第19話 闇の訪れ
ギルドから戻るとステータスの測定器がある部屋へ内緒で侵入し、こっそりとステータスを再測定した。
結果はこんなかんじだった。
■称号
・落ちこぼれの魔法使い
■ステータス
・レベル:48
・体力 :2341
・MP :144
・攻撃 :2017
・防御 :1753
・素早さ:1896
・魔力 :19434
■スキル
・バリア
・魔力操作
MPが144になっている。
初期状態からだと144倍。
恐ろしい成長率である。
今まで苦労していた俺の人生はなんだったのだろうか。
他のクラスの人たちに比べると低いことには変わりないが、それでも自分にとっては十分。
各種ステータスもかなり伸びており、なんだか体が軽くなったそんな印象を受けている。
魔力に至ってはもはやよくわからない状態に。
……まぁそれはいいか。
そんなことより魔法の試し打ちがしたい。
普段、俺が魔法を使うときはバリアを媒体にして空気中のエーテルを吸収し発動している。しかし、ここまで成長すると自らのエーテルを元に魔法を発動することができると思うのだ。
現代魔法での魔法の発動は基本的に魔法陣を描くところから始まる。
ただ、この過程は初歩中の初歩であり、魔法陣を描く過程をいかに省くか、それが上位の魔法使いの鉄則である。
例えば慣れた魔法使いであれば頭の中で魔法陣を作り上げることで魔法を発動することができる。いわゆる、無詠唱というのが有名どころであった。
ただし無詠唱を行うためには完璧なイメージを想像することが重要となり一長一短で身につくものではない。だからこそ上位の魔法使いになるのは並々ならぬ練習が必要であるわけだ。
そんな努力をしなくても簡単に無詠唱で発動する天才もいたりするんだけどね。
まぁそれはさておき、俺もイメージトレーニングは幾度となく行ってきた。
かなり自信があると言っていい。
イメージの具現化がなくてはバリアの形状変化などできないからな。
王城の屋上に移動する。
空には満点の星が空に浮かんでいる。
空気もヒンヤリして心地よい。
では、さっそく試し打ち。
魔法は俺のお気に入りのバーンストームを打ってみよう。
いつもはバリアを展開するが、その魔法陣を頭の中に描く。
エーテルをそのイメージ映像に注ぎ込み、魔法陣を活性化させる。
予想通りここまではスムーズに出来た。
では発動だ。
「バーンストーム!」
炎塊が出現し、爆発的な空気の膨張と、それに合わせて破裂音が轟く。
立ち上る炎は夜の闇を真っ赤に照らし、放射熱が皮膚をピリピリと刺激する。
思った通り簡単に発動することができた。
威力も申し分ない。
やはりこの表示されているステータスは間違いなく反映されているようだ。
元々のステータスが以前の世界の状態であることは間違いない。
つまり、レベルを上げることでゲームのように成長することができるわけだ。
俺は手に力を入れ、ぐっと握りしめる。
自らのエーテルを用いて魔法を打つことができた。
このことに喜びを感じていたからだ。
やはり魔法は素晴らしい。
俺が見放された原因は魔法だったが、幼いころからの夢は変わらなかった。
研鑽された技術の結晶である魔法。
見るものを魅了する芸術の域に達している美しい魔法。
誰かを守るため、任務を達成するために行使される魔法。
周囲のみんなは軽々と、しかも苦もなくそれを発動する。
そんな姿にずっと憧れ続けていた。
そして今、夢が一つ叶ったのだ。
感動せずにはいられない。
固い石造りの床に倒れこむ。
真っ青な月とオレンジ色をした月、燦然と輝く星々。
元の世界と風景は異なるが、その輝きの美しさは変わらない。
ぼーっと空を眺める。
明日も今日と同じ感じでいこうかな。
昼間は下地と末永とダンジョンに。
少しずつだが苦戦し始めてきている。
恐らくだが第20階層を超えると、もっとペースが落ちる気がする。
だからこそ、俺が抜けてしまうわけにはいかない。
二人に負担をかけてしまうだろうから。
自分のことは邪魔にならない夜にゆっくりやるのが一番だ。
もっと俺の力を使えればいいのだが、そもそも元の世界では魔法は秘匿されるべきものだった。
普通の人たちは魔法をファンタジー世界のものだけだと思っていたことだろう。
しかし、裏では世界を守るため、ひっそりとその力が受け継がれてきたのである。
まぁ、異世界に来てばんばん魔法を使っている様子を見ていると、もうどうでもいいような気もしてきているんだけどね。ただ、元々目立ちたくはないし、身勝手に召喚して協力しろというやつらのいいなりにされるのもなんか腑に落ちない。
少し矛盾しているが、他人に認められたいという気持ちも残っている。
家族に見放され、俺を認めてくれる人などいなかった。
しかし、陰ながら人々の助けをしていた如月家の姿に憧れていたのもまた事実なのである。
そんな彼らに近づきたいそんな気持ちがやはりどこかに残っている。
できれば、チートみたいな魔法じゃなく普通の魔法で色々な人に認められたい。
しばらく夜の星を見上げていた。
大気の温度差により揺れる光が心を落ち着けてくれる。
そろそろ戻って寝ようかな。
と思った次の瞬間だった。
ぴりっと空気が張り詰める。
誰かが床に降り立ったような、物音が聞こえたからだ。
王城の兵士たちはあまり屋上にこないし恐らくはクラスメイトの誰かだろう。
しかし、こんな夜遅くに一体誰が……。
屋上の淵に人影が見えた。
……クラスメイトではないな。
暗い影で隠れていた姿が月の光に照らされ鮮明になっていく。
コツコツと足音が響かせ奴は近づいてきた。
真っ黒のピエロのような衣装を身にまとい、背丈ほどの大きさの鎌をガリガリと引きずっていた。
その姿はまさに死神。
青白い肌に独特の化粧がさらに怪しさを引き立てる。
「やあ! 君もニンゲンだね?」
そいつは満面の笑みでそう言った。