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第十三話 トリプル披露宴

宇宙人の披露宴で、乾杯の挨拶を頼まれた安居は……

『ンゴロ家・アチャリ家・スポバラ家 結婚披露宴ひろうえん』という表示が出ている会場の前で、礼服を着た男が携帯電話で話しながら、行ったり来たりしていた。

「無理ですよ、部長。代わりに乾杯の挨拶あいさつなんて。そりゃ、確かに、ゴロゲンくんの直属の上司はわたしですけど。トリプレット星人の風俗習慣は不勉強ですし。いやいや、地球人相手の挨拶あいさつだって、部長ほどこなしてませんよ。うーん、わかりました。なんとか話してみましょう。でも、何か失礼があっても、責任取れませんよ。はい、ええ、わかりました」

 電話を切ると、「間に合いそうにないから、乾杯の発声だけやっといてくれなんて、無責任すぎるよ。まったく、もう」とつぶやいた。

 そこへ、司会者の女性が心配して様子を見に来た。

「あの、間もなく開宴ですが、乾杯のご挨拶をされる方は、大丈夫でしょうか?」

「いえ、すみませんが、間に合わないようでして。わたしがわりに。安居やすいといいます」

「では、安居さま、よろしくお願いしますね」

「あ、はい」

 会場に入るなり、安居はものすごい異臭にたじろいだ。すでに乾杯の準備が始まっており、あちこちで「うっ」などと言って鼻をつまむ地球人の姿が目についた。それについて、司会者から説明があった。

「ただいま乾杯の準備を進めておりますが、地球人のお客さまにはシャンパンを、トリプレット星人のお客さまにはアンモニア水をおぎしております。アンモニア水の濃度は人体に無害なレベルですが、万が一、間違いがございましたら、ご遠慮なく係りの者にお申し出くださいませ」

 続いて、同じ内容と思われるトリプレット語の案内が流れた。自動同時通訳システムらしい。おそらく、『アンモニア水の濃度は』のところは、『アルコールの濃度は』に変えているのだろう。

「それでは乾杯のご発声を、本日ご結婚されるお一人でいらっしゃいます、ンゴロ・ゴロゲンさまの上司に当たられます、安居さまにお願い申し上げます」

 安居は鼻をつまみたくなる衝動しょうどうをこらえ、スタンドマイクの前に立った。

「えー、ただいまご紹介にあずかりました、ギャラクシー電機の安居と申します。本来なら、部長の高山がご挨拶をさせていただくはずでしたが、よんどころない事情で遅れておりまして、わたくしがこの大役たいやくつとめさせていただきます。若輩者じゃくはいものですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。ゴロゲンくん、パチャさん、ボンさん、おめでとう。そして、ンゴロ家・アチャリ家・スポバラ家ご両家の、あ、いえ、ご三家の皆さま方、まことにおめでとうございます。さて、新郎の、あ、いや、えーと、結婚されるお一人の、ゴロゲンくんが当社に地球外研修生として来ましたのは三年前でございます。優秀で真面目な男、あ、いえ、トリプレット人でした。すぐに本採用となり、バリバリ仕事をこなしておったのですが、数か月前、突然結婚をするという話を聞きました。しかも、できる限り地球風の披露宴をしたいと、三人で話し合ったと言うんです。わたしは最初、ご両親と話し合ったとばかり思っていたんですが、あとの二人とは結婚相手のことだと聞いて驚きました。ご存知のとおり、われわれ地球人には男性と女性の二つしか性がございません。二つしかなくてもいろいろ面倒なのに、三つもあったら、そりゃもう、あ、いえ、おほん、おほん。大変だなあと。もちろん、愛は宇宙に普遍のものでしょうから、ぜひ幸せになりなさいと祝福しました。そして、結婚する以上は、相手を一途いちずに、あ、いや、ニ途にずに愛しなさいと申しました。三角関係になったり、あ、違いました、四角関係や五角関係や六角関係、ええと、ええと、つまり、浮気なんかしないようにと申し上げました。えー、長くなってしまいました。結婚される三人の幸せと、ご両家の、あ、いえ、ご三家の、ますますの発展を祈念きねんいたしまして、乾杯!」

 ようやく緊張から解放された安居は、渡されたグラスを一気いっきに飲み干した。

 だが、ホテル側の手違いで、安居のグラスにはアンモニア水が入っていたのである。

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