第22話 VS カノープス2
バーンストームは効かなかったが、アイスランスは効いていた。
光属性の攻撃を付与したおかげなのかもしれない。
結局はどっちが正解かわからなかったが、そんなことはもうどうでもいいな。
もう会うこともないだろう。
右手を翳し氷の槍を構える。
星の光を反射する輝きは実に美しい。
それを容赦なく解き放つ。
先端が深く突き刺さるその寸前だった。
カノープスが口を開く。
「……僕を甘く見てもらったら困っちゃうな?」
射出された氷の槍はカノープスの額に直撃した。
しかし、その槍は頭蓋を貫くことなく全身にヒビが入り砕け散る。
全身を貫いていた槍にも同じ現象が起き始めた。
針山のように突き刺さっている氷槍が砕け、傷口がふさがっていく。
「火の属性も操れる、水の属性の攻撃も操れる。 常識外れで困っちゃうなぁ~しかも少し光属性の攻撃も入ってるね。 今の攻撃は何なんだい?」
「見ての通りただの魔法だが……」
どうして効かなくなっている?
いや、まだ慌てるような状況ではない。
実際に効いている魔法もあったのだ。
途中から何かしらの作用を受けて耐性が変化したと考えるべきだろう。
体を再生した能力についてはまだ検討がつかないが、相手の攻撃は俺には届かない。
カノープスは変わらず微笑んでいる。
悪魔の嘲笑って感じだな。
「ふーん。 魔法って言うのか~。 少し魔法っていう概念を教えておくれよ?」
こいつまさか魔法を知らないのか?
それでいてこの強さと訳の分からない防御力と再生能力。
常識的に考えてありえない。
だが、知らないのならば好都合。
バリエーションを増やして、効く攻撃を効率的に与えるだけだ。
「魔法を知らないのか? なら、身を持って知ればいいさ」
イメージするのは轟く雷鳴。
脳内に発動する魔法陣を思い浮かべる。
刹那の時間で組み上げられた精巧な理にエーテルを注ぐことで発動する。
雷を召喚し、対象を黒焦げにするライトニングボルト。
その速度は生物で回避できる者は存在しない。
しかし、カノープスはやはりニヤニヤと余裕の表情を崩さない。
魔法を発動する寸前、奴の緑色の瞳が鈍く光る。
「ライトニング……」
「なるほど今度は雷かな?」
「……ボルト!」
放つ瞬間にピタリと言い当てる。
空気が膨張する音が木霊しゴロゴロと鳴り響く。
青白い稲妻は容赦なくカノープスに降り注いだ。
だが微動だにしない。
まったく効いている様子がなかった。
「やっぱり当たりだー! いくつも属性を使うなんて本当に卑怯極まりないってもんだよ? 」
ッチこれはハズレか?
なら次は風……。
「おおっと? のんびりしている暇はあるのかな?」
尋常じゃないスピード。
既に奴は攻撃に移っていたのだ。
左上段のハイキック。
大丈夫だ反応はできている。
それならば防御は容易だ。
相手に俺の壁を超えることなんてできないんだから。
そんなことを考えていると急に視界が黒くなった。
まぁ夜だし暗いのは当たり前か。
とぼんやり考えていると激しい頭痛が襲ってきた。
天井を仰いで寝そべっていたのだ。
全身に駆け抜ける倦怠感とズキズキとする痛み。
理解が追い付かない。
頭上には大きな穴が出来ており、その隙間からは青い月が見えた。
その傍らに影が見える。
徐々に大きくなっていくそれは緑色の瞳をした悪魔のようにみえた。
ボロボロで無骨な鎌は今では恐ろしく感じる。
そうだ思い出した。
防御する寸前、奴の体がブレたのだ。
恐らくは俺が反応できないほどの超スピードによる攻撃。
ウォールオブディナイアルという防御魔法は発動時間が短く、範囲が狭い。
その性質上相手の攻撃に合わせて起動する必要がある。
つまり、俺が認識できない攻撃は防御することができないということだ。
奴はそれを理解した上で実行したっていうのか?
接近するのはまずい。
距離をとって戦うしかない。
月光を背に受ける黒い影。
奴の頭上には大きく振り上げたひと振りの大鎌が。
背筋に悪寒が走る。
避けることはできない。
「ウォールオブディナイアル!」
寸前で防御魔法を発動させるが、想像を絶するパワーに防御壁が粉砕される。
有り余る力は体に衝撃を伝え、激しく叩きつけられた。
床の強度は耐えられるはずもなく、さらに下層へと落とされる。
なんて攻撃だよ。
ありえねーだろ!
地力が違いすぎる!
落下中にも奴が追い打ちをかけてくる。
その姿は戦闘狂そのもの。
ギラギラと光る緑色の目は、うれしくてたまらない様子が伺える。
空中では身動きが取れないためウォールオブディナイアルの壁を足場に緊急回避し、体勢を整える。
俺とほぼ同時に着地したカノープスは横なぎの斬撃を発生させる。
その一振りは振るうだけで刃を発生させるベタラメとしかいいようのないものだった。
咄嗟にしゃがみ込み鋭い一撃をやりすごす。
やつのスピードをどうにかしなくてはならない。
「グラヴィティポイント!」
対象を中心に超重力を発生させる魔法だ。
グン! っと片膝をつくカノープス。
しかし、その笑顔は変わらなかった。
多少スピードは落ちたものの攻撃は早い。
鎌の攻撃はウォールオブディナイアルの壁を破壊することができるようだった。
それならばエーテルを力のみに変換するインパクトで同じような衝撃を与えればいい。
鎌の攻撃は掌で受け、衝撃を反射、注ぎ込んだエーテルを元に攻撃を受け流す。
横なぎとセットで放たれる蹴りはウォールオブディナイアルの壁で防御する。
鎌と体術を利用した乱舞。
凄まじい速度だが、なんとか追いついていくことができるようになった。
拮抗しているのならば魔法を使える俺が手数で上回る!
防御を抜けられた時のためにホーリィーアーマーを追加で付与。
さらにインパクトで弾いた隙に攻撃魔法を発動する。
「エアカッター!」
文字通りの圧縮された空気の刃だ。
再びカノープスの緑色の目が光る。
「今度は風かな?」
案の定やつに効き目はなかった。
あの目が何かしらの役割を担っているのか?
魔法の構造を解析しているとか?
そんな分析をしているとカノープスの攻撃が徐々に重くなり始める。
インパクトの受け流しにも慣れてきたか。
さらに数度の攻防を繰り返し、衝撃を受け止めきれず後方へ弾き飛ばされる。
重い……!
腹への旋風脚だった。
体術でも防御壁をへし折るほどの圧倒的破壊力。
何枚か壁を突き抜け、背中に壁からの反動が容赦なく伝わる。
防御魔法を掛けていたことに安堵する。
本当に馬鹿げた力である。
危うく意識を持っていかれるところだった。
前の世界でもこんなやつに出会ったことなんかない。
立ち上がろうとするとクラっと眩暈がする。
ダメージの影響もあるが、これはエーテルの使いすぎか……。
「キミはなかなか見所あったけど、もうそろそろ限界かな?」
壁に空いた大きな穴から現れるカノープス。
まだまだあいつは余裕そうだな。
化け物かよ。
ふと周囲を見渡すとステータス測定器が倒れていた。
ここはステータス測定器が置いてある部屋だったか。
ジッーっと紙が印刷されている。
そこにはこう書いてあった。
カノープス
■称号
・魔界の頂点に立つ者
■ステータス
・レベル:3
・体力 :14658
・MP :16723
・攻撃 :25672
・防御 :19152
・素早さ:16933
・魔力 :9434
■スキル
・魔眼エレメンタルヴィジョン
・魔闘気
いや、おかしいだろ!
誤字を修正しました。