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落下曲線  作者: 伏見さおり
1/1

落下曲線 情

 なぜ学校なんてあるのだろうか。

 屋上から見える大きな青空のもとで、ヨレヨレのカッターシャツをズボンから、だらしなく出したまま寝転んで考える。

 そもそも今学んでいる勉学なんて必要になる時が本当にくるのだろうか。誰かが言っていたが「無駄こそ人生を構成する大きな要素である」なんてまるで、「君の人生ほとんど無駄だね」みたいに聞こえてしまう僕はひねくれ者なんだろうか。

 そう言いたい気持ちもわかるのだけれど人間だれでも「何かしらの才能があるんじゃないか…?」だったり「うちの子天才!」なんてことを言わずもがなに抱いているのは言うまでもない。

 そういえばそういう面では日本人は謙遜してしまう国民性だそうだ。謙遜と言っては聞こえがいいだろうが、身内をけなしたりするのなんて日本人しかいないとまで言っていた人がいた。堂々と自慢すればいいのにと思ってしまう反面、相手は謙遜しているのにこっちだけ身内自慢なんて周りから見て痛い人どころか、下手したらみんな敵に回しているようなものだろう。

 相手が態度に出してくれればまだいいものの、後々自分の失態に気づいたなんてことがあったら死にたくなるのではないだろうか。まあ自慢することがあればの話だろうが。

 しかし自分は自分の将来に何の希望も見いだせないので、授業をさぼってまで日向ぼっこに興じているわけだ。

 屋上は昼休みや放課後は普段来ないからいざ知らず、授業中にはまず誰かが来ることもないし。

 空は近いし、風は気持ちいいし日向ぼっこに最適すぎる場所だ。というかむしろ日向ぼっこをしてストレスを発散するための施設何ではないだろうか…ないな。

 にしても空って近くに見えるのに遠くにも見える不思議なものだと思う。というか空って体現的に空があるわけじゃなく、人間がここからここまでは”空”って決めたから見えるというのもおかしな表現だろう。

 あー生身で大気圏突入したら楽しいだろうなぁ…。

「大気圏にさ~ 突入してみたいと 思う~♪ 真っ赤な光に 包まれてきれい♪」

「なーに物騒な歌うたってるのかな?」

 突然声かけられたことによって僕は咄嗟に

「いだっ!」

 ビクッとなって床に頭をぶつけてしまった。

「だっさ…大丈夫?」

「うるさいな…脅かすから」

 差し出された手は白く透き通った肌で綺麗だったというのが第一印象だ。

「そういえば今授業時間なのになんで生徒が屋上にいるの?」

「ん~君と一緒かなぁ」

 ああ、大方さぼりなのはわかっていたけれど。

 ズボンについていた汚れを軽く払って目の前の女性の顔を見た。

 黒いロングの髪の毛に白いカチューシャをしていた。

「見たことない顔だね、新入生?それとも先輩?」

「同級生だよ一応ね」

 彼女はそう答えると僕がさっきまで寝転んでいたあたりに腰を下ろした。

「イスくらい置いてくれればいいになぁ…そうだ椅子になって」

「いやだよ!なんで初対面の生徒にそんなことしなきゃダメなんだよ!」

「あれ?こういうのは喜んで受けるのが男子高校生の常識なんじゃないの!?」

「いや!その常識どこで学んだの!」

「アニメとか…?」

 最近のアニメは俺TUEEEものか主人公がヒロインに虐げられるのが流行りなのか!?

 いやだ、いやだ絶対ほのぼの系か日常物が最高なんだ!

 特にきん○○モザイクとかの○の○びよりとか最高じゃないですか。

「おーいどうしたー?帰ってこーい」

「ハイ、ただいま」

「ハイ、お帰り。昼寝にする?日向ぼっこにする?それともの♡ん♡び♡り?」

「それどれも現状維持じゃん…」

「でもさ、みんなが勉強しているときにさぼるってなんだか優越感を感じたりしない?」

「んーそれは確かに。休日とかだと無駄に時間を過ごしていくのはもったいなく感じるけど、ほかの人ががんばっている時間を無駄に過ごすのはなぜか気持ちいいよね」

 まあ結局損しているのはさぼってるほうなのだけれども、それを言い始めたらさぼる喜びも半減するのは言うまでもない。

 だからこそさぼり魔は今を一番重要として考えるのだ。

「あー、もう夕暮れだね。そろそろかなぁ…」

「ん、そろそろって何が?」

「私たちの高校、つまり皆越西には七不思議があるんだよ」

「聞いたことないなぁ…女子ってそういう話好きだよね」

 女子って男子以上にそういうオカルトとか人間ならざる者とか、科学的に証明できないものとかが好きな気がする。特にこの年代の女子は。

「例えばね、真実鏡ってのがあってその鏡の前では嘘はつけないんだってさ」

 そんな便利なものがあればうそ発見器もお役御免だな。

「他にはトイレの戻り子さん」

「花子さんじゃなくて?」

「うん、戻り子さんにお願いすると一度だけ過去へ戻れるらしいよ。でも結果を変えたりはできなんだってさ」

「それって意味あるのかな…?」

「それでね私が待っているのは自殺する女子生徒の霊なんだよ」

「自殺なんてこの学校にあったっけ?」

 僕は結構用心深い人間だ。だから入学前に学校の情報とかは入念にネットや知人を使ってリサーチ済みなのだがその中に皆越西高校で自殺があったなんて話は一度も聞いたことがない。無論、僕の在学中にそんな事件があったなら知らなはずがないと思う。

「オカルト好きなの?」

「んーそういうわけでもないかもしれないけど…あ、もうちょっとで5時だ。そろそろかな」

 あーもうそんな時間になるのかよ。

 スマホをみると3時50分。

「え、もうそんな時間!?」

「んーなんだかんだ3時すぎくらいから1時間半くらいたっちゃったからねー」

「やばっ!部活あるんだった!ごめん俺行くわ!」

「んーいってらっしゃーい」

 僕は彼女を背中に走り出し、階段を駆け下りていった。

 スマホをもう一度確認すると51分になっていた。


 _____________________________________

52分

 僕は階段を躓きつつも全速力で駆け下りた。

 3階建てのこの校舎の屋上は4階ということになるので何度も踊り場で切り返しつつ2段飛ばしで走る。

 部室は校舎の裏にあるプレハブの小屋なので一度校舎外に出る必要があるからだ。運動部で野外というのはこれがあるからめんどくさい。

 すでに一部の部活は始まっているようだが、僕らペタンク部はまだ練習してはいなかった。まあ練習といっても本格的なことは土日に市民公園で練習するため、今日は5時からの部会だけだった。


54分。

 やっと校舎の入り口までやってきた。下駄箱を開けるとなにか封筒のようなものが入っていた。

「え、これってもしかしてラブレター…!?」

 どうしよう。

 そういうものは生まれてこの方もらったことがない俺にとっては一大イベントだ…だがここは部活を優先してとりあえずカバンにしまっておこう。

 家に帰って一人で堪能させてもらうことにしようか。


57分。

 これはぎりぎりセーフだろ。

 猛ダッシュで校舎の裏の部室のプレハブ小屋までやってきた。

 校舎からは50mくらい離れているので軽く息が切れてしまった。

 ここまで来ればもうゆっくりドアを開けて堂々として部室内に入ればいいだけの話さっ!

 ガチャっ…あれ?

「鍵かかってる…誰もまだ来てないのか?」

 おかしいな…特に携帯に連絡も来てないし。

 んー…とりあえずちょっとだけでも待ってみるか。


5時00分。

「誰かしらそろそろ来てもいいころなんだけど」

 そういえば自殺しようとする幽霊が出るのってそろそろか。

 まあそんなものどうせ都市伝説みたいなものだし嘘っぱちだろうと思いつつも、僕は校舎屋上を見上げる。

「!?」

 誰かがフェンスに上っているのがわかる。

「あれって…さっきの…確か名前は」

 あ、そういえば自己紹介お互いにしてなかった…。

「え、えーと…危ない!やめるんだ!」

 大声で叫ぶ。

 とりあえず辞めさせないと大変なことになるということだけはわかった。

 さっきの感じからして自殺はなさそうだけどもしかしたら、幽霊が見えたとかで写真でも撮ろうとしているのかもしれない。

 その瞬間だった。

 彼女は飛び降りたのだ。

 落ちたのではなくさっきは確実に故意に。

 瞬間的に僕の体は落下地点に向かって走り出した。が数秒立たないうちに彼女の体は地面に直撃しそうになった。

 さすがに直撃する瞬間を僕の目は、見ようとせずに目を背けてしまった。

 そして訪れる静寂。

 かすかに聞こえるのは校舎を挟んで逆側のグラウンドにいる野球部の声だけだった。


 無音。


 そう、落下音がしなかった。

「あれ?落ちたよね」

 振り返ってみるとそこには彼女の姿は跡形もなく消え去っていた。

 もちろん屋上にも。

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