厳しい戦闘とアーティファクト?」
「はい! 一緒にダンジョンの最深部へ行きましょう!」




