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第十一話 歩きステマはやめましょう

通勤途中の小林が耳にしたものとは……

 朝、小林はいつものように駅を出て、徒歩で会社に向かっていた。本当は自転車の方が楽なのだが、度々たびたび盗難にあい、仕方なく歩くことにしたのだ。

 最初の信号が赤になり、立ち止まってスマホを見た。相変わらず広告が多い。最近は、一見すると広告とわからないような広告も増えた。

 その時、隣に立っていた女子高生たちの話が耳に入った。

「ねえねえ、ジュビダバっていいよね」

「あたしもそう思う」

 はて、新しいバンドなのか、ゲームソフトなのか、ジュビダバとは何だろうと、小林は首をかしげた。

「ユッコなんか、5キロもせたらしいよ」

「それ、ヤバくない?」

 この場合のヤバイは、たぶん、いい方の意味だろう。すると、新しいダイエット食品なのかと、小林は想像した。

「それに美味おいしいし」

(やっぱりそうだ)

「あたしなんか、毎日飲んでるよ」

(ちょっと違った、飲み物か。だが、ジュビダバなんて聞いたことないな。若者に流行はやってるんだろうか)

 信号が青に変わり、急いでいる小林は、しゃべりながら歩く女子高生らと自然に離れた。

 次の角を曲がるとき、立ち話をしている主婦たちの声が聞こえた。

「ジュビダバって美肌効果もあるのよ。お通じも良くなるし」

「肩こりや、冷え性にもいいんですって」

(ふーん。年齢問わず、女性に流行っている飲み物らしい。会社に着いたら、こっそりネットで調べてみるか)

 会社が入っているオフィスビルが見えてきたあたりで、同じ方向に歩いて行くサラリーマン風の男たちが、やや棒読みな感じでしゃべっているのに気付いた。

「そうさ。ジュビダバは二日酔いにも効くんだ。パソコン疲れにもいいらしい」

「そうか。それなら、ぜひ、ぼくも今度飲んでみよう」

(なんだこりゃ。明らかに変だ。ワザとらし過ぎる。ははあん、これってあれだ。ステルスマーケティングとかいうやつだ。略して、ステマだな。みんな広告代理店か何かに雇われているんだろう。それにしても、どこがステルスだよ。あからさまじゃないか)

 小林はちょっと苦笑してしまった。

 その後は何事もなく、会社に着いた。すると、顔見知りの守衛が「朝のミーティングがあるって、みんな急いでたよ」と教えてくれた。

(しまった。今日は社長の訓示くんじがある日だった)

 小林がオフィスに入って行くと、すでに全員が立って整列していた。課長の鋭い視線を痛いほど浴びながら、列の後ろに並んだ。幸い、社長の話はこれから始まるところだった。

「諸君、おはよう。今期の営業成績の話を始める前に、一つ言って置きたいことがある。これはまったくわしの個人的感想なのだが、ジュビダバというものを飲んで血圧がグッと下がったよ。腰の痛みも軽くなった。さらに……」

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