第六話 悪いセールスマン
(作者註:この作品は『星空文庫』さんに「新しいゲーム」というタイトルで掲載したものです)
惑星ファミリアを訪れた凄腕セールスマンが売りつけたものは……
セールスマンはプラス思考じゃなきゃいけねえ。よく言われるように、靴のセールスマンが裸足の部族のところに行ったら、大喜びしなきゃいけねえ。おれだって、伊達に銀河を股にかけて商売してるわけじゃねえんだ。大抵の惑星じゃあ、うまいことボロ儲けしてきたさ。だが、この惑星に着いた時は、ブッたまげたぜ。
宇宙からの見た目は地球と似てるし、データによると住民はヒューマノイドだ。こいつは楽勝だと思ったよ。
自家用ロケットを宙港に着け、とりあえず入管で手続きをしようと思ってハッチを開けたら、住民に取り囲まれてるじゃねえか。代表らしい人物が何か叫んでるんで、あわてて自動通訳機のスイッチを入れたよ。
「ようこそ兄弟。この惑星ファミリアに到着した瞬間から、おめさんもわしらの兄弟ずら。何の遠慮もいらねえ。自分の家だと思って過ごしてけろよ。わしはヨーゼフずら」
「何だか知らねえが、歓迎ありがとよ。おれはサブローだ。とりあえず、入管に案内してくれよ」
「いやいや、そんなものはねえ。サブロー兄弟だって、家に帰って来るのに、別に手続きなぞいらねえずら。何はともあれ、わしの家に食事の用意がしてあるずら。好きなだけ食べてけろ」
家族同然、というのは、当然比喩だと思っていたが、ヨーゼフの家について、それがまぎれもない事実であることを知った。おれ用の部屋があり、おれ用の食器があり、おれ用のパジャマがあった。食事もヨーゼフの家族と同じテーブルだった。
ところが、外来の客を家族で歓待する文化なのかと思ったら、その同じテーブルに座っているのは、実はヨーゼフの家族でも何でもない、通りすがりの住民だという。
「いやいや、他人じゃねえずら。わしらはすべて兄弟姉妹ずら。惑星ファミリアには、他人なんか一人もいねえよ」
ヨーゼフは上機嫌にそう言うのだ。
食べ終わった一人が抜けると、またそこに、別の住民がやって来て座り、料理を食べ始めた。ヨーゼフがどれほど金持ちなのか知らないが、これではいずれ破産するのではないか。おれが当然の疑問をぶつけると、その答えは想定外だった。
「それがわしの仕事ずら。ここは、わしの家でもあるが、レストランでも、ホテルでもあるずらよ」
それから一週間滞在してわかったのは、このファミリアという惑星には貨幣経済というものがなく、すべてが共用されている、ということだった。
早い話、ヨーゼフは食事の材料を仕入れなくとも、誰かが肉を、誰かが野菜を、誰かが魚を、勝手に持ってきて置いていくのだ。
衣食住、すべてが無料だから、何もしなくても生きて行けるのだろうが、家族にも役割があるように、ある者はタダで服を作り、ある者はタダで乗り物を運転し、ある者はタダで子供に勉強を教えるのである。
おれは困った。これでは商売にならないじゃないか。いや、待てよ。
「なあ、ヨーゼフ。面白いゲームがあるんだが、やらないか」
「どんなゲームずらか?」
「ここに数字の入った円盤がある。これを回すと、この玉が転がって、やがて止まる。その数字を当てっこするのさ」
「何だか、面白そうずら」
「そうだろう。当たった方は、このプラスチックのチップをもらえるんだ。な、簡単だろう」
「ルールが今ひとつわからねえけど、やってみるずら」
「あんたが面白いと思ったら、ワンセット譲るよ。まあ、セットの追加は有料になるけどな」
そして、一ヶ月後。
惑星ファミリアにはたくさんのカジノが建ち並び、貨幣経済が発達し、家族的な信頼関係は崩れ、遊ぶ金欲しさにサラ金から借金するヤツばかりになった。
おかげで、またしてもおれはボロ儲けしたってわけさ。いや、ホントだぜ。




